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お化け少女と契約《エンゲージ》  作者: 探偵コアラ
お化け少女と契約《エンゲージ》Ⅱ エクストラストーリー エルドア編
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第5話 魔法師見習い

「くっ!!」



 コレットがわずかに口を開き歯を食いしばりながら、その身体が少しばかり後退した。彼女の目の前では放たれた魔力弾が小さな輝く粒子となって砕け散っていく。

 それはこの数十分で何度も見た光景だった。アリスは徐々に体力を失っていくコレットの事が気になり、不意に彼女の服の裾を弱い力で引く



「大丈夫よ、アリス。心配しないで」



 コレットが笑ってみせる。

 アリスにまともな戦闘経験はあまりない。しかしそんな彼女でもこの状況が良くない事は理解できていた。

 防戦一方。コレットは守りに集中しており、攻撃の手を打っていない。加えて敵の方が人数が多い関係上、魔力が枯渇するのはコレットの方が早いのは明らかだった。

 それを分かっているのだろうか、敵のリーダー的存在と思われるローブの男は不敵な笑みをみせる



「この状況で大丈夫、か。随分と余裕だな。だったらこれはどうだ?」



 言い終わると同時に男が地面を蹴った。そのまま加速し、コレットたちの元へと向かって行く。

 接近戦を仕掛けてくる。それはコレットも理解していた。だから指を鳴らし、対抗するための魔法を発動させる



「≪ホーリー・フレイムエッジ≫!!」



 瞬間、男の目の前に光を纏った炎の槍が地面を突き破り現れた。しかし、男は軽く身体を逸らして回避する。それから槍がいくつも行く手を阻むが、その全てを男は避けて見せた



「≪シャドー・シャープネイル≫!!」


「≪ホーリースクエア・プロテクション≫!!」



 男が右手に影の巨大爪を纏って振りかざす。対するコレットは光の盾を作り出し攻撃を止めた。

 衝突と同時に互いの魔法に込められた魔力が火花のように散っていく。しかし優勢なのは男の方だった。鋭く形成された爪に抉られ、盾にヒビが出来始める



「くっ!!」



 そしてヒビは徐々に広がっていき、ついに切り裂かれてしまった。

 力の勢いが止まらなかった爪先は幸いなことに空を切ったのでコレットに直接的なダメージは無い。だが、隙は出来てしまった。

 男が再び笑みを浮かべる



「ガラ空きだな、≪シャドー・シャープネイル≫!!」



 今度は左手に≪シャドー・シャープネイル≫を発動させ影の爪が作り出された。男が身体を捻り、腕に力を込めて振る。

 防御が間に合わなかったコレットに攻撃が直撃する



「コレット!?」



 攻撃の勢いで吹き飛ばされたコレットの元へアリスが走って行く。意識を失うほどのダメージではない。だが、今まで盾を生成して疲労が積み重なった状態での一撃は決して軽いモノとは言えなかった。

 ≪シャドー・シャープネイル≫を解除した男が続けて右手を空へと掲げた



「まともに入った今の一撃……どうだ、なかなか辛かったんじゃないか?」


「そんなこと……ない。これぐらい、どうってこと……ありません」



 コレットが倒れた身体を起こして立ち上がる。そして自身の隣にいたアリスを後ろへ移動させた



「そんな状態でも守るか。なるほど、そいつがもう一人の特待生、アリス・フィルリーネというわけだ」


「あの人、コレットのことも私のことを知ってる……?」


「エルドア学園に二人いる特待生。その内の「戦えない」「弱い」方だろう?少し調べれば分かる事だ」


「弱い……ですって」



 男の言葉にコレットの表情が変化を見せた



「特殊な能力を秘めているから特待生になれたらしいが、実際に戦闘成績は悪く、一般生徒に何度も負けているんだろう?つまり勝利回数は少ない。その情報を元に考えれば「弱い」として言いようがない」


「アリスは弱いんじゃありません。優しいんです。優しいから、誰かを傷つけるのがイヤだから戦わない。それは決して弱いわけじゃない」


「……どうやら弱い方の話になるとやけに感情的になるようだが、状況は理解しているか?その減ってしまった体力で我々の攻撃を防ぎ続けられるとでも?」


「少し体力を削られたくらいで私が諦めるはずがないでしょう。言ったはずです、このぐらいどうってことはない、と」



 コレットが魔法を発動させ、地面に魔法陣が描かれる。しかしそれは通常の魔法を使う際に現れる魔法陣ではなかった。

 銀色の特殊な魔法陣。それは霊力を使って発動させる「霊技」を発動させる際に展開されるモノ。空中に漂う魔力と霊力がヴァルハラの先端に集束し、白い輝きを放った



「包み込め癒しの光。聖なる加護。【No.4≪瞬間回復ヒール・モーメント≫】!!」



 魔法陣から小さな光の球がまるで泡のように次々と浮かび上がった。それはコレットの身体に触れた瞬間に弾けて、その身体の傷を癒していく



Noナンバー付きの魔法……なるほど、それが霊技というヤツか。見たのは初めてだな」


「【No.4≪瞬間回復ヒール・モーメント≫】は名前の通り回復魔法です。その回復量は普通の魔力とは断然違う。今のでさっき受けたダメージは完治しました」


「ほぅ、直撃した攻撃のダメージを瞬時に完治するか。なかなか厄介だ」


「もしまたアナタたちの攻撃を受けてもこの霊技を使える限り、私に負けはありません。この戦い、それでもまだ続けますか?」


「構わないさ。特待生が霊技を持っていることは知っている。だからその対策も考えてある」


「対策……?」


「霊技は魔力と霊力を使って発動する魔法だと聞く。普通の魔法以上に消費するエネルギーが多いということだ。つまり、霊技を使った戦闘は長期戦になればなるほど使用者を不利にする。そうだろう?」


「ッ!!」


「どうやら図星だった様だな。ではお前の魔力や霊力と我々の魔力。どちらが早く尽きてしまうか……試してみようか」



 掲げられた右手が動き、指が鳴る。それを合図に男の後方で魔法師たちがいくつもの魔力弾を生成した。

 魔力弾であればコレットの持つ防御魔法≪ホーリースクエア・プロテクション≫で防ぐ事が出来る。しかし、これまでの様にそれを繰り返していては男が言った通り、魔力切れを引き起こし【No.4≪瞬間回復ヒール・モーメント≫】が使えなくなってしまう。


 ―――この際、守りを捨てて相手を倒す事に専念するか


 コレットの頭の中に策が浮かぶ。が、それは出来ない。敵の数が一人二人ならばなんとか出来るかもしれないが、それが十人を超えてくると話は変わってくる。

 基本的に守りを重視する戦い方のコレットは広範囲型の攻撃をあまり持っていない。しかもそれらは威力が低く、到底相手を倒すことが出来るとは思えない。



「(やっぱり守るしかない)」



 男が手を振りおろし魔力弾が発射された。コレットが≪ホーリースクエア・プロテクション≫を発動させ、その攻撃を防ぐ。一発一発が盾に直撃する度に衝撃が伝わってくる。

 攻撃が貫通しているわけではない。が、魔法の防御力が下がっている実感はあった



「(マズイ、このままじゃ……)」



 コレットが攻撃を防ぎながら何とか打開策を考えようと試みる。

 その時だった



「あの……皆さん……こっち……ですっ!!」



 少女の声が聞こえた。か細くて弱々しい声が、だがしっかりと聞こえた。

 それに反応したアリスが辺りをキョロキョロと見渡す。すると近くの木々に隠れた少女が手招きをしていた



「コレット、今の声あそこからだよ。どうしよう……?」


「(もしかすると罠かも知れない。だから迂闊に行っちゃいけない。けれど、この状態を続けても状況を打破出来るわけじゃない。でも……)」


「は、はやくっ!!アリスさん!!コレットさん!!」


「コレット……!!」


「……行きましょう。私が魔法を使ったらアリスはすぐに向かって」


「分かった!!」


「ヴァルハラ、ゲージブレイク……≪ロスト・フラッシング≫!!」



 コレットが素早く光弾を作り出し投げつけると閃光が一瞬で辺りを包み込み空間を支配した。その影響はローブの男やその後ろにいた魔法師たちにも及び、一斉に腕を目の前に当てる。

 同時に魔力弾の生成と発射も中断された。それから数秒後、徐々に光が弱まり元の光景に戻っていく



「……逃げたか」



 ローブの男が呟く。彼の言う通り、さっきまでコレットとアリスの居た場所には誰も残っていなかった



「特待生たちを探せ。まだ遠くへは行っていないはずだ」



☆     ☆     ☆     ☆     ☆




「ありがとう、すごく助かったわ」


「い、いえ……」


 コレットの感謝の言葉に少女が照れて顔を赤らめる。アリスとコレットは少女のいる森林の中へと入り込んでいた。

 周囲は当然、同じような木々ばかり。大きな音や光、探索魔法を使わなければ見つかる事はまずないだろう



「ところでアナタの名前は?私たちの事を知っていたみたいだけど……」


「お、お二人のお名前はさっき真莉音さんから聞いたんです。エルドアの特待生さんだから名前をよく覚えておくように……って言われて」


「真莉音さんからさっき聞いた?ということは、もしかしてアナタって……」



 少女がコクりと頷いた



「私は、その……日本からエルドア学園に魔法師見習いとして来た……「水上美咲」です。よ、よろしくおねがいします」


「そう。それじゃあ改めて。私はコレット。コレット・アリシャートよ」


「私はアリス、アリス・フィルリーネです。水上さん、こちらこそよろしくお願いします」


「あっ……あの、私のことは……美咲って呼んでください。みんな……そう呼んでくれますから……」



 モジモジと恥ずかしそうに言う美咲の言葉にアリスとコレットは優しく頷いた



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