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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ エクストラストーリー ユートピア編
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第2話 予想外の再会


 魔法国「ユートピア」。

 古代遺跡がいくつも存在する事で有名なこの国では、学者たちによって過去の出来事や文明に関する調査や研究が盛んに行われていた。

 そしてその中心にはこの国で最も栄えている街「ユートピア」があり、その街中には「ユートピア学園」と呼ばれる魔法学園が作られている。

 早朝というには少し遅い時間。学園は今日のスタートを迎える



「……」



 玲は静かに外を眺めていた。

 昨日の収穫は特になかった。あえていうならゴーレム戦の経験程度。だが玲のそれはもうかなり積まれているので意味はない



「なぁ、転校生の話聞いたか?」


「聞いた聞いた。日本から来る転校生なんだってな」



 近くにいた男子生徒から話し声が聞こえる。

 日本から来るという転校生。数日前にその情報が広まり始めると生徒たちの会話の話題はほとんどがそれだった。

 新しい生徒というだけでも十分話題性はあるのだが、今回の転校生がこのユートピア学園の特待生になるというのだ。話題にならないはずがない



「私と同じ特待生になる日本からの転校生……まさか、ただの偶然よね」



 頭の中に予測が生まれる。が、玲は首を振ってそれを否定した。

 いくら共通点が多いといえど、昨日出会った少女と転校生が同一人物であるわけがない。

 そんなことを考えていると少し離れた位置で扉の開く音がした



「今日も賑やかね。やっぱり転校生の話で盛り上がってるのかしら?」


「おっ、唯香ちゃんだ」


「唯香先生、おはよー」


「はーい、おはよう。さぁみんな席に着いて」



 おっとりとした感じの声が広がった。それに反応するように散らばって雑談していた学生たちが各々の席に戻り、席に着く。

 彼女の名前は優月唯香ゆづき ゆか。このユートピア学園の教師の一人だ。

 特徴的なのは丁寧に手入れされている事が一目で分かる綺麗なロングヘアー。白いブラウスに緑と白のチェック柄のスカート。その上から青のカーディガンを羽織っている。

 一見すると学生にも見える小柄な体系だが、どこか艶めいた雰囲気を持っており、揺れるスカートの裾が色っぽく見える。

 そんな彼女は明るい赤紫の美しい長髪を揺らしながら教壇に立った。青色の落ち着いた瞳がその場にいる生徒全員に向けられる



「早速だけど、みんなの気になってる転校生を紹介するわね。理恵ちゃん、瑠璃ちゃん入ってきてもらえる?」


「っ!?」



 玲は思わず反応した。今、唯香が呼んだその名前に聞き覚えがあったからだ。玲の視線が扉に向けられると、二人の少女が室内に入ってくる。

 一人は栗色の肩にかかるくらいの髪の少女。緑色の瞳で楽しそうに教壇へ歩いていくその姿から活発な性格であることを感じる。

 その後ろにはもう一人、水色の髪をした少女がいた。身長は高くなくむしろ平均より小さい方ではあるだろうが、髪と同色で少し細められた瞳は落ち着いた冷たい印象がある

 間違いない。玲はその二人に出会ったことがある。彼女の予測は当たってしまったのだ



「森芝理恵ちゃんと瑠璃ちゃんよ。二人とも、挨拶をしてもらっていいかしら?」


「はい。森芝理恵です。よろしくお願いします」


「マスターの契約者パートナー、瑠璃です。よろしくお願いします」


「はーい。それじゃあ席を決めましょうか。そうねぇ……玲ちゃんの隣が空いてるみたいね」



 唯香の視線が玲の隣の席に向けられる。それに続いて理恵も同じ場所に目をやった。そうなると、当然玲の姿は理恵の視界に入り―――



「あれ?もしかして……玲?」



 お互いにとって予想外の再会を果たしてしまったのだった



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



 全ての授業が終わった放課後、玲は静かに教科書をバッグにしまっていた。隣にいる理恵は大きく背伸びをしている。

 今朝以降、理恵は何度も玲に話しかけてきた。しかし玲は基本的に読書に集中し、まともに会話は続かなかった。普通なら諦めて他の子に話しかけてもおかしくない。

 けれども理恵は話しかけるのを止めなかった。そしてそれは放課後の今でも変わらない



「ねぇ、玲。一緒に学園内回ってくれないかな?ちょっと色々教えてほしくて……」


「悪いけど私はこれから用事があるから。他の人をあたってもらえる?」


「あっ……」



 理恵の返答を待つことなく玲は席を立ち、教室を出ていく



「もしかしてあたし、失礼なことしちゃったのかな。それで怒ってる……とか?」


「分かりません。ただ私にはマスターが失礼な態度をとった記憶はありませんが」



 理恵は瑠璃と顔を見合わせて「うーん」と唸る。それを見て何かを思ったのか、会話を楽しんでいた女子学生が数人で理恵たちの元へとやってきた



「黒羽さん、いつもあんな感じなのよ」


「いつも?」


「そう。私たちも黒羽さんと友達になりたいなって思って、ご飯とか遊びとかに誘ったことがあったんだけどね。用事があるからってことでどこかに行っちゃうの」


「用事があるにしても、もうちょっと断り方ってあると思うんだけどねぇ……」



 女子学生たちは玲の事を嫌っているわけではないらしく、むしろどうすればいいのかといった困った表情を浮かべる



「夜も一人で寮から出てどこかに行ってるっていうし……。だから悪い人たちに関わってるんじゃないかって噂まであるくらいなの」


「悪い人たち?」


「ほら、ユートピアみたいな魔法国では魔法が使えるでしょ?それを使って暴力を振ったり、物を盗ったりする人たちは少なからずいるんだよ」


「もちろん、悪い人に関わってるっていうのはただの噂だから私たちも信じてはいないんだけどね。っとまぁちょっと暗い話は置いといて、ねぇ森芝さん。もしよかったら私たちが学園内の案内しよっか?」


「えっ、いいの?それじゃあ、お願いしようかな。ね、瑠璃」


「そうですね。周辺の把握は大切です。ぜひお願いしましょう」



 話がまとまり、カバンを持って先行する女子学生のあとを理恵と瑠璃は付いて行く。 

 園内を回りながら上の空だったわけではなかった。日本の学校では考えられないほど天井は高く、魔法専用の教室には魔方陣などが描かれており、彼女にとって驚きの連続だった。

 しかし理恵は学園内の説明を聞きながら、もっと玲に関わりもっと彼女の事を知り、仲良くなりたいと意志を固めていた




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