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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ エクストラストーリー アルカディア編
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第8話 憧れ(ヒーロー)



 爆発と黒煙。その二つによって空間には静寂が訪れていた。

 最上階の更に上―――屋上から天井を破壊して現れた霧乃坂誠司。彼の手に持たれたヴァジュランダの刃の光が魔法の発動が終了した事で時間の経過と共に収まっていく



「す、すまない誠司くん。満足に対抗も出来なくて……みっともない所を見せてしまったね」


「いいや、カッコよかったぜ。危険である事を分かっていながら、それでも大切なものを守ろうとした。アンタたちは最高にカッコいいぜ」



 言いながら誠司はニカッと笑みを浮かべる



「ここからは俺に任せな。アンタ達みたいな人のために俺の力がある。アンタ達の大切なものを傷つけようとしたアイツをブッ飛ばしてやる!!」



 天井に空いた穴から瓦礫が落ち尽くしたらしく、コンクリートの崩壊は止まった。同時に様子を伺っていた男が何かを理解したらしく、口を開く



「あの威力の雷撃……そうか。お前がアルカディア学園の特待生、霧乃坂誠司か。だが口が悪ぃな。特待生としての誇りや礼儀正しい丁寧な言葉使いは持ち合わせてねぇのか?」


「特待生としての誇りは持ってる。が生憎、お前みたいなクソ野郎に丁寧語使う礼儀なんて持って無くてな。それよりテメェ、よくも俺の友達ダチたちに手を出してくれたな。ってことは、それなりの覚悟ってのは出来てんだろうなぁ……おい」



 誠司が睨み付ける。しかし男に怯む様子はない。それどころか何か面白さを感じたらしく、嘲笑を浮かべている



友達ダチだと……?お前は学園の生徒だろうが。こんなガキと友達ダチだなんておかしいとは思わないのかよ」


「思わねぇな。そんなもんは関係ねぇ。俺はユウを友達ダチだと思ってるし、ユウだってそう思ってくれてる。だったらそれで俺達は友達ダチって事だろうが」


「ハハッ、そうかよ。だが、いいのか?俺を攻撃すればお前の友達ダチのこのガキは傷つく事になるぜ?」


「―――ッ!!」



 何かを察した誠司は瞬時に雷撃を放った。金色のそれは真っ直ぐ男に向かって行き、回避が取れないであろう距離まで詰め寄る。

 だが男に慌てる様子はない。表情を変えないまま、その手前に盾となる魔法陣を展開する。通常であれば誠司の攻撃を単純な盾で守りきる事はかなり難しい。

 しかしこの時ばかりは違っていた



「―――暴れろ。≪リバイティング・シールダー≫」



 雷撃と盾の接触の瞬間、男が小さく告げると盾は破裂し、雷撃はいくつかに分かれて周囲の壁へと直撃した。複数の爆発に室内が大きく揺れる



「くそっ……。なんだよ、今のは」



 揺れに耐えきった誠司は揺れが収まると共に自分の中に生まれた思考を言葉として出していた。

 この時の誠司には何が起きたのか理解できていない。ただ分かっているのは攻撃が周囲に拡散されたということ。

 目標にダメ―ジは与えられなかったらしく、男は無傷でその場に立っている



「≪リバイティング・シールダー≫、防御魔法の一種だ。攻撃が盾に命中した瞬間、盾もろとも攻撃を破裂、分散させる。分散後の攻撃場所がランダムになっちまうから使い勝手が悪いが……」



 男は握りしめた拳の親指だけを立てて後ろのユウに向ける



「まぁ、場合によってはあのガキに当たる。つまり、お前の攻撃がガキに命中する可能性があるってことだ」


「チッ……面倒な魔法を使いやがって」


「何とでも言えよ。……さて」



 男は後ろを振り返り、ユウを視界に捉える。それから右手を開いてユウに付きつける



「おいガキ、お前の持ってるそれをいい加減こっちによこせ」


「い、イヤだ!!」


「往生際が悪いな。だったら今度は痛い目を見るかよ、このガキ」



 男が右手をユウに向け、攻撃の体勢に入る。その行動に思わず恭一が叫びをあげた



「や、止めろ!!ユウ、それを早く渡すんだ」


「イヤだ……」


「そんな……どうして!?このままじゃアナタが傷つくことになる。分かるでしょう、ユウ。良い子だからそれを早く……」


「イヤだ!!」



 ユウが大きな声でハッキリと拒絶した。瞳からポロポロと涙が零れ身体は若干震えている。しかしキーホルダーを握りしめるその手の力を緩めることはなかった。離す様子は全くない



「ユウ、どうしてなんだ。どうして……」


「だって……だって……」



 ユウは涙を必死に止めて息を吸った。それから想いを言葉にする



「だってあれは、お父さんとお母さんがくれたモノだから」


「えっ……?」


「お父さんとお母さんがぼくのためにくれたモノだから。だから―――絶対に渡さない!!ぼくが……守るんだ!!」


「―――ッ!!」


「ユウ……」



 拳を握りしめる誠司。その隣で「いますぐ抱きしめてやりたい」。そんな気持ちの込められた声色の言葉が恭一から発せられる。

 しかし、それは男にとっては関係のないこと。呆れたように首を軽く左右に振りながら嘲笑う



「感動の家族の絆ごっこはそこまでだ。渡さないんだったら力付くで奪う。それは分かってるよなぁ?」



 男の手がゆっくりとユウに近づいていく。迫り来る恐怖にユウは歯をくいしばり涙を溢しながら、それでも手に込める力は緩めなかった。

 そして―――



「そうだよな」


「―――ッ!!」



 その手がユウに触れる直前、雷撃が男とユウの間に放たれた。男は素早く反応し、後退することでそれを回避する



「チッ、余計なことを……」


「ユウ、お前は大切なモノを守るために勇気を出して頑張ってんだよな。俺はそんなお前を助けたい。あの日、俺が京也さんに助けてもらったみてぇに」


「何をブツブツと。忘れたのか?お前の攻撃は下手すりゃこのガキに当たるんだぜ?」


「ユウを見て分かったんだ」



 誠司が力強く、一歩前に踏み出す



「自分の気持ちを、意志を貫き通す。それこそが俺の想像……魔法だ。だから―――」



 ヴァジュランダを左手に持ち変え、ポケットから魔法カードを取出し視線を向ける。

 譲り受けた国宝級の霊技カード。名前も能力も分からず苦労していたはずだが、今の誠司にその様子は見られない。

 その証拠にカードを持った右腕を横に伸ばして、ロードの構えの体勢に入った



「俺の本質ってのを含むコイツもきっと意志を貫く魔法なんだと思うんだ」



 そして彼は頼もしい笑みをみせる



「さぁ、あの日の憧れヒーローに今度は俺達がなる番だ。カードロード……!!」



 ヴァジュランダが魔法カードを読み込んだ。瞬間、誠司の足元に銀色の魔法陣が描かれた。

 中心に「XVI」の文字が浮かび、同じタイミングで誠司の瞳が魔法陣と同色である銀色の光を放つ。

 彼の手に持たれていたヴァジュランダにも変化が訪れた。

 持ち手の下部分に生成されていた刃が瞬時に割れて光の粒子へと変わり、もう一つの刃へと集束。大剣の形態へと姿が変わる



「何をしてくるかは知らねぇがムダだ。お望み通り分散させてやる。精々、自分たちに当たらない様に祈るんだな、≪リバイティング・シールダー≫」



 男が目の前に両手を伸ばすと白色の魔法陣の様な防御魔法が発動された。この魔法にかなりの自信があるのだろう。男は誠司の行動を嘲笑する。

 対する誠司はヴァジュランダを握りしめ、頭の上に掲げた。ゲージが全てブレイクされ、生み出された魔力が電撃へと変わっていき、それを刃が独特の音を響かせながら纏っていく



「…………ッ!!」



 ふと、誠司とユウの視線が合った。すると、ユウはまだ涙の零れた後の残った顔で、けれども笑顔を浮かべながらコクリと頷く。誠司もまた同じ表情で同じ反応をする。

 そしてヴァジュランダが十分な電撃を纏い切り、刃は一瞬の強い発光を経て、天井を貫くほど巨大なモノへと大きさを変えた。

 彼らの居る場所からその全長が分からないレベル。

 誠司が持ち手を力強く握り締め、そしてユウが思いっきり叫ぶ



「誠司…………いっけぇぇぇぇぇ!!」


「貫け!!【No.16≪裁きを下す雷光の剣ジャッジメント・セイバー≫】!!」



 初めてその霊技名が叫ばれると刃が天井を貫きながら真っ直ぐ男の元へと振り降ろされた



「なっ……くっ……!!」



 男はさすがに危機感を覚えたらしく慌てて防御魔法をそちらに向け、更に同じ防御魔法を四つ展開する。が、それは意味を成さなかった



「……ッ!?」



 刃と一つ目の防御が接触すると思われた瞬間が訪れる。が、それは起こらなかった。

 誠司の攻撃―――霊技は防御魔法を通り抜けてきたのだ



「俺の防御を貫いて―――」



 男が言い終わる前に刃は直撃する。

 光と轟音、電撃と衝撃は一瞬にして周囲に広がり、その威力の高さを物語る。その名の通り、裁きを下し、戦いに終止符を打ち果たした。

 しかし、戦いが終わりを迎えたとしても、まだ事件そのものは終わりでは無い



「くっ、これは……!?」



 【No.16≪裁きを下す雷光の剣ジャッジメント・セイバー≫】の威力と衝撃に耐え切れなったらしい天井や壁、そして床がヒビが入るのを前兆に徐々に崩れていく。

 見れば誠司は全力を果たしたらしく倒れ込んでいた。意識がある様子はない



「加奈、ユウを頼む。僕は誠司くんを!!」


「分かったわ」



 恭一と加奈はまだ残っている床を慌てて駆けて行き、ユウや誠司の元へと辿り着く。けれどもそこから状況を打開する事は出来なかった



「ごめんよ、誠司くん。僕には飛行系の魔法は使えないんだ。だからせめて―――ッ!!」



 ユウと誠司、それぞれを抱きかかえながら二人は何とか合流し最上階から落ちていく。が、ただ落ちていくわけではない。

 四人分の身体を恭一と加奈の魔力によって作り出された膜によって覆っているのだ



「この高さからの衝撃……僕らの魔力じゃ到底防ぎきれるものじゃない。でもせめて足掻いてやる。最後まで、足掻くんだ―――ッ!!」



 恭一が目を瞑りながら力強く言う。その時だった



「【No.6≪未来読さきよみ≫】……バジリスク、止まって。白夜、この上」


「発動、霊技【No.8≪鉄鎖世界メタルリック・チェーンワールド≫】」



 鋭い風を切る音の中でふと少年の声が聞こえた。それと同時に周囲にいくつもの鎖が動く音が響き渡り、恭一たちの落下する感覚が消える


「……お待たせ」



 今度聞こえてきたのは少女の声。どこかやる気の無さそうに聞こえる



「えっ……?」



 足元を見てみると、そこには足場があった。膜越しに熱があったり毛が生えていることを考慮すると建物の床ではないらしい。

 そのまま顔を起こしてみると―――



「霧乃坂先輩とユウ、あとそのお父さんとお母さんを確保っと。ありがとう、バジリスク。それに白夜、≪鉄鎖世界メタルリック・チェーンワールド≫のコントロール、グッジョブ」


「琥珀さんの≪未来読さきよみ≫のおかげですよ。それでは……」


「うん、このまま……街の方に降りるね」



 眼鏡を整える銀色の髪の少年。足元の龍を撫でる琥珀色の長い髪を持つ少女。二人の姿が見えたかと思うと安心からだろうか、恭一の身体から不思議と力が抜けていく。

 そして彼はそのまま心地よい何かに意識を沈め、眠りについた

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