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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ エクストラストーリー エルドア編
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第6話 アリスの決意

「まさか、日本からの転入生がこんな所に居たなんてねぇ。水上美咲か。あんな状況で自分から突っ込んで行くなんて。大人しそうな顔して案外お転婆な子だったんだねぇ」



 ユグドラシルの周辺に無数にそびえる木々。その一本の木の枝に彼女は乗っていた。腕を組み、森林の中で話す三人の少女を見つめている。

 篠崎真莉音。彼女は静かに微笑した。

 手のかかる生徒を優しく見守る教師の顔。彼女が浮かべたのはそんな表情だった



「それでアリスとコレットは戦闘中。その相手は……っと」



 視線が変わると表情も変わる。その目線の先にあるのは黒いローブの男。仲間と共に集まり、何やら会話をしている



「ローブが邪魔でよく分からないか。けどまぁ、もう少しだけ様子を見させてもらおうかな。アリスもコレットも本格的な戦いはこれが初めてだろうし。美咲の人柄ももっと知りたいし」



 真莉音はポケットから缶を取出し口に含む。自作した特製のコーヒー。調整の上手くいったそれの若干の苦みを楽しみながら、真莉音は口元を引き上げるような笑みを見せた



「エルドア学園の特待生の力……見せてもらうよ」



☆     ☆     ☆     ☆     ☆



「さて、ずっとここに隠れているわけにもいかないわね」



 落ち着いた声で呟く様に言ったのはコレットだった。その視線の先ではローブの男が地面に手を付き、魔法陣が浮かび上がっている。


 ―――探索系魔法か。


 コレットはそう思いながら自分の後ろにいる二人に目を向ける



「あの人たちは私たちを特待生だと分かって襲ってきた。もし普通の観光客や研究者ならそんな事はしないわ。彼らはここで私たちに見つかると不利になる何かをしている」


「つまり悪いことをしてるってことだよね……?」


「そう。そんな状況で逃げるわけにもいかない。だからアリス、美咲さんを連れて街へ戻って」


「えっ、コレットはどうするの?」


「ここであの人たちを見失うわけにはいかない。だから私はここで戦うわ」


「それじゃあ私も戦うよ。私だって召喚を使えば少しは……」


「大丈夫よ。アリス、私を信じて」



 コレットの顔が優しさで満ちる。とても安心する笑顔だった。いつものアリスであれば「うん」と頷き、その言葉を受け入れていただろう。

 だが、今回は違った。首を振る事もないが頷きもしない。その代りアリスは真っ直ぐな瞳でコレットを見つめる



「コレットのことは信じてるよ。だって親友だもん。信じないわけがない。でも……それでも私は、コレットを残して戻るなんて出来ない」


「アリス、それはどうして?」


「あのねコレット……私は……私はね……っ!!」



 言葉を繋ぐアリスの両手がギュッと握られた。アリスがここに来た理由。アリスの望む願いが言葉となって飛んでいこうとする。

 そんな時だった



「―――撃て!!」



 つい数分前に聞いた声。それはローブの男の声に間違いはなかった。その証拠に光の球体がアリスたちの周囲を囲い、球体の一部が光線となって放たれる。

 指示から発射までわずか数秒。まともな準備をすることも出来ず、アリスと美咲は口を開いて驚いている。

 それに対してコレットは違った。歯を食いしばりながら眉を潜めながら同時に二人を引き寄せ、ヴァルハラのゲージを一つブレイクする。



「≪マーセナル・プロテクション≫!!」



 魔法が発動するとほぼ同時に光線は爆発へと変わった。その爆発によって生み出される黒煙。その黒煙を何かが飛びだし、宙を進みながら森林のない場所へと転がり落ちた。見ればコレットがアリスと美咲を抱えている



「攻撃に気付いて防御魔法を発動し、追撃を受けない様に移動したか。だがまさか、一人が三人を抱えて移動するとはな。正直、驚いたぞ」


「≪マーセナル・プロテクション≫は自身の周囲に防御効果のある結界を作り出す魔法。それで攻撃を防ぎ、爆発によって生まれた衝撃を使ってここに移動しただけです」


「なるほど、相手の攻撃による衝撃を利用したか。その対応力、素晴らしいな。だが、魔力は大幅に消費してしまった様だ。そんな状態でこれを何とか出来るか?」



 立ち上がったコレットたちに向かって男が魔力弾を放った。一見すると特徴のない一般的な射撃。防御魔法を使いたくないコレットがヴァルハラを掲げ、タイミングを見計らって振り下ろす。

 彼女はこの魔法に何らかの罠があると考えていた。だから警戒を怠らずゲージはブレイクし、いつでも≪マーセナル・プロテクション≫を使える様に心構えはしていた。

 しかし、撃ち落とした魔力弾は砕け散るだけだった。粒子となって消えていく魔法。コレットは一瞬、疑問を感じた。

 そして一つの答えに辿り着く



「―――違う!!これはフェイント!?」



 顔を上げるとローブの男の後方で全員が魔法を発動していた。コレットたちの周囲に黒い煙が現れ、その量を増して視界を悪化させていく



「(煙……これじゃあ防御魔法を使っても結界内に煙が残るから意味が無くなる!!)」



 コレットは焦りを感じた。この状況で使ってくる魔法が視界妨害効果だけを持っている訳がない。考えられるのは煙の充満した空間に居座る事でダメージを受ける魔法。

 だとすれば自分だけではなく、煙に包まれているアリスや美咲にもダメージが加えられることになる



「アリス!!美咲さん!!」


「えっ……?」



 コレットは瞬時に腕に力を込め、自分の隣にいるアリスと美咲の背中を押した。

 突然押し出された二人はその衝撃に耐える事が出来ず、煙の外で勢い余って地面に転がり込んでしまう



「コレット!?」



 擦りむいてしまった膝を気にすることなくアリスが煙の中にいるコレットに向かって声をあげた。しかし返事が返ってくることはない。

 アリスたちの姿を確認するとローブの男が舌打ちをしながら右手を上げ、魔法停止の指示を出した。

 するとコレットを包み込んでいる黒煙は一気に薄れ消えて行った



「コレット!!」


「コレットさん!!」



 アリスと美咲が走りコレットの元へと駆けつけた。コレットは地面に膝をついており、呼吸は荒れ疲労しているのが分かる



「≪アシッド・スモーク≫はその名の通り、煙の中にいる対象にダメージを与える魔法だ。本来であれば三人まとめてダメージを受けてもらうはずだったが……まぁいい。唯一の戦闘力であるコレット・アリシャートにダメージを与えられたのだからな」


「ハァ……ハァ……」


「さぁ、また回復してみるといい。そのダメージも回復すれば無かった事に出来るだろう?もっともその場合、霊技を使える回数も一回減ってしまうわけだがな」



 ローブの男の皮肉めいた言葉にコレットが唇を噛んだ



「(【No.4≪瞬間回復ヒール・モーメント≫】を使えるのはあと数回……このままじゃ長くは持たない)」



 コレットの中の焦りが加速して積み上げられ、自然と両手に力が込められる。

 これまでは自らを奮い立たせるために何とか出来ると信じていたが、こんな状況になってしまっては不利ということを認めざるを得ない。

 汗が頬を伝っていく。

 状況に変化が訪れたのはその時だった。コレットの隣にいたアリスが無言のまま数歩前に踏み出したのだ。それから背負っていたリュックを目の前に置き右手にクロノスを出現させ、構えてゲージをブレイクする



「コレット、ここは私に任せて。私があの人たちと戦うから」


「アリス……?アナタ何を……」


「コレットは私の事を大切に思ってくれてる。だから戦わなくていいって言ってくれるんだよね?」


「そうよ。だってアリスは私の大切な友達だから。だから傷ついてほしくないの」


「うん。そう思ってもらえるのは、すごく嬉しいよ。けどね、私やっと分かったんだ。私の戦うことの意味。戦う理由。それは……」



 アリスが小さく深呼吸をした。それから振り返り、静かに言葉を続ける



「自分の気持ちを貫くためなんだよ」


「自分の気持ち……?」


「私はコレットの隣にいたい。後ろじゃなくて隣がいいの。コレットに守ってもらうだけじゃなくて、コレットを守りたい。守って守られて、助け合えるようになりたい。そのために……そんな気持ちを貫くために今、ここで戦わなくちゃいけないの」



 アリスは想いを伝えると笑みを見せ、改めてローブの男たちがいる正面を向く



「さっきはコレットが私を守ってくれたでしょ?だから今度は私の番。今度は私がコレットを守る番。だから私に任せて、コレット」


「アリス……」



 思わず言葉を零しながらコレットは唖然とした顔で凛々しく立つアリスを見つめた。

 基本的に後ろに付いて来ている事から、あまり見た事のないアリスの背中。身体が小柄なことに加えて大人しい性格である彼女のそれは決して屈強とはいえない。

 しかし、コレットはその背中から強い想いを感じていた。アリスの語った彼女の気持ち。嘘偽りのないその気持ちがきっと彼女の力になっている。だからその背中を力強く感じる。

 と、コレットの右手に何かが触れた。それは隣にいた美咲の手。コレットはその手から美咲の顔に視線を移す



「美咲さん……?」


「あの……私、上手くは言えないですけど、きっとアリスさんは今、頑張ってると思うんです。今までの自分を変えるために。だから……アリスさんのこと、信じてあげてください」


「信じる……アリスを……」



 コレットが再びアリスを見つめた。そして何かを決意した様に深呼吸をして一度、大きく頷いた



「そうね。分かったわ、アリス。私はアナタを信じる。信じてこの場を任せる。だからアナタの本当の力ここで見せて。これから一緒に、隣同士でいるために」


「うんっ!!……リミットバーストッ!!」



 コレットの言葉にアリスが嬉しそうに答えるとその瞬間、彼女の目の前に魔法陣が生成された。同時にその上に置かれたリュックが開き、中から龍を模した人形が現れる。

 白を基調に所々に青色の模様が入った人形。それはゆっくりを宙に浮かび、アリスの頭ほどの高さまで昇ると止まって白い光を放ち始めた。それは徐々に大きくなり、球体が形成される。

 そう、「アリス・フィルリーネ」の精霊召喚が始まったのだ



「水の力を秘めし人形龍。真なる力を今ここに!!≪人形龍召喚ドラゴニック・サモン≫!!」



 球体の放つ輝きが強くなる。それは辺りを包み込みコレットや美咲、ローブの男たちが思わず目を閉じた。そして―――



「来て、「ファフニール!!」」



 アリスのその声と共に球体が割れ、弾け散った。まるでガラスが割れたかのようにその破片が宙を舞う。すると内部から大きな翼が羽ばたきと共に飛翔した。

 それを確認するとアリスがディレクトリを下げ、ゆっくりと数歩前に進む。そして飛翔した翼は彼女の後方に降り立つ。

 その時、召喚者アリス・フィルリーネの背後には「人形龍」が姿を現していた

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