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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅲ
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第93話 新たな目標



「キタァァァ!! ≪スターブライト・ギャラクシア・ストーム≫!!」



 実況者の声がマイクを通して会場に響き渡った。

 周辺にある使用済みの魔力―――「魔力粒子」の嵐の中に相手を閉じ込め攻撃を行う魔法≪スターブライト・ギャラクシア・ストーム≫。

 内部の相手は飛び交う粒子の直撃によってダメージを受ける。粒子単体では大した威力はない。しかし、その数が無数になることによってダメージは増し、結果的に威力の高い魔法となる



「これは抜け出すことが出来ないかぁぁぁ!?」



 その言葉の通り魔法を受けている相手はその嵐から逃れることが出来ず、ダメージを受け続けている。

 その数秒後、発動者と相手、二人の足元から魔法陣が消え去り、その瞬間、魔法は解除された。フィールドには発動者が立っており、魔法を受けた相手は地面に倒れている。

 それはつまり――勝敗が決まったということ



「ハァ……ハァ……」



 春人が荒れた呼吸を何とか整える。そして



「決着ーーー!! 勝者はチーム「エレメント」の水上春人選手。これにより優勝はチーム「エレメント」に決まりました!!」



 フィードの周囲から歓声と拍手が響き渡る中「水上春人」は倒れた相手の手を取って身体を起こす



「おめでとう。負けたのは悔しいけど、完敗だった。ファンタジア学園の代表として頑張ってくれよ、水上」


「あぁ。任せてくれ」



 両者は握手を交わし、それぞれ背後に設置されたチームメンバー観戦席へと歩いて行く



「『やりましたね、ハル!! 優勝ですよ、優勝!!』」


「そうだな。ありがとう、弥生。戦闘中のサポート助かったよ」


「『どういたしましてです。あっ、ハル。観客席ベンチで良太とリクが手を振ってくれてますよ。ハルも振り返さなきゃです』」


「えっ、でもみんなが見てる前で恥ずかしいし……。いや、今日ぐらいはアリかな」



 戦いへの勝利、そして大会優勝によって心の弾んでいた春人は躊躇いを見せながらも仲間たちに向かって手を振りかえす。その姿が建物に隠れて見えなくなるまで歓声と拍手が鳴り止むことはない。

 ファンタジア学園で行われたマジック・バトル・フェスティバルの選考会はチーム「エレメント」の優勝という結果で幕を閉じた



☆     ☆     ☆     ☆     ☆


 優勝から数時間後、俺たちは食堂に集まっていた。

 数日間、行われた「マジックバトルフェスティバル」出場チームを決める選考会。その慰労会だ。選考会に参加した生徒全員が対象であり、無料ということもあってかなりの人数が集まっている。

 目の前に広がっている様々な料理たち。普段、学食で食べられるモノや学園内の喫茶店「ブラウン」の料理が並んでいる



「とりあえず選考会は終わった。まずは一段落だな。というわけで……ふむ、美味いな」


「あーっ、なんでもう飲んでんだよ。ずりぃぞ、ぬーちゃん!!」



 ビールに口を付ける沼島先生を見て、良太が負けじと勢いよくジュースを飲む。

 レッドオレンジソーダ。レッドオレンジは魔法国で採れる「色持ち」と呼ばれるシリーズの果物だ。色によって味の傾向があり、赤は辛みが強い証拠。その赤の中でもレッドオレンジは少々辛いというレベル。

 そこに強い炭酸水を加えたのがレッドオレンジソーダであり、その少しの辛さと強い炭酸が良太にとっては魅力的らしい



「ったく、このおサルさんはなんでそんなことで張り合ってるのかしら……」


「今日はおめでたい日ですから。大目にみてあげましょう、鈴さん」


「それに騒がしさこそがアイツの長所だ。むしろ黙りきっている方が違和感がある」


「まぁ、それもそうね」



 鈴がため息をこぼしつつも微笑んでみせた。それがまるで母親のようで少し笑ってしまう。

 けれども、リクは違っていた。

 沼島先生や良太の飲む姿と自分の目の前に置かれたコップ、その二つに交互に視線を向けている。それから隣に座った陽花さんの服を軽く引っ張って、彼女に話しかけた



「ねぇねぇ、陽花。ぼくたちもはやく食べようよ」


「ふふっ、そうだね。それじゃあハルくん、挨拶をどうぞ」


「お、俺ですか!?」


「それはそうだよ。ハルくんはこの「エレメント」のリーダーなわけだし」


「よっしゃ、ハル!! 一発ナイスな挨拶頼んだぜ!!」


「いやいや、ナイスな挨拶ってなんだよ」



 良太の言葉に苦笑しながら立ち上がった。すると今から何をするのか察したらしく、周囲の生徒たちも会話を止め、こちらに視線を向けてくる。

 妙に緊張する。しかも挨拶自体、考えていない。

 だが陽花さんの言う通り、リーダーとして一応だとしても挨拶はしておいた方が良いだろう。

 こんな事なら考えとけばよかったな……なんて反省をしつつ、とりあえず頭に浮かんだ無難な挨拶を整理して口に出してみる



「えーっと、まずはみんな。お疲れ……」


「お前ら、選考会ご苦労だった。今はゆっくり休んでたっぷり食え。いいな?」


「って、沼島先生!?」


「長い挨拶はダルいからな。さっさと済ませる。ほら、いいところは残しておいたんだ。あとの一声はお前の仕事だ」


「……はい。それじゃあ、みんな……乾杯」


「乾杯!!」



 コップやグラスがぶつかり、独特の音が食堂中に鳴り響いた。更に辺りを見ればみんなが祝福してくれている。

 それがとても嬉しくて。緩む頬を隠しきれないまま席に座った



「まぁ、堅苦しい挨拶は違和感あったし、これが俺たちらしいかな」


「お疲れ様でした、ハル。バッチリな挨拶でしたよ」


「ほとんど……9割ぐらいは沼島先生にもっていかれちゃったけどな」


「それでもです。はい、どうぞ」



 弥生がいくつかの料理を皿に取って渡してくれる。普段、料理の中で盛り付けもやってくれているからだろうか、手際が良い。だけど、今回気になったのはそれだけじゃない。

 揺れ動く蒼の髪。少し長くなっている気がする。それがとても綺麗で可愛らしくて。

 そんなことを考えながら、俺はお礼と共に皿を受け取った



「そういえば弥生、最近、髪が長くなったか?」


「えっ、どうしたんですか急に」


「いや、ふと髪が伸びたなーって思ってさ。普段なら切るような長さになっても切ってないみたいだから、気になって」


「そうだったんですか。正解です。実はちょっと伸ばそうかと思っているんですよ。もしかして、ハルは反対ですか?」


「いや、別に反対なんかしないよ。むしろ、その……良いと思う」


「ほ、ホントですか?」



 弥生の嬉しそうな声に「あぁ」と返事をしながら頷く。

 そんな俺たちの様子を見ていた良太と鈴がニヤリと笑みを浮かべた。マズイ。そして間違いない。あれはイタズラみたいな何か悪いことを思い付いた時の顔だ



「ハルはロングヘアーの子が好みだしな」


「お、おい、良太!?」


「そ、そうなんですか?」


「ゲームでコイツの好みは把握済みだぜ。特にポニーテールやおさげの子がお気に入りになる率が高い!!」


「あら、だったらちょうどよかったじゃない。弥生が髪を伸ばし始めたのはハルにもっと女の子として見てもらうためだし」


「って、鈴!?」


「ふふっ、間違ってはいないでしょ?」



 弥生があたふたとする。つまり、鈴に言われたことは図星だったというわけで。弥生の気持ちは素直に、すごく嬉しかったりする。

 だが、俺も良太に好みを暴露されている関係上、感情の中に恥ずかしさが混ざり合ってしまう



「くそぅ……」


「へへっ、良いじゃねぇか。仲の良いカップルだけが味わえる幸せだぜ? 実はそんなに悪くないだろ? ツンデレのハルちゃん」


「そりゃあ、まぁ……って、誰がツンデレだ、誰が」


「まぁまぁ、ほらほら、飲んで心を落ち着かせろって」


「……誰に心を乱されたと思ってんだよ、ったく」



 良太の言う通りコップに口を付け、一気に飲み干した。恥ずかしさで興奮して熱くなった身体に冷えた飲み物が流れ込んでくる感覚が分かる



「ふふっ、ハルくんったら顔が真っ赤だよ? 可愛いなぁ」


「しょ、しょうがないじゃないですか。仲間の情報をバラすなんて……良太のヤツ覚えてろよ」


「まぁまぁ、そんなにふくれないで。……っと、そういえばハルくん」



 陽花さんが苦笑して見せた。それから話題を変えようと思ってくれたらしく、表情を普段のものへと変える



「決勝戦の最後「スターブライト」を使ってたよね? 綺麗に使えてたけど霊技の操作にはもう慣れた?」


「はい。あの事件のあとから訓練してきましたから。霊技もあの技もだいぶ慣れましたよ」


「……そっか、あの事件から結構経つんだね」



 少し間をおいて発せられた陽花さんの言葉。俺の頭の中で物事が連想されていく。

 ファンタジアで発生した「隠れた契約者事件」から数ヶ月。その間には様々な出来事があった。

 マジック・バトル・フェスティバルへ出場するためのチーム結成はその一つ。そこにはもちろん理由があり、それもまた一つの出来事といえるだろう



「(俺達がマジック・バトル・フェスティバルに挑む理由……か)」



 心の中で呟きながら視線を外へと向ける。もうすぐ暗くなり始めるだろう。少しオレンジ色の空は過去を思い出すのにピッタリに思えた


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