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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ エクストラストーリー アルカディア編
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第3話 白夜と琥珀



 自動ドアが開き、誠司が右手を上げて室内へ入った。彼が入室したのは「アルカディア学園」の一室。しかし、無数の生徒がいる教室ではない。

 基本的に特待生や教師など限られた人物だけが使用する事の出来る特別な部屋。彼は教室ではなく直接ここを訪れていた



「よーっす。わりぃな、待たせちまってよ」



 誠司の瞳にアルカディア学園の制服を身に纏った少年と少女が映った。

 少年は読んでいたであろう電子書籍の表示された画面―――電子画面スクリーンの展開を手を横に振って終了させ、眼鏡を整えた。

 一方、少女はアメを舐めながら、空中に浮遊する電子画像スクリーンを上向きにスクロールさせる。少女の方はどうやら電子記事を見ているらしい



「遅かったですね、誠司さん。今日は寝坊ですか?それとも寄り道をしてきたんですか?」


「どっちもだな。寄り道って事に関しては友達ダチになったユウと飯食ってきたし……。それに起きたら昼前でよ。思わず笑っちまったぜ」


「……大方、夜遅くまでゲームでもしていたんでしょう。禁止とまではいいませんが、ほどほどにして下さいよ」


「おっ、さすが白夜。鋭いじゃねぇか」


「今までの経験則です。もう慣れましたよ。……ココアでいいですか?」


「おう、とびっきり甘いヤツを頼むぜ」



 ニカッと笑いながらソファーに座る誠司を見て「白夜」と呼ばれた少年は苦笑と共にため息をついた。キッチンへ行くと食器棚からカップを取出しココアの元となる粉を入れて、ポットを傾けお湯を注ぐ。

 温かさゆえの白い煙。それから多少のミルクと角砂糖を投入し中身をスプーンでかき混ぜ、白夜はそれを誠司の前に差し出す



「ミルクと角砂糖を入れておきました。昨日と同じ量のはずです」


「ありがとよ。……うーん、ウメェ。やっぱ白夜は一番いい感じのミルク量を分かってんな」


「これもまた経験則ですよ」



 言いながら白夜がソファーに腰を下ろす。

 「白銀白夜」。彼は誠司と同じアルカディア学園の特待生だ。学年は誠司の一つ下。白い髪が特徴的で身長は高くはない。

 眼鏡の奥にある瞳は綺麗な青色だが鋭く力強く、基本的に他人に関わりたがらない性格も相まって、人によっては後ろ姿に似合わない威圧感を感じる事もある。

 だが自分の認めた相手に対しては心を開いた様子を見せる。その一例が誠司。白夜は誠司を仲間として、先輩として認めているからこそ多少の皮肉を交えても心を開いて接している。

 そして、同じように誠司に対して心を開いている人物がもう一人、彼の隣に座っている



「なぁ琥珀。面白いニュースでもあったか?」


「……特に何もない」



 誠司や白夜と同じく特待生である「新城琥珀」は視線を逸らすことなく、電子画面スクリーンをスライドしながら返事をした。それから身体を動かしたかと思えばソファーの上でゴロンと寝転がり、リズミカルに左右の足を上下に動かし始める。

 名前と同じ琥珀色(本人いわくキャラメル色)の長い髪。緑色の瞳は脱力したようなジト目で体格は小柄。性格的には見て分かる通り面倒くさがり屋だ。

 けれども彼女も女の子としての恥じらいは持っているらしく―――



「っとそれはともかくよぉ、琥珀。いくら長めのスカートだからって横になって足バタバタ動かしてりゃパンツ見えちまうぞ?」


「~~~ッ!?」



 呆れながら言う誠司。その言葉に反応した琥珀はすぐに飛び起き、両手でスカートをふとももに押し付けた。強制的に展開を終了する電子画面スクリーン

 それを気にする事もなく、琥珀は恥ずかしそうに頬を赤く染める



「み、見えた……?」


「まぁ、ちょっとな。って、そんなに機嫌悪くすんなよ。ほら、アメでも食うか?」


「……食べる」



 少々迷いながらも誠司に渡された棒付き飴を手に取り口に含む琥珀。そんな二人のやり取りを見て白夜は「やれやれ」と苦笑する。

 その時だった



「次のニュースです。本日、ファンタジア国のファンタジア学園にて「隠れた契約者事件」解決に大きく貢献した特待生たちの表彰式が行われました」



 部屋の隅にある機器を通じてアナウンサーの声が響いた。

 機器の名前は「ホログラムテレビ」。名前の通りテレビの一種なのだが画面がホログラム(または電子画面スクリーンと呼ばれている)で構成されており、必要なのは画面の下にある黒い機器だけ。場所を節約できることからアルカディアの多くの住宅や施設ではこれがかなり普及している。

 そして空中に写し出されたホログラム画面にはファンタジア学園の敷地の画像があった。続いてファンタジア学園の特待生たちの姿が写し出され、同時に名前も表示される



「近頃、この手のニュース、よく見る気がする。何となくだけど」


「それはそうですよ。あの事件は規模の大きいものでしたから。その後の経過に関しても多少は落ち着いてくるとはいえ、報道はされるでしょう……ね」



 言いながら白夜はその視線を画面に向けたままだった。正確には画面に映ったされた「白銀氷河」にずっと向けられている。しかもその表情はあまり良いものでない。敵を睨み付ける際に放つ威圧感のようなものが込められているのだ。

 それに感づいた誠司は少しの間、神妙な面持ちを見せると雰囲気を変えようと思ったのか話題を進展させる



「けど、デカい事件を解決しただけあって、なかなか面白そうなヤツらばかりじゃねぇか。特にあの猿渡ってヤツは俺と同じような雰囲気がするぜ。なっ、琥珀?」


「…………」


「琥珀……?」



 誠司の呼び掛けに琥珀は返事をしなかった。彼女の視線の先にあるのは変化したホログラム画面。そこにはさっきとは違う特待生が映っている



「紫乃原陽花……なんだ、琥珀はあの特待生が気になってんのか」


「い、いや、気にしてるってわけじゃない。ただちょっと、強そうな雰囲気だなって……思っただけ」



 まだ顔の赤い琥珀が誤魔化す様に画面から視線を逸らす。

 カチャリという音がしたのはほぼ同時だった。ドアが開かれ、スーツ姿の男性が部屋へと入ってくる



「やぁ、こんにちは。みんな揃ってるね」



 座っているメンバーを確認すると彼は爽やかな声と共に笑みを浮かべた



「おっ、京也さんじゃねぇか」


「…………」


「こんにちは、京也さん。飲み物を入れますよ。何にしますか?」


「ありがとう白夜。それじゃあ、コーヒーをもらおうかな」



 白夜はコクリと頷きキッチンへと向かって歩いて行く。一方の京也はソファーに腰を下ろした



「……京也さん、今日は仕事が忙しいって思ってたけど来れたんだ。もしかして休みになった?」


「いや、情報屋の仕事自体はあったよ。でもそれを早く終わらせてここに来たんだ。あくまでも僕はアルカディア学園でキミたちの先生をやってるわけだからね」


「……まじめ」


「ハハッ、よく言われるよ。でもそれが僕の責任だし、それに何よりキミ達は大切な教え子だからね。自然と気になってしまうものなんだよ。……っと、今日は誠司に渡すモノがあったんだ」


「俺に渡すモノ?」


「あぁ」



 持っていたカバンに手を入れながら京也が頷いた。そして一枚のカードを取出し、誠司へと差し出す。銀色の機械的な印象を受ける金属製のカード。その中心には小さな球体が埋め込まれており、赤く光っている



「ねぇ、京也さん。これって、もしかして……魔法カード?」


「そうさ。けれど普通の魔法カードじゃない。中に入っているのは「霊技」なんだ」


「霊技の入った魔法カード……?」


「あぁ。アルカディアに伝わる霊技、それをカード化したのがこれなんだ。今じゃ出来ないけど、昔はその技術があったらしくてね。けれども長い間、この魔法を使える魔法師が見つからなかったんだ」


「そんな中、霧乃坂先輩は相性がよかった。だから先輩の手に渡る事になった、というわけですか」



 キッチンから戻って来たらしい白夜はテーブルにコーヒーを置き座った。京也は「ありがとう」と言いながらカップを手に取り、一口飲む



「…………」



 渡されたカードを見て誠司は真剣な表情を浮かべていた。カードの中心にある球体は所有者が「カード化された魔法を使用出来る」ことを現す青色の輝きを放っている。しかし問題はそこではない



「―――謎だらけ、といった感じかな?」



 不意な京也の一言に誠司は一度目を合わせ、コクリと頷いた



「この魔法が使える、俺との相性が悪くねぇってのは理解出来んだ。でもよ、その名前やイメージが出来ない。使えるのに使えない、すげぇ不思議な感覚だぜ」


「過去の資料から魔法名やどんな魔法かって分からないの?」


「特別な霊技だからね。基本は存在するにしても使用者の本質によって変化はある。だから過去の答えを見たからって今もそれを同じというわけではないんだ」


「結局は自分で見つけるしかないというわけですか。名前も、その能力も」


「そういうことさ。まぁキミの近くにいる白夜や琥珀は例外だろうけど、霊技は一般の魔法と比べて「知る」ことに時間がかかる。だから難しく考える必要は無い。これからその魔法と一緒に過ごして少しずつ知っていけばいいんだ」


「……まぁ確かに」



 誠司はそう言いながらカードを上着のポケットに仕舞った。それから目の前のココアを一口飲んで「ウメェ!!」と笑ってみせる。

 それは決してムリに作った笑顔ではない。

 恩人であり、師匠であり、憧れである人の言葉。それは彼の中の不安を拭い去ったのだった

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