第2話 ユウとの出会い
事件後、誠司の呼んだ組織はすぐに現場に到着した。街中の犯罪行為を取り締まる警察。彼らに犯人を渡した後、誠司は軽く状況を説明して現場を離れた
「よっ、待たせて悪かったな」
公園の入り口でポツリと一人立ち尽くす男の子に誠司が声をかけた。まるで友達を少し待たせてしまった時の様に軽く手を振り近づいて行く。
だが男の子に反応があるわけではない。拭い、それでもまだ少し残っている涙を浮かべ、弱気な瞳で誠司を見つめるだけ
「……怖かったか?」
男の子の前まで来ると誠司はしゃがみ、男の子とほぼ同じ目線に合わせた。
対する男の子の視線が下がり、そのまま無言で首が縦に振られる
「ごめんな、すぐに助けてやれなくて。けどもう大丈夫だ。暴れるヤツらは大人しくさせた。お前はもう怖がらなくていいんだ。……つっても、さっきまで怖い想いしてたんだもんな。だからよ」
「―――ッ!!」
誠司が右手を伸ばした。男の子は何かに耐えるかのように一瞬強く目を瞑る。が、その瞳はすぐに開かれた。
理由は簡単だ。誠司は男の子に攻撃や嫌がらせをしたわけではない。
その頭をゆっくりと撫でただけ。だから男の子はすぐに瞳を開いて驚いた表情を見せ、思わず声を漏らす
「えっ……?」
「思いっきり泣け。怖かった想い、全部吐き出すぐらい思いっきり泣け。今なら大泣きしてもいいんだからよ」
誠司はニカッと笑いながら優しい声で言う。
それを聞いた瞬間、男の子の頬を一滴の涙が流れた。するとそれをきっかけにしたように瞳に涙が溢れ、次々と流れていく。
それを見た誠司は数回頷きながら、男の子を自分の胸元に引き寄せて抱いた
「うっ……うっ……うわぁぁぁぁっ!!怖かった……怖かったよぉぉぉ!!」
「あぁ、怖かったよな。俺も同じ状況だったらすげぇ泣いてたと思う。だから恥ずかしがらずに泣け。思いっきり泣け」
誠司が強く抱きしめる。それに安心したかのように男の子はしばらくの間、泣き続けた
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「どうだ。怖かった想い、全部吐き出せたか?」
「……うん」
「よっし、それじゃあ自己紹介だな。俺の名前は霧乃坂誠司。アルカディア学園の生徒だ」
「……誠司さん?」
「「さん」はいらねぇよ。誠司で良いって。今度はお前の名前、聞いてもいいか?」
誠司の問いに男の子は少し戸惑い一度は視線を逸らすも、再び視線を合わせゆっくりと答える
「……ユウ。ぼくの名前は「ユウ」」
「ユウ、か。良い名前だな。よっし、思い切り泣いたら今度は思いっきり食おうぜ。ユウは何が好きなんだ?」
「ハ、ハンバーグ!!ぼく、ハンバーグが好き!!」
「おぉ、ハンバーグか。ウメェもんな。分かった。んじゃハンバーグのウメェ店に行こうぜ。俺がおごってやるからよ」
「いいの!?」
「もちろん、嘘はつかねぇよ。ほら、行こうぜ」
立ち上がった誠司が笑みを浮かべながら右手を伸ばした。ユウは多少警戒しつつも好物の話をした為か興奮を抑えられないらしく、伸ばされた手を両手で強く握る。
そして二人は飲食店街へと歩いて行った
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「もぐっ……もぐっ……」
「どうだ、ウメェだろ?」
「うんっ!!」
ユウが嬉しそうに頷いた。目の前にあるのはチーズハンバーグ。熱々の鉄板が皿となっているからか今でもジュウジュウという音が鳴り、上に乗った固形チーズがトロりと姿を変えている。周りの溢れる肉汁と相まって、見ているだけでも美味しいことが分かるビジュアルだった
「熱いからな、ゆっくり食えよ」
言いながら誠司はハンバーグを大きめに切り口に放り込んで豪快に食べる
「…………」
ユウはそれを見て、誠司と同じようにハンバーグを大きめに切り口の中に入れようとする。
が彼の小さな口では入りきれず、熱くなったハンバーグが鼻と口の間に当たってしまった
「あ、あつぃ!!」
「ったく、何やってんだよ。……ってユウ、口の上、すげぇ肉汁が付いてんぞ」
「肉汁……?」
「ハンバーグの肉汁だよ。ほら、取ってやる」
机に置かれていた拭き紙を手に取り誠司がユウの口元を拭く
「ごめんね、誠司。ぼくも誠司のマネしたくって、でも失敗しちゃって」
「俺のマネ?ハハッ、いいじゃねぇか」
「……いいのかな?失敗、しちゃってもいいのかな?」
声のトーンが変わった。さっきと違って少し低い落ち込んだ声のトーン。そのままユウは自分の足元を見ながら話を続ける
「ぼくね、いっつもこうなんだ。失敗ばっかりするの。だからぼくの夢を友達に言ってもバカにされるんだ」
「夢……?」
「ぼくね、強くなっておとうさんとおかあさんを……みんなを守ってあげたいんだ。悪い人とか悪いことから守ってあげたいの。でも、ぼくみたいに弱いヤツがそんなこと言ってもダメ、かな?」
「ダメなわけねぇよ。それがお前の夢なんだろ?夢を語るのに遠慮なんかいらねぇ。俺はすげぇ良い夢だと思うぜ」
「いい夢……?」
「あぁ。だって考えてみろよ。強くなって誰かを守りたいなんてカッコいいじゃねぇか」
「誠司……ありがとう」
「おう。んじゃ強くなるためにガッツリ喰わなきゃな。とりあえず目の前のハンバーグだ。さっきから喰ってねぇ野菜も食わなきゃダメだぜ?」
「うぅ……気づいてたの?」
「当たり前だろ。苦手かも知れねぇけど食っといた方がいいぜ。それにハンバーグの野菜は肉汁と合わせるとこれまたウメェんだ」
「ホントにぃ……?」
「マジだって。ほれ、試してみろって」
ユウがニンジンを一つフォークで刺し、肉汁を付けた。しばらく目の前で唸りながら葛藤し、一度誠司の顔を見て意を決したらしく口に含んだ。そのまま数回噛み、そして飲み込む
「……ホントだ、おいしい。おいしいよ、誠司!!」
「だろ?」
得意げな誠司に頷き、ユウは他の野菜にも肉汁を付けて食べていく。そんな彼の姿を誠司は優しい瞳で見ていた
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ふぅ、食った食った。どうだ?ハンバーグ、ウマかったか?」
「うん、おいしかった!!ありがとね、誠司」
誠司は小さく笑って親指をグッと立ててみせる
「いいってことよ。それでどうする?何ならお前ん家まで送って行くけど」
「だぁいじょーぶ。ぼく、もうすぐ「あおぞら保育園」を卒業だもん。ひとりで帰れるよ」
ユウが腰に両手を当て「フンスッ」といった具合に見事なドヤ顔をしてみせた。自分が卒業するということをよっぽど自慢したいのだろう。
そんな彼に誠司は少し驚いた表情を浮かべる
「へぇ、ユウはあの保育園の園生なんだな」
「あれ?誠司ってあおぞら保育園、知ってるの?」
「知ってるぜ。俺はあそこの卒業生だからな。たまに行ったりもしてる」
「ホント?じゃあ、もしかしたらまた会うかも知れないね」
「あぁ、その時はよろしくな」
「うん!!……あっ、そうだ」
ユウは何か思いついたらしく、右手に付けた腕時計の様な機械を触り始める。
正式名称は「ホログラフィック・ギア」―――通称「ホロギア」。このアルカディアで最近開発された最先端の情報端末だ。
見た目は普通の腕時計であり、画面自体も大きくなく時間や日付の表示で埋まってしまう。しかし最大の特徴であるホログラフィック技術を使うことで空中に電子画面を作りだす事が出来る。
簡単にいえば空中に画面を表示させタッチ操作する事が出来るのだ
「誠司、ホロギアって持ってる?持ってたら連絡先、交換しようよ」
「おっ、いいぜ」
誠司も腕に付けたホロギアの画面を触り、空中に電子画面が現れる。それからいくつかのボタンをタッチしていくと、端末の情報が圧縮された別の電子画面姿を現し、誠司はそれをユウのホロギアへと指を弾いて送り出す
「それじゃあぼくも……ハイ、誠司」
「おう、ありがとよ」
ユウも同様に端末情報の圧縮された電子画面を誠司へと送り、互いのホロギアが情報を読み込む。
追加される連絡先。それを見てユウは嬉しそうに微笑んだ
「えへへ、また一人友達が増えちゃった。それじゃあね、誠司。今日はありがとう」
「おう、気ィ付けてな」
ユウがブンブンと思いっきり手を振りながら走り去っていくと、誠司もニカッと笑いながら右手を振った。
お互いに姿が見えなくなるまで振り続け、ユウが曲がり角を曲がったところで誠司が手を降ろす
「さて、ユウとの飯も食ったし学園に行くかな。っと、もう昼休みが終わる頃か。……アイツら、絶対文句言ってくんだろうなぁ」
誠司が軽いため息を吐きながら頭をポリポリと掻く。そして彼はアルカディア学園に向かって歩き始めた




