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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ エクストラストーリー ユートピア編
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第4話 保健室のイタズラ娘


 アクアからディレクトリを受け取ったあと、理恵は今日のことを報告するため学園内を歩いていた。

 目指すのは教員室。時間帯は夕方になってしまったが、この時間であれば唯香はまだ教員室に残っている



「(連結融合(リンクコネクト)……どんな能力なんだろう)」



 アクアから聞いた話への興味は尽きることなく、理恵の頭の中で想像が繰り返される。

 と、その時だった



「……マスター、あれを見て下さい」



 少し前を歩いていた瑠璃が止まった。彼女の言葉を聞いて理恵は横にある窓の向こうを見てみる。するとそこには知っている生徒の姿があった



「玲……?」



 黒羽玲。理恵の隣の席にいる理恵と同じ特待生。怪しい噂まである彼女は一人でどこかに向かっていた。

 もちろん理恵も噂を信じているわけではない。だが、だからこそ確信できる証拠が欲しかった



「追いますか?」



 瑠璃がそう言う。理恵は少し迷ったのちに頷き、玲の尾行が始まった



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 玲の到着は意外と早かった。時間にしてわずか一分。角を二回曲がっただけで玲は部屋で立ち止まってしまったのだ。

 その部屋が通り道の可能性もなくはないが、その可能性は薄いというのが正直なところだろう



「ここって……保健室だよね?」



 玲が立ち止まった部屋。それはドアの上のプレートに書かれている通り保健室だった。玲はドアの端に手を置き、そのまま横にスライドさせる。

 その瞬間だった



「きたっ!!」



 中で声がすると同時に玲の頭上で光の球体が降下し、頭に当たって弾け飛んだ。見たところ威力はない。

 例えるならドアの隙間に黒板消しを挟んでおき、開くと開けた人の頭に黒板消しが落ちるというイタズラ。

 つまりこれは魔法版のイタズラの一種ということになる



「玲にイタズラするんだ……ってあの子、誰だろう?」



 部屋の中にはベッドに入っている少女がいた。上半身だけを起こし、嬉しそうにしている。

 イタズラを仕掛けたのは彼女の様だった



「詩織……あなたねぇ……」


「にひひー、イタズラ大成功だね。その驚いた顔、私は大好きだよ」


「……≪リバース・グラビティ≫」



 玲が右手を少し動かすと少女の持っていたみかんの籠が宙に浮かんだ。

 詩織―――そう呼ばれた少女の体勢では取ることの出来ない距離。それに感づいた詩織は驚きと共に悲鳴をあげた



「わっ、わっ、みかんがぁ~。私のみかんがぁ~」


「イタズラした罰よ。どう、反省した?」


「した!!した!!反省したから!!みかん返してぇ~」


「まったく……」



 玲が再び右手を動かし、みかんの籠が詩織の手元に戻ってくる。

 玲は詩織の元へと行き、持っていたバッグから何やら箱と本を取り出した



「もう玲にゃんったら、そんなにプクプクしてたらほっぺたが風船みたいになっちゃうよ?」


「そんな名前で呼ばないの。それと……はい、これ。頼まれてたゲームとその攻略本よ」


「わーっ!!ありがとう、玲」



 詩織のお礼に微笑みを浮かべながら玲はポットの置かれた簡易的な台所に向かった。そのままコップに粉を入れ、ポットのお湯を注ぎ込む



「それにしてもコントローラーゲームとその攻略本が欲しいなんて珍しいわよね。今時、手軽にできる端末ゲームもあれば攻略情報だって簡単に見れるのに」


「コントローラーで操作するから面白いんだよ。それに攻略情報だって何となく眺めるだけで楽しいし、製作者さんの話も見れて面白いんだよ。って、玲も私と同じでしょ?」


「……まぁね」



 言いながら玲はいくつかのお菓子とココアの入ったカップをお盆に乗せ、詩織の元へと戻る



「それより体調はどう?」


「うん、大丈夫。わたしは元気だよ。本当なら今すぐ外だって全力ダッシュ出来ちゃいそう」


「って、それはダメだって先生から言われてるでしょ」


「うぅ……本当に走れそうなんだけどなぁ」



 詩織が唇を尖らせながら呟く。そんな彼女に玲は「仕方ないな」といった感じの苦笑とため息をつきながら



「もう少し良くなったら先生に話してみましょうか」


「話すってなにを?」


「外出が出来ないかって話よ。あなたの「呪い」が弱まる頃合いを見て、散歩とか遊びに出掛けるの。詩織、外に行きたいんでしょ?」


「そりゃ行きたいけど、でも……。ううん、そうだね。先生に話してみて。わたし、期待してるからね!!」


「結果はあなたの体調にかかってるのよ。だから安静にしてて。ゲームをするくらいなら大丈夫だと思うから」


「はーい」



 子供がするような返事。しかし詩織のその表情は何かが少し変わった。それを察せさせることもなく、詩織は思い付いた様に話を続ける



「そういえば、玲。特待生の転校生さんはどんな感じなの?仲良くはなった?」


「仲良くなんてなってないわ。あまり話もしてない」


「えー、せっかく同じクラスでわたしたちと同じ特待生なんだから仲良くすればいいのに」


「……いいのよ、別に。私には目的があるんだから、遊んでいる暇なんてない」



 玲はそういうとベッドから立ち上がった



「時間、短くてごめんなさい。でも明日の準備があるから」


「分かってるよ。また遺跡に行ってくれるんでしょ?次はどこの遺跡に行くの?」


「街からちょっと離れた場所にしようかと思ってるの。考えてるのはイスポート遺跡かな。この周辺はもう探索しきったから」


「そう……」



 詩織が一瞬だけ下を向き、言葉を詰まらせる。それから顔をあげ無理やり詰まった言葉を言い放った



「玲、無理に遺跡に行く必要はないんだよ。絶対何とかなるとは限らないし、それに玲だって被害を受けちゃうかもだから」



 詩織はさっきとは違い必死な顔で言った。軽い気持ちや嘘をついているわけではない。本当に玲を心配していることがよく分かる。

 そんな詩織を見て玲は優しく微笑んで彼女の頭を撫でた



「ありがとう。でもこれは私の意思でやってるの。私は何としても「あなたを治す」ヒントが欲しい。答えが欲しい。そのために探索してるの。大丈夫。あなたとの約束は必ず、必ず守るから。だから心配しないで、ねっ?」



 玲の手は詩織の頭を離れ、その足は保健室のドアに向かう



「玲っ!!その……ありがとう……」


「えぇ、また来るから」



 玲はドアを開き、少し手を降ってその場を離れて行った



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「…………」



 掃除用具のロッカー扉が開き、理恵が床に足をつけた。

 保健室のドアの前。そこにこのロッカーはある。理恵は玲と詩織の会話を壁に耳を当て聞いていたのだ。そして玲が出てくるので慌ててロッカーに隠れていた



「バレてないよね……?」



 確認のつもりだったが、一人言だと思われたらしく瑠璃は返事をしない



「なんかすっごい重い内容を聞いちゃった気がする。玲のことを知りたくて聞いたけど、やっぱり悪いことしちゃったよね……」


「マスター、今は後悔する時間ではありません」


「そ、そうだね。とにかく今はこの場を離れて……」


「あの……ちょっといいですか?」


「っ⁉」



 その場を声が聞こえた瞬間ら理恵の背筋がピンと伸びる。

 声の主は間違いなく玲と話していた詩織。彼女には理恵達の存在は知られているらしい



「あの、もしよかったら部屋に入ってもらえませんか?」


「…………」



 存在が知られている以上、無視をするわけにもいかない。そう考えた理恵はドアを開き、保健室の中へと入っていく



「あの、詩織さん……ですよね。ごめんなさい!!」


「うわっと。あはは、謝らないで下さい。別に何か怒ってるわけじゃないですから」


「怒ってないんですか……?」


「あそこにいた理由、何となく分かりますから。森芝理恵さんと瑠璃ちゃん。同じ特待生として玲のこと、気にしてくれてたんですよね」



 詩織は嫌な顔をまったく見せることもなく、優しい表情を見せる



「あっ、玲との話の中で聞いたかも知れないですけど、私、玲と同じ学年なんです。だから私のことは呼び捨てアンドタメ語でお願いします」


「呼び捨てでいいん……じゃなかった、いいの?」


「うん。私も性格上そっちの方が気楽だから。それに理恵もいつも丁寧語ってタイプじゃないでしょ?」



 言いながら詩織がウインクしてみせる。そんな彼女に自分の事を見破られた理恵は微笑していた




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