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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ エクストラストーリー アルカディア編
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第4話 誠司の過去


「……ねぇ、白夜」


「どうしました?」



 声をかけられた白夜は片付けの手を止めた。この部屋にはもう誠司も京也もいない。白夜以外の人物と言えばただ一人、琥珀だけがソファーにゴロンと寝転んでいる



「霧乃坂先輩と京也さんってどういう関係?」


「これはまた、いきなり不思議な質問を……。どうもこうも、教師と生徒じゃないですか。まぁ、多少は他の関係もあるようですが」


「私が知りたいのはその他の関係。あの二人はこの学園で出会う前から知り合ってるんでしょ。そしてその話を白夜は知ってる。霧乃坂先輩の過去を聞いたことがあるんでしょ?」


「……そうですね」



 白夜はいくつかのカップをお盆に乗せキッチンへと歩いていく。すると琥珀は転がった身体を起こし、視線をキッチンへと向けた。

 普段面倒くさがりな彼女のその行動は確証はないのだが、事柄について本当に知りたがっているという証拠に思える。だからだろうか。「別に隠すことでもないか」と思いながら白夜は水道の蛇口を捻る



「しかし僕も聞いたことがあるというだけです。詳しいことは知りませんし、未だに分からないことだってありますよ」


「うん、それでもいい」



 念のためと思った前置きに琥珀が了承し頷いた。白夜は洗い物をしながら話を始める



「数年前……まだ誠司さんが幼い頃、彼はとある事件に巻き込まれました。大型ショッピングモールで発生した一人の魔法師の暴走。無差別に行われる攻撃に誠司さんとその両親は巻き込まれたんです」


「その暴走って……魔力暴走?」


「いいえ、意図した暴走。その魔法師が後に「傷つけるのは誰でもよかった」と語っている辺り、純粋な犯罪者だったんですよ」


「……やっぱりそういう人っているもんなんだね」


「その中で誠司さんの両親は彼を庇って負傷しました。誠司さん自身も正義感から戦いましたが当時の彼はまだ大人と魔法戦をするには幼く、あと一歩という所まで追い詰められました」



 手際よくカップを洗い終え、白夜は水道の水を止めた。それから隣にあった白いタオルで手を拭くと琥珀の元へと歩いて行く



「そこで現れたのが京也さんだったんです。京也さんはその実力で犯罪魔法師を圧倒、事件はすぐに解決されました。けれど問題はその後、だったんです」


「どういうこと……?」


「誠司さんの両親は意識不明の重体となり病院に入院。幼かった彼は身体の負傷に加え、心にも傷を負いました。その後、施設に預けられましたが彼は心を閉ざし、近づく教師や子供を魔法攻撃によって拒絶したんです」


「攻撃って……そんなことして誰も先輩を叱らなかったの?」


「えぇ、彼の境遇を考えれば無理やり心を開かせるのは無理だと判断したんですよ。それに下手に刺激して暴れれば周囲にそれ相応の被害が出てしまう。だから力で取り押さえる事は出来なかった。そんな時、「魔法戦」という形で誠司さんを止めたのが京也さんでした」



 ソファーへと座る白夜に琥珀は眉間にしわを寄せながら視線を向ける



「……ちょっと待って。魔法戦をすればかえって先輩を刺激することになる。その戦闘中に先輩が建物や周囲を攻撃すれば―――」


「被害が出ていたでしょうね。けれども相手が京也さんだからこそ被害は生まれなかった。彼は誠司さんとの戦いの直後、バトルフィールドを氷で覆ったんです」


「氷で覆う……もしかして京也さんの霊技?」


「そうです。京也さんと彼のディレクトリによって発動する霊技【No.15≪氷華の城アイスバーグ・クレイドル≫】。氷城の中で京也さんは誠司さんの全力の攻撃を受け続けたそうです。そして誠司さんが消耗し切った後、京也さんの攻撃が命中。最後には氷の城から誠司さんを抱きかかえた京也さんが現れたそうです」


「…………」


「その後、誠司さんは京也さんを攻撃る事無く、会話を続けて信頼関係が生まれた。結果、周囲は二人の関係を「師弟」と呼ぶようになったんです」


「そっか。それが二人の教師と生徒以外の関係……」


「えぇ。僕が知っているのはここまです」


「うん。白夜、ありがと」


「どういたしまして」



 そう言うと白夜は右腕に取り付けた腕時計の様な機械―――「ホロギア」をタッチし、目の前に電子画面スクリーンを展開した。それからいくつかのボタンをタッチ、読んでいた書籍の途中を映し出した



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 霊技のカードを受け取った誠司は学園をあとにしていた。向かっているのは自身の家。学園からそう遠くない場所に位置するマンションだ。

 彼が歩いているのはいくつもの店が並ぶ商業地帯。今朝事件が起きたのもこの一帯の一部。しかし迅速に解決されたからだろうか。通行規制のような変化はなく、いつも通りの光景が広がっている



「……おっ」



 誠司が立ち止る。彼の目の前にいるのはガラスの中の商品に喜ぶ子供とその両親と思われる男女。そして、その喜ぶ子供を誠司は見た事があった



「よう、ユウ。何を見てるんだ?」


「んっ……あっ、誠司だ!!」



 顔を見て認識するなり「ユウ」が嬉しそうに声をあげた。それが少し大きすぎたのだろうか。誠司が「おいおい」とボリュームを下げる様にジェスチャーする



「ユウ、もしかしてその人は……」


「お父さん、この人はね、誠司っていうんだ。朝、僕を助けてくれたの」


「あぁ、やはりそうだったんだね」



 ユウの後ろにいた男性と女性が誠司の方へと視線を向ける。

 男性の方はさっぱりとした清潔感のある髪と眼鏡。女性は黒い長髪が特徴的だった。二人の格好はスーツでありカバンも持っていることから、どうやら仕事帰りらしい。

 長年仕事に徹してきた貫禄のある上司というよりはまだ若々しい雰囲気を放っている。

 彼は言葉を発する前に頭を下げた



「こんにちわ、私たちはユウの父親「恭一」と母親の「加奈」です」



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 ユウと再会して数十分後、誠司はとあるレストランを訪れていた。一緒にいるのはユウとその両親。きっかけはユウの両親から「一緒にご飯食べませんか?」というお誘いだった



「息子を助けて頂き本当にありがとうございました」



 数々の料理を目の前にしてユウの両親が改めて言った。彼らがいるのは誠司の正面の席。両親の行動を見てだろう、誠司の隣に座っているユウも彼に抱きつきながら「ありがとう」とお礼を言っている。

 しかし、誠司の表情はあまり嬉しそうではなく、むしろ苦笑している



「いや、その、ちょっと待ってくれ、親父さん。俺は堅っ苦しいのが苦手でよ。わりぃんだけど、お互いに敬語とかは無しにしてもらえねぇかな?」


「それは別に構わないが……いいのかい?」


「あぁ、むしろそっちの方が助かるってもんだ」


「分かったよ。それじゃあ改めて」



 ユウの父親は数回の軽い咳をした



「誠司くん、息子を助けてくれて本当にありがとう」


「いいんだよ、礼なんて。ユウが無事ならそれでいい。それにあれをきっかけに俺達は友達ダチになれた。事件自体は悪い事だが俺としちゃあ、友達ダチが増えて嬉しい限りだぜ」



 誠司がユウの頭を撫でる。それが嬉しかったらしく、ユウは満足気に微笑んだ



「ところで仕事帰りなのか?格好とかカバンとかそれっぽい感じがするが……」


「えぇ、仕事帰りよ。商品会議が長引いちゃって」


「お父さんとお母さんはお菓子を作る会社でお仕事してるだよ。名前はえーっと、シュシュリップ!!」


「おぉ、マジか。俺、シュシュリップの菓子が大好きなんだぜ」



 誠司はポケットに手を入れ一つのアメを取り出した。白い棒とその先端に付いたアメ玉。包装には「シュシュリップ」の文字がある



「特にこれとかいっつも持ち歩いてるぐらいすげぇ好きなんだ」


「本当かい?嬉しいなぁ。それの開発担当だったのは私たちだったんだよ」


「マジかよ!?」



 隠すことなく驚く誠司にユウの父親と母親は少々照れながらもコクリと頷いた



「おいおい……おいおいユウ!!お前の父ちゃんと母ちゃんすげぇな!!」


「うんっ!!」



 両親を誉められたことが嬉しかったらしく、はしゃぐユウ。しかしその表情はすぐに変わった。頬を膨らませ、目を細める―――いわいるジト目になっている



「でも、昨日とか帰ってくるのすごーく遅かったんだよ。今日よりずーっと遅かった!!」


「ごめんよ、ユウ。でも最近はいつも以上に忙しいんだよ」


「何か問題でもあったのか?」


「魔力を使った機械類の調子が悪いの。原因は周辺で巨大な魔力が働いていて、その影響らしいんだけど……詳しい事は調査中らしくてね」



 困った表情で話す母親に誠司の顔が真剣なものへと変わった



「(デケェ魔力の影響で周囲に異変が出る?基本的にそんなことはまず有り得ねぇはずだが……)」


「どうしたの、誠司?なんかすっごく難しい顔してるよ?」


「ん?いや、なんでもねぇよ」


「そう?だったらごはん食べよう!!冷めちゃう、冷めちゃう」


「あぁ、そうだね。それじゃあ、食うとしようか」



 それぞれが目の前の料理に手を付けた。

 異常に関しての話は気になる。が、あまり考え過ぎてユウや彼の両親に余計な心配をさせるわけにはいかない。

 だからこそ誠司は一度その事を頭の片隅に置き、一家との食事を楽しんだ




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