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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ エクストラストーリー ユートピア編
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第5話 玲と詩織の過去



「玲とわたしは幼馴染なんだ」



 詩織がポツりと呟くように言った。理恵と瑠璃は詩織にもらったみかんを手にベッドに座ってその姿に視線を向け、その言葉に耳を傾ける。

 夕日の放つ光が窓から差し込んでいた。照らされる詩織は思い出に浸る、少しだけ切ない表情をしている



「小さい頃からよく一緒に遊んでたんだ。ユートピアは遺跡がたくさんあったから、その周りで追いかけっこをしたり、少し大きくなってからは大人に内緒で遺跡の中を探検したりしてた。でも、その探検が結局は後悔するきっかけになった」


「後悔のきっかけ……?」


「その日も遺跡に探検に行ってたんだ。モンスターが出ることは分かってたから、いつも入り口の周りで探検ごっこだけをしてた。だからモンスターには出会ったことがなかった。けどその日、少し奥まで行ってみたくなったの。わたしの意見に最初は反対してた玲も最後に一緒に付いてきてくれた。わたしは楽しくって玲より先を歩いてた。そして―――」



 流れる様に零れていた言葉が止まった。その雰囲気に理恵の身体が強張る。

 詩織は小さく深呼吸をして思い出語りを再開した



「―――呪いの魔法陣を踏んじゃったの」


「呪いってさっき玲が言ってた呪い?」



 詩織が静かに頷いた



「玲はすぐにわたしを魔法陣から出してくれたけど、その時にはもう呪いの効果は発動していたの。大昔の戦争で死んでいった人たちの負の感情が作り出した呪い」


「その呪いは……治せないの?」


「効果を抑えることは出来るんだけどね。長い歴史の中、大勢の人の負の感情っていう強い分類の感情が作り出してるから上級魔法師でも完治させることは難しいんだって」


「その呪いってかかるとどうなるの?」


「分かりやすいのは体力と魔力の低下かな。だからわたしは激しい運動はもちろん、場合によっては普通の生活も出来ない。時によって症状の強弱が変わるから基本的にはこの保健室のベットで安静にしてないといけない。いや、本当ならこの学園にいること自体、出来なかったかも知れないかな」


「学園にいられない?それはどういうことですか?」


「わたしはこの学園に特待生として入学してる。でも特待生はおろか、本来普通の生徒が出来ることすら出来ないんだから学園としては、わたしはお荷物のはずなんだよ。でも唯香ちゃん……唯香先生や玲が学園に説得してくれたみたいなんだ。元々学園としてはわたしを受け入れてくれるつもりだったらしいんだけどね」



 一通り話を終えたらしい詩織が窓の夕日に視線を向けた



「玲は今でも呪いを解く手がかりがあるかも知れないって遺跡の探索を続けてくれてる。そのために友達や仲間を作って遊んだり仲良くする事を止めてる。だから、玲のことをあまり知らない人は玲を冷たい人って思っちゃうかも知れない。でもね……っ!!」



 詩織の拳に力が加わり握られた。彼女の中で感情が爆発する。それは理恵にも察することが出来た。夕日に向けられていた視線はすぐに変わり、起き上がっている上半身が一気に理恵に近づく



「玲は冷たい人なんかじゃないの。ちょっと意地っ張りでたまに抜けてて……でも何かに向かって頑張れる。誰かの為に一生懸命になれる。そんな優しくて強い子なんだ。だから玲のこと、悪く思わないであげて」


「詩織……」



 詩織のその瞳は何かを必死で伝えようとする人のモノだった。力強く、けれども少し悲しそうなその瞳を見て理恵は自分の心の中で何かが決まったことをはっきり自覚した。

 微笑みの後、詩織の両肩に手を置く



「もちろん。玲が悪い子なんて思ってないよ。それに今の話を聞いてあたしは玲と仲良くなりたいって思った」


「理恵……」


「それにね、玲と詩織。二人の力になりたいっても思ったよ」


「わたしと玲の力に……?」


「うん。あたしも玲に協力する。詩織の呪いを解く方法を玲と一緒に探すの」


「そ、そんな危ないよ。遺跡にはモンスターだって出るんだよ?」


「でもそれじゃあ、詩織の呪いは解けない。あたしは友達が困ってたり、悲しんだりしてるのに放っておくなんてしたくない。だから玲と一緒に探索して、詩織の呪いも解いてあげたい」


「理恵……」



 ベットから立ち上がり、理恵は瞳に涙を溜めこんだ詩織に向かって振り向く



「詩織、玲の言ってたイスポート遺跡っていうのがどこにあるのか教えて。あたしも明日、そこに行ってくるから」


「理恵……うん、ありがとう。だったらこれ、持って行って」



 詩織は自身の右手を前に出し、魔力を込めた。そこに現れたのは白い片手剣。一見すると何の変哲もない武器だが、柄の下部には魔力ゲージが備えられている



「これってもしかして……詩織のディレクトリ?」


「うん。わたしのディレクトリ「アイギス」。玲のダーインスレイブに似てるけど攻撃性能はほとんど無いんだ。刃でモノを切る事も出来ない。でも防御性能は高いんだ。それにイスポート遺跡の場所も検索できる」


「それなら場所も分かるか。けど、詩織のディレクトリなのにあたしが持って行ってもいいの?」


「わたしのディレクトリだからこそだよ。探索は元々わたしのためなんだし……それにわたしも理恵や玲と一緒に戦いたい。少しでも力になりたいんだ」


「……分かった。ありがとう。それじゃあこれは借りていくね。よろしく、アイギス」



 アイギスのコアが返事をするように数回点滅し、その姿が宙に消える。それから理恵と詩織は力強く頷き合った



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 翌日の夕方、玲は予定通りイスポート遺跡を訪れていた。空は生憎の曇り。しばらくすれば一雨降りそうな決して良いとはいえない天気。

 そんな状況の中、彼女は一度自分の視線を疑った。遺跡の入口の前にはつい最近知ってしまった顔がある。

 森芝理恵と瑠璃。玲は立ち止り言葉をかける



「どうしてあなたがここにいるの?まるで私を待っていたみたいに見えるけど」


「見えるじゃなくて待ってたんだよ。あたしも付いて行く。玲と一緒にこの遺跡の探索をする」


「……はぁ、バカなこと言ってないで寮に戻って。ここにはモンスターが出るの。せっかくの休みに傷を作りたいの?」


「傷なんて作らないよ。あたしだって、ここに来て遊んでばかりだったわけじゃない。ディレクトリだってもらえるくらいにはなったんだよ」


「確かにディレクトリはある程度の強さに辿り着かないと特待生であろうと手に入れられない。けど、それは遺跡での戦いで通用する証拠にはならない。そもそも遺跡は遊び気分で入る場所じゃ―――」


「遊びじゃないよ」



 玲の言葉を遮る理恵の声。それは大声ではないが力強く、思わず玲は言葉を続けるのを止めた



「遊びじゃない。あたしだって思いがあってここに来た。詩織から聞いたよ。玲が探索を頑張ってる理由。みんなとあまり関わらないようにしてる理由。それを知ったからあたしは今、ここにいるの」


「……それで恩を売るつもり?」


「違うよ。あたしはただ友達の助けになりたいだけ。ちょっと強引かなとは思うけど、玲がどれだけ追い返してもあたしは諦めないよ」


「…………」



 玲の視線が理恵の視線と交差する。探索を止める最後の警告。しかし理恵の瞳はその警告を受け入れる気が全くないことを感じさせている。

 それを察した玲は止めていた足を進め、玲の横を通り過ぎて行く



「マスター、これはどう判断するべきでしょうか?黒羽さんは何も返答がありませんでしたが……」


「さっき言った通りだよ。玲に付いて行く。ほら、瑠璃も行こう」


「……いえす。マスターがそう言うのであれば」



 玲のあとに続いて理恵と瑠璃も遺跡の内部へ入って行った

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