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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ エクストラストーリー ユートピア編
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第1話 古代遺跡での出会い

お化け少女と契約エンゲージⅡ エクストラストーリー ユートピア編の第1話です。


ちなみにこの第1話の作成日を見てみると2016年の11月4日。ずいぶんと時間がかかってしまいました……すみません。


でもその分、最後まで納得のいく物語となりました。楽しんで頂ければ嬉しいです。




「ハァ……ハァ……」



 右手に握られた剣が地面に突き刺さった。荒れる呼吸。それから間もなく、左手の少し透明になり始めている剣が光る粒子となって宙に消える。

 辺りには何機もの機械兵が倒れていた。起動している印となる眼は輝きを失っている



「ここでも……ない」



 荒れた呼吸のまま少女は呟いた。ここが洞窟であるといえど、その小さな声が響く事はない。いや、そうでなくても疲労によって体力を失っている事がよく分かる



「お疲れ様、ダーインスレイブ」



 浮かない声色で彼女は自分の武器(ディレクトリ)の名を呼び、その姿が光の粒となって消える。それからスカートであることを気にしてか、壁際の大きめの石がある場所を探して座った



「……」



 腕に付けた機械のスイッチを押し半透明な電子マップが空中に表示され、そのウチの一ヶ所に触れバツ印を書き込む。

 マップ上にはもういくつものバツ印が記されていた。その数は十を越えるほど。

 少女はため息をつく



「さすがにちょっと疲れたかな」



 片腕を振ると電子パネルが消える。彼女は頭上を見上げた。石の空は薄暗く、感情も相まってあまり良い景色とはいえない。

 少女はたいした休みも取らずに立ち上がり、これまで歩いてきた道を逆方向に歩いて行く。

 その後ろ姿はどことなく寂しさを秘めているように見えた



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「……っ?」



 洞窟の出口で少女は立ち止った。外は遅い時間になっているらしく暗くなっている。しかし気にするべき点はそこではない。

 月明かりに照らされる人影。しかもそれは二つある



「……誰?こんな所に、こんな時間に」



 少女が構えると右手に武器ディレクトリ「ダーインスレイブ」が姿を現した。

 形状は片手剣。持っている少女の体格を考えると苦労しそうな大きさのはずだが、彼女は辛そうな表情も見せずに刃を人影に向けている。


 少女はいつでも戦闘が始められる状態だった。

 しかし、彼女に刃を向けられた人影が攻撃の仕草を見せることはない。それどころか戦闘を始める独特の雰囲気すら感じられない。

 すると人影は両手を前に出し、それを左右に振った



「うわぁぁ!!ちょっと待ってちょっと待って。あたし戦うつもりなんてないよ!?ないんだってば!!」



 月明かりに照らされたその顔を見ると間違いなく慌てている



「戦うつもりがない? 何か悪さをしにここに来たんじゃないの?」


「違う、違うってば!!あたしはただ散歩をしてる途中でここに来たの!!遺跡なんて珍しいからちょっと覗いてみようかなって思って来ちゃったの!!」


「マスターの言う通りです。私たちはあなたに害を与えるつもりはありません」


「…………」



 その言葉を聞いて数秒後、少女はダーインスレイブを降ろした。それから解除し、人影に近づく



「ハァ、助かったぁ……」


「あなた達、ここには本当に散歩に来ただけなの?」


「うん。あたしの名前は森芝理恵。それでこっちにいるのが瑠璃。あたし達は昨日、日本から来たんだ。あっ日本にはね、こういう遺跡ってなかなか無くて。だからすっごい珍しくて見に来ちゃったんだ」


「そう。でも例え珍しかったとしても、ここには安易に来るものじゃないわ。ここには―――」



 そう言った途端、爆発音のようなものが響き渡った。わずかに差し込む月明かりに照らされ、何かが地面から突き抜けてきたことが分かる。舞い散る土の中で姿を現したのは



「なにこれ……機械の人形……!?」


「下がって」



 少女が振り返り、ダーインスレイブを横に構える。その後、振り降ろされる巨大な拳。少女は力を込めてそれに耐え、背後で唖然とする理恵にわずかな視線を送る



「もっと下がって!!」


「う、うん」



 理恵が瑠璃を抱きかかえ更に後方に移動する



「―――ッ!!」



 それを確認した少女はダーインスレイブを真横に振り、巨大な拳を振り払った。機械兵はバランスを崩してよろめき、数歩後退する



「何あれ……」


「この遺跡に出てくるモンスターの一種「魔法機械兵マジックゴーレム」。あれが気を付けた方がいい理由よ」


「モンスター……?」


「知らないの?……まぁいいか、ここにいて。片付けてくるから」


「片付けるってあれと戦うの!?危ないよ!?」


「いいから大人しくしてて。下手に動かれると邪魔になるだけだから。≪ソニック・ファントム≫」



 冷たい言葉を投げかけたまま少女は地面を駆けて行く。それを理恵は見ている事しか出来ない。だが、心の中で一気に不安が募られていく。

 無理をして冷たい言葉を吐き捨てているのではないだろうか。本当に戦って勝てるのか。そんな思考が頭の中を駆け巡る


 一方の少女は振り返ることもなく、魔法機械兵マジックゴーレムの目の前まで来ていた。振り降ろされる腕を使った攻撃を軽いジャンプで横に飛ぶことによって回避し、右手に握った剣で足を切りつける。

 ゴーレムのバランスが崩れた。膝を地面に付き、動きに隙が出来る。

 その瞬間を少女は逃さなかった



「≪ファントム・ブレード≫」



 左手の空間が歪みを見せ、右手の剣と同じ様な剣が生成される



「≪デュアル・スレイサー≫」



 身体を回転させ、両手の剣で胴体に連続攻撃を加える。攻撃を受けたゴーレムはダメージを受けているらしく、唸り声のようなものをあげた。

 ゴーレムの腕が地面から離れて宙へと構えられ、それはもう一度振り降ろされる。

 同時にダーインスレイブのコア部分が輝きを放ち、ゲージが一つブレイクされた



「≪リバース・グラビティ≫」



 ゴーレムの攻撃が直撃し衝撃を受けた地面から土が抉られた。砂煙が巻き上がる。だが、その攻撃が空振りに終わった事は誰が見ても明らかだった。

 何故なら―――



「と……飛んでる!?」



 理恵が声をあげる。彼女の視線の先。そこではダーインスレイブを持った少女が砂煙から脱出していた。声に出した通り「飛ぶ」ことによって攻撃を回避したのだ



「これで最後ラストね。≪ファントム・ロストスラッシャー≫」



 ≪ファントム・ブレード≫がエネルギーの粒子となってダーインスレイブに吸収され、刃は大きさを増した。ゴーレムが両腕を目の前で組み防御の体勢を取る。だが、それでは彼女の攻撃を防ぐことは出来なかった。

 少女がダーインスレイブを振り下ろすと刃は両腕をすり抜け、本体に直撃したのだ。

 その衝撃を受けたゴーレムは後方に倒れ、小さな球体へと姿を変えていく



「……」



 地面に降り立った少女が球体を手に取った。

 理恵は思わず言葉を失った。

 その小さな身体に合っていないはずの大きめの剣。少し大きめのトンガリ帽子とマント。それらを身に付け、月明かりに照らされた圧倒的な実力を持つ少女。

 それは理恵が日本でプレイしていたゲームのキャラクターの様で―――



「ねぇ、あなた、名前は?」


「……れい黒羽玲くろばね れいよ」


「そっか。玲、ありがとね」



 理恵が笑みを浮かべた。対する玲は特に反応することもなく魔法の武装を解除し、制服のポケットに球体を入れる。

 静寂に包まれるその遺跡には少し冷たい風が吹いていた




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