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TIPS-FAANG

作者: 差氏 瑞希
掲載日:2026/11/04



 数々の苦難や死闘を越えて、勇者ユシアとその御一行は、遂にかの邪智暴虐と言われているであろう魔王の城まで到達した。


 魔王城近隣は魔物も強く仲間を複数失っている。彼らの報いを晴らすためにも、俺たちは魔王を必ずや打ち倒し、世界に我らが国王がなんか言ってた平和を取り戻すのだ。


 あの世から見守っていてくれ。


 突然にも勇者ユシアは、魔王城の入口を指す看板を前にして。胸に手を当てて、かつての生きていた仲間の顔を思い浮かべる。


 君が作ってくれたお粥は、風邪をひいた俺を優しく包んでくれた。ありがとう、ユズクリ・オカさん。


 貴方が居なければ、俺はもうこの世には居なかっただろう。ありがとう、カワリ・ニオレガさん。


 特筆して何かをしてくれたわけでもないし、何をしてくれたかも覚えてないけど感謝しておくよ。ありがとう、ドチ・ラサマ。


 腰に携えている鞘から剣を引き抜き、天へと掲げる。


「俺は、勇者ユシアは必ずや魔王を討つ!貴方達の犠牲は無駄にはしない!」



 声高らかに胸を張って言い切った。


 マジで大声を出したお陰で、周囲の魔物が何だ何だと近づいてきたが勇者ユシアはお構いなし。



「俺が!必ず…!」



 と。



「魔王…ウォッ!?」



 後頭部に矢が飛んできてクリーンヒット。頭の装備なんて着ていなかったから、それはもう見事なまでの即死であった。敵ながら天晴といえよう。


 え、勇者即死しちゃ駄目じゃん。



「……痛え〜。頭蓋骨爆発したんじゃないか?」



 安心されよ。勇者は勇者と呼ばれるとおり、勇者としての強力なスキルを持ち合わせている。


 しかし、勇者としてのスキルはほんの三つのみ。たったのそれだけで魔王城まで到達した勇者ユシアは実は強いのだ。先は呆気なくも即死したが、スキルの一つが作用して復活を遂げてピンピンしている。


「まぁ、良いか。気にしたら負けだ。皆、俺は魔王を倒して来るよ…!絶対に…俺は魔王を…!」


 なんて事をしていたらまた後頭部に矢が飛んできそうだったので勇者ユシアは入口へ。


 木製の看板に赤いペンキで矢印を描き、その下に入口!ウェルカム!とか書いてあるような魔王城の入口へ、足を踏み入れた。


『TIPS-魔王は健康志向だけど、ジャンクフードを食べないと眠れない』


 魔王城の中は縦に広く横に狭い。壁には人間の街にも普通に置いてそうな絵画が並び、まさか魔王が管理でもしているのか…花瓶と花がそこかしこに置いてある。


 …いや。


 まて。


「TIPS?なんだ今の豆知識。めちゃくちゃ脳みそにガツンと響いたんだが」


『TIPS-魔王は剣を使うか拳で戦うかを、その日の朝食の満足度合いで決めている。満足は剣、不満足は拳である』


「まただ!」


 入口を跨いだ途端に脳内へ魔王に関する豆知識がガツンと脳内に響いてくる。


 まるでこれは、ストレス過多で、何処かで花火でもしてるんじゃないかってくらいの爆音の幻聴が聴こえるアレみたいだ。


 これはきっと魔王の呪いだ。魔王に近づいて、瘴気にでもやられているのだと自分に言い聞かせて歩みを進める勇者ユシア。


 その影から後を追うナニカ。勇者ユシアはまだそれに気がついていない。


「へー、魔王って城の内装こだわってんだな〜」


 なんて、随分とまぁ呑気にしているくらいだから、追ってきている存在に気がつくはずもなく。彼はちんたら城の中を歩いてゆく。


 これ高そう!とか、この花の香り好きじゃないな。とか、御一行の足音うるせぇな。とか。


 呑気にもほどがある。気が引き締まっていないにもほどがある。


 そうしてしばらく歩き続けた頃合いである。影をこっそり追ってきていた存在に勇者ユシアが気がついたのは。


「な、なんだお前…!?いつからいたんだ!」


『三十分くらい前からだよ〜』


 道化師のような容姿をした、少年とも少女とも取れる中性的な勇者ユシア好みのこの存在。根気強く三十分間も攻撃をせず後をつけていたのだ。


「ね、ねぇ、ねぇねぇ君。名前なんていうの?うへへ」


 と、下心を全く隠すことなく声をかける勇者ユシア。


『僕は下級悪魔ヘンナノ〜』


「へー!ヘンナノちゃんか!可愛い名前だね仲良くしようね」


 御一行なんて存在していないかのように振る舞い、下級悪魔ヘンナノにじりじりと歩み寄る変態ユシア。…いや、勇者ユシア。


 目をハートにして顔の筋肉を緩めて絵に描いたようなメロメロである。


『TIPS-魔王は辛いものが嫌いだけど、大好物はししとう』


「っうぅ!うるせぇ…!また来たよこの声…!」


『TIPS-魔王はくしゃみがうるさい』


「って、君の口が動くたびに脳内に響いてるよね!?」


『どうだろ〜』


「可愛いから許す。もっと喋ってくれナントカたん」


『僕は下級悪魔ヘンナノ〜』


「はは。君の名前を間違えるわけないじゃないかヘンナノたん」


 名前を間違えた事実を強引に隠しながらも、勇者ユシアは本来の目的を忘れない。


 魔物一匹いない魔王城内に対して、彼はずっと違和感を感じているのだ。魔物の本拠地である魔王城に、なぜ魔物が蔓延っていないのかと。


 だがまぁ、考えてみれば人間の王宮でも、一般人歩いてたりしないもんな。ならば納得、合点承知の助である。


 ならばこの場の周囲には勇者ユシアと下級悪魔ヘンナノしか居ないという事になってしまい、


「良かったら俺ん家来ない?ゲームとか漫画とかいっぱいあるぞ?」


 不審者ユシアはあの手この手で好みのこの子の気を引くべく動く。やれお菓子だの、やれ遊具だの、やれ遊園地だの。


 逆に、下心を隠さないことが清々しい。


『TIPS-魔王は魔王専用フロア内に居る時に、必ず勝率が九割を超える』


「煩いんだよなそれほんとさぁ。……ん?あれ、今めちゃくちゃ重要なこと言った?」


『わかんない〜』


「うんうんそっかぁ。わかんないか〜へへへ」


 おっと、こんなところで好みの容姿をしている下級悪魔ヘンナノたんと駄弁っている場合じゃないんだった。名残惜しいが、さっさと魔王を倒してこの子攫ってくか。


 犯罪者予備軍ユシアは魔王を倒すと固く意志を結んだ。


「となればダッシュだな」


 勇者としてのスキルを使って、常人離れした速度で城内の探索を開始する。最大出力は二十倍速で事を進められるぞ。


 三つある勇者のスキル。


 一つはコンティニュー。

 文字通りの生き返りである。


 一つはダッシュ。

 倍速モードである。


 一つはパーティー。

 御一行を召喚することが出来る。


 この三点が勇者のスキルである。


「速い速い!息苦しいこれ…!」


 城内を隅から隅まで駆け走り、地下へとおもむろに続いていそうな扉を発見。しかし鍵がかかっているため走って探して。


 そこで、


『TIPS-魔王城地下への鍵は、入口の看板の裏面に、コレも持って行ってね!という文字とともに置いてある』


「なんだと!?結構入り組んだ只中だから入口に戻るのも一苦労なんだけど俺!」


 とやかく言ってらんない現状。勇者ユシアは来た道を記憶を頼りに戻り始め、そして見つける地下への鍵。勢いをそのままに、地下に繋がるであろう扉の前まで全力ダッシュ。そうして、倍速モードの彼は一瞬で魔王城地下へと続く扉の前へと辿り着く。


 鍵を差し込み、魔王へまた一歩近づくために地下へ。

 

 地下一階と言うべきか。蝋燭が等間隔に壁に立てかけてあり、少しジメッとしている。こんな所で倍速モードなんてしたらスッテンコロリンして全身打撲確定だろう。


「魔王…!変なところに鍵を置きやがって!この恨み…晴らさないと気がすまない!」


『ちか〜』


 いつの間にやら下級悪魔ヘンナノが隣に居た。


「地下だねぇうんうん、俺の家にも地下あるけど来る?」


『TIPS-魔王は地下の一室にいる』


「だあああ!頭の中が煩い!ってまた重要そうなメッセージが…」


『すやすや〜』


「すやすや〜?眠いのかなー?俺の家のベッド大きいから二人以上でも寝れるよ?家来る?」


 隙あらばかます、変質者ユシア。


 お巡りさんコイツです。


「いや…すやすや…?」


 顎に手を当てて考える勇者ユシア。真剣に、思考を巡らせて、どこかの一室、すやすや。


 魔王は寝室に居る?と導き出す。


 そうとなれば話は早い。寝ているならば寝込みを襲って即帰宅してやろうではないか。勇者ユシアは気を引き締めて地下全体をくまなく捜索し始める事にした。


 トイレ。風呂。書斎。トイレ。執務室。トイレ。トイレ。


「魔王ってお腹弱いのか?」


『TIPS-魔王はお腹が弱い』


「魔王ってお腹が弱いのか」


 探索した部屋の四割がトイレ。驚異の便座である。魔王、普通に心配になるぞ。


 と、


「お、なんかここは雰囲気違う室内だ。どんな便器があるかな?」


『ようこそ〜』


「ようこそ?」


『じゃ、始めようね』


 突然にも、隣にずっとついてきていた存在である、道化師然としている格好の下級悪魔ヘンナノは、身体をぐにゃりと陽炎のように揺らめかせて姿形を変えていく。


 返してくれよ!俺の性癖っ子!


 なんていう変態ユシアの思いは遥か遠くへ。


 目の前に現れたるは、


『魔王マヴォだよ。よろしくね』


「口調だけポップでアンバランス〜…!」


 ムッキムキのムッチムチ。筋肉モリモリマッチョの姿へと変わり果ててしまった下級悪魔ヘンナノたん、及び魔王マヴォ。


 勇者ユシアの本職を活かす機会がやっと訪れる。


「倒すかぁ…」


 なんて、心底残念そうな声で言うと、


『問題』


「え?」


『魔王マヴォは、健康志向だが、何を食べないと眠れない?三秒以内に答えよ』


「……え?」


 剣を構えた姿勢のまま、俺は思考が止まる。え?なんで?急に問題とか言われてもさぁ。分からな……あ。


『時間が来た。答えはジャンクフード』


「さ、さいですか」


『罰(ファング)』


「っちょ!ぐぅぁぁぁあああああぁぁぁっっっ!?」


 全身を雷が通り抜けたかのような感覚に驚く。


 状況を理解する前に魔王マヴォは続ける。


『問題。魔王マヴォは…』


「お腹が弱い!お腹が弱い!」


『魔王マヴォは何処にいる時に勝率が九割を超える?三秒以内に答えよ』


「そんなのお前、ここだろ!寝室一択だろ!ここにいるわけだし…」


 しかし、


『時間が来た。答えはトイレ』


「トイレじゃねぇか…!!」


『罰(ファング)!』


「ウギヤァアァァァアァオオァア!?」


 さっきより強いし痛い!?…ん?まて、なんか違和感がある。御一行いないぞ?倍速モード…使えない!?え、じゃ、じゃあ……コンティニューは?


「まずいまずい…!」


 部屋の外へ出ようとするが、扉は開かず。


 びくともしねぇ!?


『問題』


「っひぃ!?答えないと本当に死ぬ…!」


『魔王マヴォは今、剣を持っている。朝食に出たししとうは辛かったか?三秒以内に答えよ』


「……し、知らねぇ〜」


 無慈悲にも三秒経過して。


『罰(ファング)!!』


 剣を振り上げた魔王は、


「え、待ってくれ…!」


 勢いよく、


「頼む!う、うわぁぁぁぁあ!!」


 剣を振り下ろした。


 勇者ユシアは魔王マヴォに敗れ、世界は勇者という希望を失った。


 人の話を聞いていればこんな事にはならなかったというのに。


 嗚呼、哀れなり。



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