第3話 スキル発動!
あの世とこの世の狭間
先ほどまで100人の少女達がいた闘技場に
5人の天使が集まっていた
「転送先をこんな近くに設定するなんて・・・
相変わらず性格の悪いことするね
マイヤキール」
東側の観客席の一番前の列で
闘技場の真ん中に映る緑の大陸を見つめながら
白い天使コルキコがつぶやく
「だってぇ~
はやく殺しあってるとこ見たいじゃん
それに
マルシャ姉だってこうした方が面白いって言ってたもん!」
闘技場の北側の観客席
その一番上でシャルディア大陸全体を見下ろしていた
桃色の天使マイヤキールがコルキコのつぶやきに答えた
本来であればコルキコのつぶやきなど
闘技場の一番上にいるマイヤキールには聞こえないはずだが
彼女たちの声はこの闘技場でよく響き
どの場所にいても聞こえた
「マイヤキール!
私を巻き込まないでちょうだい!
私はあんたのやりたいようにやりなさいって
言っただけで面白そうなんて一言も言ってないわ!」
腕をくんでそっぽを向いたのは
コルキコが座っている観客席とは反対側の客席
に行儀良く座っている栗色の天使だった
観客席の南側には古代に王や貴族が座っていた貴賓席がある
その貴賓席に騒がしく話す三人を見ている二人の天使がいた
「まぁ
マイヤキールったら転送先をいじったのね・・・
これじゃあフェアじゃないわ
どうしましょうお姉さま」
黄金色の髪を持つ天使キラリスフィが
頬に手を当てながら困った顔をする
「心配することはないよ
キラリスフィ
たとえ早く殺し合いが始まったとしても
この儀式が少し早く終わるだけだ」
黒髪の天使ラシャメルリがやわらかな笑顔でなだめる
「結局のところスキルの習得ができればいいんだ
見なさい
西園寺イロハはスキルの真の姿を見せたみたいだよ」
闘技場の中央に映し出されている画面では
今まさに大剣から細身の剣を抜き出し
イスズに対して剣を向けているイロハが映っていた
「本当だわお姉さま
まさかこんなに早くスキルを理解するなんて
今回の儀式の注目株ね」
「そうだね
スキルはその人間の持つ魂の具現化だけど
自分の魂を理解できるかはその人次第だからね
彼女は自分の魂の残虐性に気づいたようだよ」
貴賓席の天使二人は想定よりも早い
少女の覚醒に喜びを感じていた
一方先ほどまで騒がしく話していた三人の天使たちは
少女の覚醒に落胆していた
「あ~あ
片方だけがスキルを使い始めたら
一方的ないじめになっちゃうじゃん
これじゃあつまんないよ」
「マイヤキールが転送先をいじったからこうなったんでしょ!
まあでも確かに
相手がスキルを発動しているうえに
スキルについて書かれている手紙を取られてるなんて
これじゃあ全力の獅子が手負いのウサギを狩るようなものだわ!」
マルシャとマイヤキールは対等な殺し合いに飢えていた
それは姉妹のなかで四女と五女という立場ゆえに
姉たちに逆らえず苦い思いをしているためであり
一方的な力を嫌悪をしていたからだった
「二人ともうるさい」
コルキコの静止に
マルシャとマイヤキールは
機嫌を悪くしコルキコをにらんだ
「あ~あ~
コルキコ姉ちゃんのせいでつまんなくなっちゃった~
私寝る!」
「私も!」
マイヤキールはその場に仰向けで倒れて
マルシャは席を立ってどこかへ行ってしまった
「はぁ
三人とも仲良くするのよ」
キラリスフィが三人を心配する
「まぁ
彼女たちはいつも喧嘩しているじゃないか
いまさら何を言ってもしょうがない
それより西園寺イロハが動くようだよ」
黒髪の天使ラシャメルリが
闘技場中央に映し出されている
イロハとイスズを見て言った
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「実を言いますと私
フェンシングをたしなんでおりましたの
それに加えてこの剣
持っているだけで力がわいてきますの
今なら一歩であなたの懐まで潜りもめそうですわ」
西園寺イロハは深紅の剣を構え自信に満ちた笑みを浮かべる
イスズとイロハの距離は5メートルほど離れていたが
イロハにはその距離を一瞬で詰め寄れる自信があった
「ハァハァ
待って」
一方のイスズは背中の傷口から血が流れ
息をするのもやっとの状態だった
動くたびに傷は開き
背中に生暖かい血液が滴っていった
「まだ死にたくない
この戦いは始まったばかりで
私はこの戦いに勝たないといけない
おねがい私を見逃して」
今のイスズにできることそれは
精一杯の命乞いだった
イロハに邪魔をされたことで
手紙に書かれていたスキルの使い方は不明のまま
さらに
イロハと違いイスズは武道の心得がなく
それどころか武器すら持っていなかった
すでに彼女に戦える手段はなく
どうすることもできなかった
「おねがい!
必ず借りは返すから
今は見逃してください!
おねがいします!」
背中の痛みに耐えながら
頭を下げ懇願する
「死にたくないんです
地獄になんか行きたくない!
しにたくなぃ
う、うおえぇぇっ!」
地獄の景色がフラッシュバックする
落ちていった少女
身体は原型をとどめず
亡者たちに喰われ嬲られ
やまない悲鳴がこだまする
あの地獄の情景が思い浮かび
終わらない苦しみの恐怖を感じたイスズは
吐き気を抑えきれなかった
胃からは血液交じりの吐瀉物が逆流し
えづきとともに口から押し出される
「はぁ
汚いったらありゃしないですわ」
イスズが吐くのを見下ろし
顔をしかめるイロハ
「あなた馬鹿なんですの?
この殺し合いで生き残るのはただ一人
他の99人は全員地獄行き
ここであなたを逃がしても
いずれ戦うことになるのは明白
であれば
あなたを生かす理由はない
ちがくて?」
「はぁはぁはぁ」
イスズはなおも呼吸が荒いままだった
だが死にたくないという思いだけは
その目に宿っていた
「はぁ
案外しぶといのですわね
ならチャンスを上げますわ」
イロハはイスズの目を見て
ある考えを思いついた
「今から好きに逃げなさい
私はその代わりこのスキルを使ってあなたを
追いかけますわ
この力にも慣れておく必要があるでしょう」
「逃げきれたのなら
あなたの勝ちですわ
今回に限り見逃すことを誓います」
「さあ
どうしますか?」
イロハは深紅の剣を地面に突き刺し待ちの姿勢をとった
イスズにとってはもはや悩む必要はなかった
生き残る道が少しでもあるなら
それを手放すつもりはなかった
「やる」
か細い声がイロハの耳に届いた
「フフフ
なんとも死にそうな声ですわね
では
10秒後に動きます
どこにでもお逃げなさい」
イスズは走り出した
眼前には野原が広がっていたが
その先にある森に入れば隠れてやり過ごせる
その一心で痛む体に鞭をうち走った
背中から血が流れるのを感じ
口の中は先ほどはいた吐瀉物で嫌なにおいがした
しかしなりふり構わず走る
森へ向かって走る
それが彼女の唯一の希望だった
「さあ
10秒たちましたわね
まずは小手調べと行きますわ」
イロハは100メートル先にいるイスズを見つけると
フェンシングの突きの構えをとった
そして一息入れた後一直線に深紅の剣を突き出した
すると剣先から突風が吹き荒れた
その風は地面をえぐりながらイスズのもとへと前進し
恐ろしい速さで突っ込んでいった
「あら?
まさかこの突きだけで仕留めてしまいたの?」
その突きは一直線に飛んでいき遥か前方の森に飛んで行った
その直線状の地面はえぐれ
突きが飛んで行った森は木々がなぎ倒されていた
「いえ
まだ生きているようですわね」
イスズはこの突きを寸でのところで避けていた
しかしすでに体は悲鳴をあげ立つことはできない状態だった
イスズは歩くことをあきらめて腕の力だけで森を目指していた
「這いつくばってまで逃げるとは
いい根性してますわ
次は低めにして切ってみましょう」
イロハは剣を腰の位置にもってきて
抜刀の構えをした
そして力いっぱい剣を振った
今度は横に伸びた斬撃が空を舞い
イスズの目指している森の木をすべて切り倒した
「あら当たっていませんわね
だけどあの子はもう動かない様子
見に行ってみましょう」
イロハはゆっくりとイスズに近づいた
当のイスズはイロハには気づかずに
切り倒されて森ではなくなった場所を見つめて
絶望していた
もう彼女の希望は潰えたのだ
逃げ道はなく
ボロボロになった体では
動くことすらままならなかった
「残念だったわね
あなたはもうおしまい
これでさよならなの
最後にあなたの名前を教えてくださるかしら」
イロハは笑顔でイスズに話しかけた
これがイスズの最後に見る景色なら
それはきれいなものであってほしいと思う
彼女なりのやさしさだった
だがイスズは何も答えなかった
絶望して疲れて何も言えなかったのだ
だがそれがイロハの逆鱗に触れた
「私がやさしさで聞いてるのに
無視をするのですか!?
あなたのためを思ってやってるのに
その態度は何なんですか!?」
イロハは怒り深紅の剣をイスズに向けた
「あなたには私から
一番むごたらしい死を与えます」
そう言うとまずイスズの右手の甲を刺した
「ア˝ァ˝ァ!」
ジクジクと痛みが伝わり
手の甲から血が噴き出し感覚がなくなっていく
「次は腹ですわ」
イロハは右手から剣を引きに抜き
イスズのへそに剣先を合わせる
そして一気に腹に突き刺した
「ア˝ア˝ア˝ァ˝ァ˝ァァァ!!」
手に刺されるよりも何倍もの痛みが
彼女を襲う
続けてイロハは何度も腹に剣を刺した
グサリグサリと躊躇することなくさし続けた
体の中の臓物は裂け
血が噴き出し
中の腸の一部が体外に出始めていた
「ア˝ア˝ァア˝」
すでに枯れかけた喉はかろうじて悲鳴を出すだけだった
「最後に首を落として差し上げます」
そう言うとイロハはイスズの首から数センチ離れた地面に剣を刺し
ゆっくりと首に近づいて行った
その過程でイスズの自慢だった長い黒髪は切られていき
ついに首のところにたどり着いた
「さようなら」
イロハが別れの挨拶をいい剣に力を込めた時
突然イスズが剣の刃の部分をつかみ
その剣をつたって起き上がり始めた
「なっ!
どういうことですの?
この怪我でなぜ動けるんですの?」
イロハはうろたえた
背中と手を刺され腹を切り刻まれた人間が立ち上がり始めたのだ
その姿はまるで地獄の亡者を思わせ
イロハはあの地獄を思い出した
「来ないで!
私に近寄らないでくださいまし!」
イロハは必死で叫んだがイスズは止まらなかった
やがてイロハは完全に絶望しその場から動けなくなった
「はぁはぁ」
土に汚れ血で染まった体を動かし
イスズはイロハに近づいた
イスズが右手をイロハの頬に伸ばし
イロハの汚れ一つない頬に添えた時
イロハの右手に痛みが走った
右手を見ると手の内側に剣で切られたような鋭い傷ができていた
覚えのない傷に混乱していると
またしても痛みが走った
激しい喉の痛みだ
まるで大声で叫び続けたようなときの
声帯がっすり減って炎症を起こしているような感覚に陥った
「ァァァ˝?」
イロハが声を出そうとしてもかすれた声しか出なかった
必死に声を出そうとしているとまた新たな痛みが走った
イロハは感覚で気づいた
自分の腹にいくつもの刺し傷ができていたことを
腹から血がしたたり落ちる
そして口からも血が噴き出す
「ゴホォ˝ォ」
血が肺に入りひどい痛みを起こす
だがそれ以上に腹の痛みがすさみじかった
そこでイロハを気づいてしまった
目の目にいる女の傷がすべて治っていることに
かつてイロハがつけた手の傷が腹の傷がきれいに消えていたのだ
まるで目の前の少女の傷が自分に移ったかのように
イロハは驚愕した
忘れていたのだ彼女のスキルを
彼女から手紙を奪い取り
スキルというアドバンテージを受けていながらも
うかつに近寄ってしまった
「ウボァ」
ようやく出た声は間抜けなほどかすれていた
もはや自分でも何を言おうとしているのか理解できなかった
しかし唯一イロハに理解できることがあった
負けたのだ
目の前の名も聞きそびれた女に
そして自分は地獄に落ちる
あの亡者たちに群がられ
喰われていく
どうしようもない結末が彼女を待っていた
最後にあがこうと
目の前の女の肩につかまる
彼女の目を見る
その目はとても美しい真っ赤な目だった
次の瞬間背中に激痛が走り
血が噴き出た
最初の一撃がついにイロハに帰ってきたのだ
イロハは激痛に耐えかね意識を手放し
ばたりと倒れた
イロハの身体はその場で腐っていくかに思えたが
身体が光始め光の粒子となって地面に消えていった
イスズはその光景を見届け
どさっと地面に倒れた
死んだわけではない
深い眠りについたのだ




