1人目のおかえり
初めまして、混野です。
小説を書くのは生まれて初めてです。緊張します。
ちなみに、きみには安心して帰れる場所はありますか?
月並みな人生だ。
特段不幸だとも思わない。おこがましい。
かと言って幸せかと問われれば即答はできない。
毎日歩く通学路を変わらず往く。
「行きたくない……」
そう呟くと、雨粒が大きくなる。
朝の癖に薄暗い景色の片隅に、見慣れない光が漏れていた。
「喫茶店?こんな場所にあったっけ?」
吸い込まれるように扉を開けた。
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「あ!!!おかえりーーーー!!!!」
黒髪お団子頭でメガネをかけた子パンダみたいな女の、甲高い声が響き渡る。
「た、ただいま……?」
思わず返事をしたが、初対面だ。
「こらこらまいちゃん、急に大声出さないの。お客さんびっくりしちゃうでしょ?」
その通りだと思う。
ゆるやかにウェーブのかった明るいグレージュヘアの男が、黄緑色の目でこちらを見る。
「まあ座りなよ。大丈夫、怖くないから。」
「ねえねえ!名前なんて呼んでほしい!?!?!」
「名前?えっと、じゃあ、ユキ……で。」
席に付きながら普段のあだ名を名乗る。
「ユキ!改めておかえりユキ!私の事はまいちゃんって呼んで!店長さんだよー偉いよー!」
「良い名前だね。おかえり、ユキ。僕はゼロだよ。ただの常連。ゼロくんでいいよ。」
当たり前のように自分が受け入れられている。
「何にするー!?定番からいっとく?私の淹れるコーヒーは美味しいよ!伝説かと思っちゃうよ!」
「ミルクティーなんてどう?温まるよ。」
「ゼロくん!それコーヒーじゃない!!」
会話が勝手に進んでいく。
学校のことはもう忘れていたが、警戒心はまだ覚えていた。
気さくな接客でその気にさせて法外な値段を請求するぼったくりカフェな可能性も捨てきれない。
「自分、お恥ずかしながらお金がなくて……」
「おかねー!?そんなの要らないよお!」
「誰かがここに来てくれるだけありがたいからね。」
タダより安いものはないというが!?
「それに……」目を細めて彼は言う。
「君はここを必要としているんだから。」
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コーヒーとミルクが混ざりあって、時間と空間の境界線が曖昧になってきた。
そして気付けば自分の話を、ぽつり、ぽつりと、呟くように相談していた。
「なるほどね。飽きちゃった訳だ。人生に。」
「飽きちゃったというか……つまらないなぁ、って。」
「ばかだなあ!!!!!」
「ば、っ……え?」
馬鹿って言われた?今。
「ユキの人生を面白くする担当は、ユキだよ。」
子パンダのトーンが急に落ち着く。
「ねぇユキ、幸せ?」
「っ……」
「はいだめーーーーーーー!!!!」
「なんなんですか一体!?」
「ここに来てくれたからには、ユキの為にありがた〜い価値観を差し上げよう!!!」
最初からずっと話を聞かない女だ。
「幸せのハードルを下げてみなよ。」
「ゼロくん!!!私の!!!!見せどころが!!!」
「俗世間の基準に縛られすぎなんだよ〜君たちは。」
「まいちゃんは自由すぎだと思うけどね。」
「ゼロくん!!!!!!!!!!!」
コンビ芸人の店なのかここは。
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「あのね、ユキ。世界は変わらないんだよ。」
「……でもね、世界の見方はいくらでも変えられる。」
「本人が幸せだって言い張れば、始めはハッタリでもいい。じきに辻褄が合うから。」
「まあこれ全部ゼロくんの受け売りなんだけどね!」
「……ここは宗教団体か何かが経営してるんですか?」
「あはは!何言ってんの!合法で健全!ここはね、ただおかえりがある喫茶店『帰路』だよ。」
「まいちゃん、そろそろ時間だよ。」
「はーい、じゃあノア!出番!」
呼ばれて出てきたのは、白銀のロングヘアを低い位置で結った中性的な方だった。
「どうも、おかえり。この店の本棚係だよ。」
そう言って一冊の本が手渡された。
「これはユキの本。面白い本にしてね。」
言い残し、裏に帰っていった。
「行ってらっしゃい、ユキ!」
「またおいで。必要になったら来れるから。」
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流れるように見送られて、気付くと通学路にいた。
時間は今朝のままだ。喫茶店も見当たらない。
白昼夢……?
ただ手元にはノートがあった。中は、白紙だった。
表紙に「ユキの楽しいライフ記録BOOK」というアホみたいな手書き文字が書かれているだけの、ノート。
雨は変わらず降っている。
でもそれでもいい気がした。
「水溜まりを必ず踏むってルールにしようかな。」
独り言も水に溶けて、足取りは少し軽かった。
次あの店に行ったら、幸せですって即答してやろ。
【1人目 つまらなかった日常 ユキ】
読んでくださりありがとうございます。
これからもっと上手になれるよう頑張ります。
そして、喫茶「帰路」はいつでもきみをお待ちしております。




