第3話 ルイはダンジョンに行った
「あんたのパラメータ、一体何なの? どうしたらこんな紙になるのよ」
「うう、だって……」
現在、私とアユは特別課の郁哉さんに紹介してもらった初心者向けの洞窟型ダンジョンにもぐっている。それで早速もらった端末でお互いのパラメータを確認しているわけである。もちろん冒険者になりたてである私とアユのレベルは1であるのはいいとして、
「HP17? 攻撃力6、防御4って一体どういうことよ。私でもHP35、攻撃力18、防御力は26よ。いったい今までどんな生活してたのよ」
「どんなって……引きこもり?」
「………………」
アユは怒る気力も尽きたのか、深いため息をついた。一応私もちゃんと装備してるんだけどな。
立ち止まっていても仕方がないので、とりあえず奥のほうへと進むことにした。しばらく歩くと小人のような敵がやってきた。
「何、こいつ?」
「うんとね、“ゴブリン”だって。属性は地で、初心者向けのモンスターらしいよ」
私は端末をいじりながら答える。端末を敵に向けると、勝手に検索して情報をくれるらしい。かなり便利だ。
「おし、私も頑張るぞ!」
「いい。さがってて」
そういうと、アユは私じゃとても追いつけないようなスピード(だってアユはスピード50で私は2だよ!?)で敵に襲いかかった。
ステップをふんでゴブリンの背後に回り込み、右手をポシェットに突っ込ん投擲型ナイフを2本引き抜くと、その背に投げる。と同時に左手も突っ込んでまたナイフを2本引き抜くと、同じように投げた。
アユが投げたナイフが刺さると同時に、ゴブリンは苦しそうな声をあげてその場に崩れ落ちた。そしてそのまま塵となって消える。
「早っ。私出る幕ないじゃん。私やっと追い付いたとこだったのに」
「そんなこともないわよ。ほら」
アユが指差すほうを見ると、そこには怪しく光る無数の目。
「……あれってもしかして」
「うん。たぶんそう」
無言でポシェットからナイフを引き抜くアユ。私もロッドを構える。
「大丈夫、さっき郁哉さんに教わった通りにやれば……無理だろ!!」
「逃げるか」
物陰から出てきたのは十数体のゴブリン。いくらザコとはいえこの数では相手しきれない。
「……じゃ、頑張って」
そういうなり駆けだすアユ。と同時に動き出すゴブリンたち。
「ちょ、待って、ウソでしょ。私遅いのにー!」
慌てて私も駆けだす。端末でどんどん離れていくアユの位置を確認しながら走る。引きこもりには辛いことこの上ない。
「ルイ、こっち」
急に脇道に引っ張り込まれた。アユはそのまま私の手を掴むとスピードを上げる。当の私はほぼ引きずられている状態に近い。後ろを見ると、まだしつこくゴブリンが追いかけてくる。
「ルイ、確か脱出用アイテムもってたよね。早く出せ。今すぐ出せ」
「うん。えーと、確かこのあたりに……」
とポケットを漁る私の顔が青ざめる。その顔を見てさらに青ざめるアユ。
「まさか、落とした?」
「……ごめんなさい」
「この、……大馬鹿者!!」
さらに奥へと逃げるはめになった私たち二人であった。
「やばい、さすがに死ぬ」
「う~、私なんかあとHP1しか残ってないよ」
「つか、あんだけ攻撃受けといて何で死んでないんだよ!?」
「う~ん、悪運が強いから?」
ゴブリンから必死に逃げること3時間。さらにダンジョンの奥へと来てしまった私たちは、現在私の残りHPが1、アユが14となっている。
「私より防御紙のくせに。私よりダメージ少ないってどういうことよ」
「だから、悪運が強いからだって」
「ハァ、もう意味分かんない」
ゴブリンたちに見つかるまで、私たちは暫し休憩することにした。と、そこへ一つの人影が。反射的に敵かと身構える私たち。
「あー、そんなに身構えなくていいから。それよりも、2人は新人さん?」
アユと2人でほぼ同時に首を縦に振る。肯定。
「何かさっきから走りまわってたみたいだけど大丈夫? ……な訳ないか」
そういうと見知らぬお姉さんは自分のコートの中を漁りだす。しばらくして、目的のものを見つけたのかコートの中から手を引き抜いた。その手に握られていたものは、
「あ、ダンジョン脱出用アイテム!!」
「さすがにこれは知ってたか。なんか2人ともやばそうだからこれあげる。つか医者まで送る」
「助かったぁ」
「……救世主!」
キラキラとした目で見つめる私とアユに苦笑しながら、お姉さんは名乗った。
「あたしは源河朱里。シュリって呼んで。16だけど卒業と同時にやってるからちょっとだけ先輩かな?」
「あ、私はルイ。岡谷瑠衣です。私も16だけど今日冒険者になったばかりです」
「私は石中亜優。アユと呼んでください。16でルイと同じく今日から冒険者になりました」
「ということは、2人とも同時に冒険者になったの? 珍しい」
「え、珍しいの?」
「うん。冒険者って適性がないとなりたくてもなれないから。同じ日に同じ場所で、なんて結構珍しいよ」
そう会話を続けながらも着々と脱出の準備を進めるシュリ。すごく手際がいい。やっぱり先輩なんだなぁ。
「よし、準備できた。複数人で脱出するときはこんな風にやらなきゃダメだからよく覚えておけよ」
「「はーい」」
アユと2人でお行儀よく返事すると、シュリの両脇にそれぞれ立った。
「準備はいいか。じゃあ、脱出!!」
シュリがそう言い終わるか終らないうちに、周りが一瞬真っ白になる。次の瞬間にはもうダンジョンの外にいた。
「たまにダンジョンの外にもモンスターが出てくることもあるから、医者の所まで送るわ」
「え、そんな、そこまでは悪いよ」
「それに、シュリさんもパーティかキャラバンに所属してるんじゃないですか?」
「あー、まあ、ちょっと前までキャラバンにいたけど、今はちょっとソロで潜ってたからいいのよ」
そういうと、シュリはさっさと歩きだした。慌ててあとを追う私とアユ。太陽はちょっと西に傾き始めたころだった。