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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ エクストラストーリー アルカディア編
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第1話 轟雷


「―――っと」



 早朝というには少し遅い時間、少年が声と共に腰の高さほどの壁を跳び越えた。

 日差しを浴びて輝く金色の髪。黒いサングラスの奥にある瞳は同色であり、口には飴の付いた白い棒を咥えている。

 服装は黒いスーツの様だが動きやすいように上着のボタンは留められておらず、ネクタイも緩められていた。

 その高い身長も相まって一見すると成人に見える。しかし実際はそうではない。



「待ってろ、もう少しだからな」



 一人で呟くように、だが誰かに語りかける様に言う。そして彼は再び走り始めた




☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 魔法の存在が認識されている魔法国。その中でも「アルカディア」は科学や魔法技術が発展した国として名前を知られている。

 特に中心街となっている国名と同じ名前を持つ都市「アルカディア」では生活や研究の環境が整えられ、様々な最新技術が集まる街となっている。便利で暮らしやすいとなれば人が集まってくるのは自然な事といえるだろう。

 しかし、魔法や技術と言った「力」と「人」が集まれば必然的に「問題」も発生する



「わりぃ、道を開けてくれ」



 人ごみをかき分け、金髪の少年が足を止めた。

 辿り着いたのは食品や日用品を置いている小型の商店。その周囲の人は立ち止り、割れたガラス製のドアや窓から店内を見ていた。棚に置かれた商品のいくつかは地面に落下し、散乱している様子から荒らされていることが分かる。

 そこに立っているのは三人の男性。一人は店員なのだろう。制服を着用しており、レジの奥でタブレットを盾にして怯えている。

 そして問題は残りの二人。彼らは手にナイフを所有していた。一人は集まった人々に、一人は店員に向けてナイフを向けている



「なんだお前は?一体ここに何をしに来た?」


「おいおい、なんだとはご挨拶だな。お前らが暴れて周りの住民に迷惑かけてるっつーからよ、取っ捕まえに来てやったんだよ」


「とんだお節介だな。それよりお前、状況を分かってるのか?一人のお前に対してこちらは二人。単純に考えれば、お前は不利なはずだが?」



 ニヤリと嫌な笑みを浮かべる男達。しかし少年はそれを鼻でわらう



「へっ、んなこと大した問題じゃねぇよ。それよりさっさと降参しちまいな。抵抗したって痛い目みるだけだぜ?」


「チッ、調子に乗るなよクソガキ!!」



 男は舌打ちをすると手に魔力のナイフを作りだし投げつける。

 対する金髪の少年は驚く事もなく前進し、冷静に右手に力を込めた。魔力が集まり形が造られていく



「……ヴァジュランダ」



 作られたのは「金剛杵」と呼ばれる武器の形。持ち手の両端には銀色の小型曲刃が三つずつ備えられ、片方の中心部から真っ直ぐな魔力刃が展開されている。

 少年の魔法武器ディレクトリ「ヴァジュランダ」。彼がそれを一振りするとナイフは金属音と共に弾かれた


―――攻撃が軽すぎる―――


 少年がそう思った瞬間だった。もう一人の男がいくつものナイフを作りだしたらしく、それが投げられる。

 もちろんその標的は金髪の少年。だが彼はそれを分かっていたかの様にヴァジュランダの刃が電撃を纏った。そして繰り出される高速の連続切り。

 全てのナイフが弾かれ、そのまま消滅する



「やっぱフェイントか。いくらなんでも最初の攻撃、軽すぎんだよ」


「この野郎……ッ!!」



 男が店員の元へと手を伸ばした。そのまま人質にするつもりだったのだろう。しかしそれは拒まれる



「させるかよ、≪雷波≫」



 少年が右手を向けると電撃の光線が放たれた。それは店員と男の伸ばした手との間を走り、男は思わず手を引く



「くそっ‼️」


「おい、こっちだ」


「は、はい」



 状況に動揺しつつ、少年の声に反応し店員はレジの棚を乗り越え店の外側へと移動した。対する男達は人質が取れなかったことに舌打ちをしている



「これで人質はいなくなった。観念しな」


「クソ……ッ!!」



 少年の言葉に男たち焦りを見せながら後退する。が、その視線がチラりと横を向いた瞬間に変わった。

 何かに気付いた様な表情。男の一人が商品の棚に向けて手を伸ばし、何かを握って引きよせる



「おいお前、こっちに来い!!」


「い、イヤだぁぁ!!」



 男によって引き出されたのは小さな男の子だった。泣きじゃくり、暴れて抵抗するものの腕を男に掴まれて逃げる事が出来ない



「へへっ、まだ人質は残ってたぜ。これ以上俺たちの邪魔をすれば……分かってるよなぁ?」



 男の子の首元にナイフを近づけ、男がニヤリとしながら前を向く。一方、その視線の先にいる少年はというと



「……おいおい、そいつァは俺のセリフだ。子供を巻き込むってことはそれなりに覚悟は出来てるんだろうなぁ……あぁん?」



 ガリっという音と共に口の中で飴が噛み砕かれた。それから少年は左手を上げ、指をパチンっと鳴らす。

 すると男の身体に変化が起きた。ナイフが手放され、地面に落下し消滅する



「お、おいバカ。何やってんだよ」


「か、身体が痺れて動けねぇんだ。ナイフが……握れねぇ」



 ナイフを落とした男の元へと足を進めた途端、もう一人の男の身体も動きを止めた。

 ゆっくりと少年が手を降ろす



「お前……何しやがった!!」


「お前らの身体に弱ェ電気を流してんだよ。ある程度実力がありゃあ突破されちまうが、お前ら相手ならその心配もいらねぇな」


「なっ……コイツ、バカにしやがって」


「ほら、そんなヤツらは放っておいて、今の内にこっちに来な。そっちは危ねぇからよ」



 少年が手招きをすると男の子はコクリと頷き、男の腕がら逃れ走ってきた



「よし。んじゃちょっと待ってろ。アイツらを倒してくるからよ。わりぃんだがもう一回道を開けてくれ」



 男の子の頭を数回撫で、少年が右腕を大きく振った。すると二人の男達の身体が少しだけ宙に浮き店の外側に向かって飛んでいく。

 周囲に居た人々は指示に従い道を開けていた。そこを通って男たちは向かいの小さな公園へと移動し転がった



「いてて……クソ、アイツは一体何なんだ」


「分からねぇ。けど外に出られたのはラッキーだ。さっさとここから……」


「逃がすわけねぇだろ」



 公園の敷地内に少年が歩きながら入ってくる。口に咥えていた白い飴の棒は設置してあったごみ箱に捨てたらしい



「さっきは店内だったからな、力加減に苦労したんだ。けどよ、屋外なら少しは話が変わってくる。さて、痛い目みる覚悟は出来たか?」


「逃がす気はなしか。けどよ、お前の後ろには寄せ集まった野次馬どもがいる。俺は遠慮なく、そいつ等を……攻撃させてもらうぜ!!」



 言いながら男の一人が魔力弾を二つ放った。狙いは少年ではなくその左右。背後にいる集まった人々に命中させることが目的なのだ。

 しかも攻撃が左右に分割されている分、一つずつ対処するのが難しい



「片方の弾を防ぎに行けば、もう片方が着弾する。さぁ、どうす……」


「ゲージブレイク、≪二連雷波≫」



 ヴァジュランダを地面に突き刺し、少年が両手を魔力弾に向ける。そして電撃の光線を放つとそのまま魔力弾は撃ち抜かれ消えていく



「なっ……」


「長期戦をやる気はねぇ。待ってるヤツがいるんでな。んじゃ終わりだ、≪疾雷≫」



 ヴァジュランダを引き抜き、足に電撃を纏ったかと思うと少年の姿が消えた。刹那、その姿は男達の目の前に再び現れ、素早い斬撃が繰り出される。

 それは純粋な斬撃。しかし男たちを大人しくさせるには十分な威力であり、攻撃を受けた二人は地面に膝をつき、動く事を止めた



「さて、と。お前ら二人、店を襲ったってことで捕まえさせてもらうぜ。まぁ、実際に捕まえるのは俺じゃねぇけどな」


「クソッ!!」


「……もしもし、霧乃坂ッス。例の二人を黙らせました。ちょっと来てもらっていいッスか?」


「霧乃坂……霧乃坂ってまさか、アルカディア学園の……!?」



 通信が終了し、少年が慌てる男の方を見る



「あぁ、そうだぜ。俺はアルカディア学園の特待生、霧乃坂きりのざか誠司せいじだ」



 彼―――誠司はそう言ってポケットから生徒手帳を出して見せた

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