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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ エクストラストーリー エルドア編
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第8話 青と金の二重星龍(アルビレオ)

 咆哮を撃ち終えたファフニール・ブレイブが雄叫びをあげた。その背後には召喚者であり、魔法を発動させたアリスの姿。彼女の視線は爆煙に向けられている。


 ≪人形魔法ドールマジック超水人形龍アサルティック・ハイパー咆哮ブレス≫。ファフニール・ブレイブの切り札はこの戦いに終止符を打った。

 煙の影響で詳しい状況は分からないが、男たちに動く様子はない。それが何よりの証拠だった



「ハァ……ハァ……ファフニール、お疲れさま」



 安心したアリスがファフニールの頭を優しく撫でながら微笑みかける。が、その身体はゆっくりと崩れてしまった。後方に傾き、ゆっくりではあるが地面に向かって倒れていく。

 すると慌てて駆けつけたコレットがギリギリのところで受け止めた。その後ろでは美咲が焦りの表情を見せながら走ってくる。


 その途中、ファフニールの身体は一部が半透明になっていた。全身から小さな光の粒子が空に向かって飛んでいく。それは魔法が解けていく時に起こる現象。苦しみや痛みを感じる様子もなく、ファフニールはアリスを視界に捉えたまま小さな人形の姿へと戻っていく



「あ、アリスさんはだいじょうぶ……なんですか……?」


「大丈夫よ。気を失っただけみたい」


「き、気を失うって……」


「正確には眠っている、かしら。普段あまり魔法を使わない人が魔法を使うと起こるのよ。アリスの場合、慣れない大型の魔法をいくつも連発させたんだもの。体力を大幅に消費してしまうのは仕方のないことだわ」



 そう言うコレットの声に焦りや緊張はなかった。

 魔法は魔力を使って発動させるが精神力や体力と無関係というわけではない。大型の魔法なればなるほど消費するそれらの量も大きくなる。

 コレットの言う通り大型の魔法を連発したアリスはいってしまえば「いつも以上に激しい運動を行ったあとの状態」なのだ。

 もっとも眠ってしまう他の原因としては「使用者と魔法の相性が悪すぎた」「普段魔法に触れていなかったのに急に魔法を発動させた」などがあるが、今回のアリスはそれらに当てはまらない。

 何よりの証拠に耳を澄ませると小さな寝息が聞こえる。戦闘中であれば気づく事もないだろうが、戦いが終わった今はそれが心を落ち着かせてくれる



「お疲れ様。よく頑張ったわね、アリス」



 コレットがアリスの金色の髪を優しく撫でながら呟いた。

 自分と隣にならんでこれからを歩みたいと言ってくれたアリス。改めて仲間ということを確認できたコレットは自然と笑顔になっていた。

 そんな彼女の表情を見て、美咲も同じ類の表情を浮かべる


 その時だった



「身代わりがいなければ、やられていたな」


「っ!?」



 咄嗟に声のする方角を向いた。そこに立っているのは一人の男性。服は所々が破れてダメージは負っているが倒れてはいない。彼がアリスたちがつい数分前まで戦っていた男に間違いなかった


 

「どうして……」


「あの技を受ける直前に近くにいたヤツを盾にしたのだ。おかげで直撃は免れた。もしもあれを食らっていれば、俺もやられていただろうがな」


「仲間を……盾にしたんですか」


「あぁ。自分の身を守るためなのだから当然だろう」



 盾となったであろう男が放り投げられ地面に転がった。それからローブの男は自分の服のあちこちに付いた土を掃う。

 ダメージは負っている。が、まだ戦闘を行えるほどの力は残しているようだった。その証拠に右手に魔力弾を作り出し、男は言った



「アリス・フィルリーネは倒れ、コレット・アリシャートはもはや戦える状況ではなくなった。大人しくしてもらおう」



 男の言う事は確かだった。眠っているアリスが戦えないのはもちろんだが、コレットも【No.4≪瞬間回復ヒール・モーメント≫】を全開で発動した事で魔力や霊力はほとんど残されていない。

 美咲は先ほど盾を作る事には成功したが魔法戦を行えるほどの技術も経験もない以上、戦うことは不可能に近かった。


 男が一歩、一歩と近づいてくる。コレットは反射的に左腕でアリスを、右腕で美咲を自分の胸元に引き寄せた。それから唇を噛みしめる。

 双方の距離が縮まり、コレットの頬を汗がスーッと流れていく。


 静寂に包まれた空間。


 そこに変化が訪れたきっかけは一つの言葉だった



「はーい、そこまで」



 その声は辺り一帯に広がった。同時に地面がわずかに揺れてコレットと男の間に樹木の壁が現れたのだ。男は警戒したのか、地面を蹴り自身の身体を後方へと移す



「こ、これは……」


「≪ウッド・ガーディネイト≫。木で作った壁を出す魔法だよ。別に警戒する必要は無いさ。アンタがコレットたちに近づかないために出しただけだから」



 そう言いながら上空から一人の女性がコレットたちの目の前に降り立った。彼女が指を鳴らすと≪ウッド・ガーディネイト≫は音を立てながら地面の中に消えていく。

 目の前に現れた人物。彼女は振り返り、コレットたちに笑顔を見せた



「よく頑張ったね。アリスもコレットも美咲もなかなかやるじゃないか。見直したよ」


「ま、真莉音さん……?」


「うん。三人を助けに来た真莉音さんだよ」



 コレットの呟きにVサインで答える真莉音。その姿は余裕に溢れており、コレットは思わずホッと安堵する。

 


「でも、どうしてここに……?」


「美咲を探し回ってたらたまたま見つけたんだよ。それでちょっと様子を見させてもらってたんだ。そしたらまぁ、バトル経験のないアンタたちが、正体不明のしかも複数人を相手によくやったよ。あとでコーヒーをご馳走してあげる」



 真理音はクルリと振り返り



「それで、アンタは何なのかな?急に女の子を襲撃して、怪しさ全開だけど」


「エルドア学園の学園長様には関係のないことだ。名乗る必要はない」


「教える気はないってことか。仕方ない、だったら少しだけ実力行使させてもらうよ」



 真理音が右手を上げ指を鳴らした。その瞬間、周囲の岩が男の元へと飛んでいき壁を作り出していく。

 外側から見てみるとそれは岩でできた檻の様だった。

 男が力を込めて魔力弾を放つが岩の結合が解除される様子はない。まるで磁石同士が引っ付き合うかのように離れない



「《アポートメント・グラビティ》。重力系の魔法さ。アンタの身体を中心に重力を発生させ、岩が集まるようさせてもらったよ」


「行動制限か。厄介なマネをしてくれたものだな」


「悪いけどこのまま一緒に来てもらうよ。アンタには色々聞かなきゃいけないことがあるからね」


「残念だがそれに従うわけにはいかないな」



 瞬間、男の身体が黒に染まった。手足の形状がスライムの様に変化し、岩の隙間をすり抜けて数メートル先に移動する。

 形は移動先に到達するとすぐに元の形へと戻った。わずか一、二秒で男の姿が現れる

 


「身体が影になった!?」


「へぇ。けどさ、だったら今度は隙間のない檻を作ればいいだけでしょ」



 真理音が指を擦り合わせ、再び同じ魔法を発動させようとする。

 しかし彼女は何かを感じ取った表情を浮かべ≪アポートメント・グラビティ≫の発動を中断した。

 腕を降ろした真莉音を見ると男は逃走のチャンスだと思ったのか、足に力を込めて地面を蹴り上げようとする。

 瞬間、男の身体の周囲で光の粒が輝いた。それは一気に増加し素早く結合すると「形」へと変化する



「な、なんだこれは!?」


「拘束魔法……?」



 コレットが半信半疑といった具合に呟く。

 男の身体には魔力で作られた輪っかの様なモノが付けられていた。青と金の入り混じった色の輪は左右の腕を身体に締め付けている。

 この状態では手を向けた方向に放つ魔力弾すら撃つことが出来ない



「まさか……!?」



 真莉音が慌てて上空を見上げた。続けてコレットや美咲も同じ方向に目を向ける。

 そこには「何か」が浮遊していた。大きな翼と思われる物体をゆっくりと羽ばたかせ、ゆっくりと地上に降りてくる。

 徐々に分かってくるその外観。それは間違いなく「龍」と呼ばれる生物そのものだった。

 龍は地上に降り立つと一度振り向いた。左右の青と金の美しい瞳がアリスたちの姿を映し、今度はローブの男へと目を向ける



「あれって「アルビレオ」……?」


「アルビレオ……?」



 呟く美咲に真莉音がコクリと頷く



「ユグドラシルに住んでる精霊……守護龍なんて呼ばれ方もしてるかな。一応存在は確認されてるけど、ほとんど姿を現さないんだ。私も伝記で見たことがあるだけ」


「そんなにすごい精霊が……どうしてここに……?」


「分からない。とりあえずアイツを拘束してくれてるから敵意はないと思うけど―――」



 真莉音が言ったその瞬間、アルビレオが動きを見せた。翼を大きく広げ雄叫びをあげると、アルビレオの前に光輪が生成され、その中心に魔力が集束されていく。

 攻撃魔法である事はほぼ間違いなかった。それは攻撃対象となっているであろうローブの男も理解し、自分の身を封じている輪を解除しようと試みる。

 だが、輪はピクリとも動かなかった。真莉音の≪アポートメント・グラビティ≫をすり抜けた時と同じ様に自身の身体を影へと変化させようとするが、それすらも出来ない



「影化が発動しないだとッ!?」



 高まる焦り。それを更に加速させるように魔力が集束し球体となったアルビレオの魔法がキュインと甲高い音を立て、準備が整ったことを知らせた。

 魔法の大きさは人一人程度。それを食らえば一気にダメージを受けてしまうことは予測できる。

 だが、予測は出来ても対処する手段が男には残されていなかった。アルビレオが翼を羽ばたかせると同時に球体はローブの男に向かって放たれた



「クソォォォォォ!!」



 男の悔しさの込められた叫びが爆発音によって掻き消された。

 大規模な爆発ではない。が、威力は十分だったらしく、煙のはれた箇所では拘束を解かれた男が地面に倒れている



「すごい……」



 美咲が無意識に声をこぼした。

 拘束し戦闘不能にさせるまでにかかった時間はわずか数分。元々真莉音が手をかけていたとはいえ、その速度は間違いなく速い。それを実現するためにある程度の実力が必要なことは美咲にも分かる



「…………」



 攻撃を撃ち終えたアルビレオはローブの男が倒れている事を確認すると後ろを振り返った。そこにいるのは眠っているアリス。そんな彼女をアルビレオは視界に捉え見つめ続ける。

 様子からして攻撃するつもりはないらしい。むしろ、子供を見守る親のような落ち着いた眼をしている。



「(アルビレオがアリスのことを見てる……?)」



 真莉音の右手がいつでも指を鳴らせる状態へと構えられる。が、それも数秒で終わった。アルビレオは翼を羽ばたかせ浮遊した。そのまま上昇し、どこかへ向かって飛んで行ってしまう



「行っちゃいましたね……」


「……そうだね。まぁとりあえず戦いは終わったし、街に戻ろう。私はあの男たちを魔法で移動させるから」


「だったら私がアリスを運びますね」


「じゃ、じゃあ私は……ファフちゃんを……持ちます」


「美咲……うん、ありがとう。それじゃ行こっか」



 先に歩き出した真莉音とコレットをファフニールを抱きかかえた美咲が追って行く



「(最後のアルビレオ、あれは間違いなくアリスの方を見ていた。この男たちの存在、アルビレオとアリスの関係……)これから、忙しくなるかな」



 真莉音は歩きながら小さく呟いた



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