第8話 ルイは気絶した
その事件は依頼にも慣れてきたある日に起きた。
「郁哉さーん! 依頼終わりましたー!!」
「皆様お疲れ様です。これが今回の報酬です」
「いつもありがとうございます」
今日の依頼は家の裏庭の雑草抜き。ついでに一緒に生えてくるモンスター化した植物の退治だ。この植物たちも一体だけなら弱っちいんだけど、束になるとこれがもう面倒で……。
私たち三人はすでにもう疲れ切った顔をしていた。
「ん? 何これ? “ぎょーせーかいかくにともなう「ぎるどしすてむ」へのいこうについて”?」
「“行政改革に伴う「ギルドシステム」への移行について”でしょ。でも私にもさっぱり」
「んー、あたしにも分からないな。郁哉さん、これ何?」
「おや、皆様ご存じなかったのですか?」
郁哉さんが教えてくれた「ギルドシステム」の説明をまとめると、
・今までは役所で扱っていた公式な依頼をすべて民間業者(これを総じてギルドと呼ぶ)に委託する。
・よって冒険者はギルドを経営、もしくは所属しなければならない。
・ちなみに大きいキャラバンは自営業、小さいキャラバン、パーティは所属を選ぶとよい。
ということらしい。
「まあ、要するに財政難ですね。民間に委託できるところは委託してしまおうと」
「じゃあ、私たちもどこかのギルドに所属しなくちゃいけないんですか?」
「ええ。そうなります」
「ちなみにこれ、いつから移行すんの?」
「3日後に完全移行となります。私が皆様のお手伝いを出来るのも残り3日なのですね……」
郁哉さんのこの完璧スマイルを見れるのもあと3日か……。
「うぐぇ」
「ありがとうございました、また来ます!!」
ひどい!! 私が折角少し涙ぐみながら別れを惜しむみたいなかっこいい場面だったのにこの二人は私の首根っこ捕まえてそのまま引きずって街中を歩いてるんだよ!!
「く、くるし……」
「この村って確かギルド30個くらいあったよね?」
「大小全部込みでな。うちみたいな弱小を入れてくれるようなとこなんてそうそうないだろうな……」
「んじゃ、大きいところを除いて、と」
アユが歩きながら腕時計型の端末をカチカチと操作する。
「あと、一分野特化型もダメな。ああいうところは何かしら実績がないと話すら聞いてもらえない」
「りょーかい、と」
またアユが端末を操作する。すぐに検索結果が出たのか、それを読み上げる。
「んー、可能性がありそうなのは11件か。しかも全部郊外」
そう呟いてシュリがふと空を見上げる。空は夕闇色に染まり始めたころだった。
「んー、今日はもう遅いし、ギルド探しは明日からだな」
「そうね。どこかに受け入れてもらえればいいんだけど」
「難しいな。明日は全部回ることも覚悟しといたほうがいい」
「も、もうダメ……」
「「あ」」
二人ともひどい。私のことずっと無視して、しかも首根っこ捕まえたまま早足で歩くんだもん。
私はそっと意識を手放した。