第1話 チャンス
車の大きなブレーキ音とともに大きな衝撃を感じた
天地がひっくり返って
目の前の景色がモノクロになり
青い空が真っ白に
駆け寄ってきた友達の顔がブレて見えた
「イスズちゃん!?聞こえる!?イスズちゃん!」
そんなに叫ばなくても聞こえますって・・・
それより女の子は大丈夫でしたか?
へへ
まさかほんとに道路に飛び出す女の子がいるなんて
思いもしませんでしたよ
あれ
身体が動かない
それどころか五感の感覚がない
手も動かないし・・
足は?
動かない
それになんだか熱い気がする
足のつま先から太ももまで
しびれてるみたいに動かないし
何より焼かれてるみたいにヒリヒリする
もしかして私車に轢かれちゃったの?
「イスズちゃん!さっき救急車を呼んだからね!もう少し辛抱して!」
救急車?
そんな派手に当たっちゃったのかな
大きな音がしなかったから気づかなかった
それにしても
お出かけの際中に救急車呼ばせちゃうなんて
山本さんには申し訳ないことさせちゃったな
とりあえず感謝しないと
「ぁぁー、あぁー」
嘘でしょ
声すら出ないの?
私もしかして死ぬの?
ようやく高校生活にも慣れてきて
勉強も部活も友達も
全部これからだったのに
ごめんなさい
ママ、パパ、
私もうなんだか眠いの
もうさよならも言えないけど
ここまで育ててくれてありがとう
あぁあぁぁ!
イヤ!
こんなところで死にたくない!
まだ死にたくない!
しにたくない・・・
「起きてくださ~い!」
ん?
なに?
私は確か死んだはずじゃ・・・
「は~や~くぅ~おきてぇくださぁい!」
誰?
すごくかわいい声だけど
聞いたことあるような無いような
なんだか懐かしい感じ
「は!や!く!起きろぉー!」
私は謎の声にびっくりして思わず飛び上がってしまった
言われるがままに立ち上がり目を開けると
そこにはピンクの長い髪にサファイア色の目
白いゆったりしたワンピースを着た細身の女性がいた
いや正しく言うなら女性ではなく女性の天使
比喩表現ではなく背中に真っ白い翼をはやした天使が
私の目の前に立っていた
「おはようございます!古屋イスズさん!」
「なんで
私の名前を知ってるんですか?
貴方はだれ?
ここはどこなんですか?」
私が今いる場所はさっきでお出かけに来ていた場所ではなかった
周りは一面深い霧に囲まれており
床は雲の見た目をしているが絨毯のようにふかふかだった
少し薄暗く雲の中にいるかの様な雰囲気だった
私の服装も事故で血に染まっていたはずなのに
家を出た時と同じ状態の
カジュアルなパーカーとカーゴパンツに戻っていた
「うわぁ!
質問は一個ずつしてくれないとわからなくなっちゃいます!」
ギリシャ彫刻のような整った顔を膨らませて天使は抗議した
その後少し考えたそぶりを見せた後話し出した
「落ち着いて聞いてくださいね!
ここはこの世とあの世の狭間
死んだ人があの世に行くための道なのです!」
「てことは私は死んだってことですか!?」
「そう
貴方は死んであの世に行く途中だったのです!
でも貴方が生きることを望んだことで
この道の途中で貴方は止まりました!」
「止まった?」
「チャンスが与えられたんです!
私はそのために貴方を起こしに来た天使マイヤキール!
貴方の名前を知っているのは私が神から使わされたからです
ご理解いただけましたか?」
天使が手を後ろに組み下から覗きこむようなポーズで
私のほうを見た
驚いた
あの世があるってことがすでに人生最大の驚きだったが
それ以上に生き返るチャンスが与えられるなんて
「一応理解はしましたけど
それでチャンスって何なんですか?
もしかして生前の行いとか関係するんですか?
だったらちょっと自信ないんですけど・・・」
「それはこれからご案内します!」
天使マイヤキールはそういうと何もない濃い霧に
右手をかざし空を払う仕草をした
すると濃かった霧が急に晴れわたり前方の視界が開けた
空は雲一つない晴天で地面は真っ黒い海のように見えたが
それは満点の星空だった
そして
中央に巨大なローマの闘技場風の建築が姿を現した
「さあ行きましょう!
私が先導いたします!」
そう言って天使は闘技場に向かって歩き出した
天使が歩いているところは空中に見えたが
彼女が歩くたびに水の波紋のようなものが浮かび
まるで水面を歩いているようだった
だが私は空中を歩いたことも水面を歩いた経験もない
霧が晴れたところから雲の床もなくなっていて
下の無限に広がる星空が見えた途端足がすくんだ
私が歩くのをためらっていると天使マイヤキールが呼びかけた
「落っこちたりしないのでぇ!
歩いても大丈夫ですぅ!」
正直半信半疑だったが
私はゆっくりと片足を星空の上に置いた
すると
水の波紋が触れたつま先から広がり
確かに地面の感覚をとらえた
私は恐る恐る歩き出し
一歩また一歩と天使に近づいて行った
「おっかなびっくりって感じですね!
怖かったら私につかまってもいいですよ!」
正直に言うと
私は高いところが苦手だ
今すぐにでもこの天使さんにしがみついていたいが
足に神経を集中させすぎていて
それどころではない
「大丈夫です
それよりもその翼で
私を闘技場まで運んでくれませんか?」
「えぇー!
それ私につかまって歩くよりも
図々しいですよぉ~?
まあちんたら行ってもしょうがないですしぃ
飛んでいきますかぁ」
そう言ってマイヤキールさんは私を抱えて
闘技場まで飛んで行った
私は闘技場だけをまっすぐ見つめて
落ちまいとおとなしくしていた
「さあつきましたよ!
私の翼ならこんな距離すぐですから
貴方も快適でしたでしょ?」
「え?
ええまぁ」
よく考えたら飛んだらもっと高くなってしまうことに
後々になって気が付いた
たった数十メートルを天使につかまって飛んだだけなのに
かなり疲れてしまった
「さあ!
私の役目はここまでですのであとは自分で行ってください!
健闘を祈りますよ!」
「ありがとうございます」
最後の健闘を祈りますって言葉が引っかかったけど
ここまで運んでくれたことには感謝した
私が感謝を述べるとマイヤキールさんは満足そうに微笑んだ後
翼をはためかせ空へ飛んで行ってしまった
「ここがチャンスをつかむ場所」
闘技場の入り口はアーチが並んだ奥にあった
正方形の巨大な黒の扉に何か植物のような意匠が刻まれており
手で押そうとするとずっしりと重みを感じた
「くっ!」
力を入れて扉を押すと軋むような音とともに
重い扉が開いた
中に入ると外観からは想像もつかないほどの広さの楕円形の砂場が真ん中にあり
周りにはまさに観客席のような階段状になっている壁が四方を囲んでいた
しかしその観客席にはだれ一人おらずいわゆるアリーナ部分に人がいた
アリーナの中央には人だかりができており
全体で百人ほどの女の子たちがアリーナのいたるところにいた
周りを見渡しながら中央に進んでいく
中央では女の子たちが10人ほどで固まっていて
なにか話し合っていた
「こんにちわ!
あなたもチャンスってやつを掴みに来たんでしょう?」
話し合っていたグループに近づくと
私と目が合った同じくらいの年齢の女の子が私に話しかけた
「うん
もしかしてここにいるみんなそうなの?」
うなずきながら返事をする
話しかけた女の子はさっきの天使と違い
スポーツが好きそうな小麦色の肌の美少女だった
「そうだよ!
この闘技場にいる人たち全員がそうらしいの!
そして君でちょうど100人目
そろそろ何か起こるかもしれないね!」
快活に受け答えするスポーツ少女に少し安心感を感じた
周りの若者も私と同世代って感じの人たちだ
髪を染めてる人だったりピアスをつけてる人もいる
高校のクラスに戻った感覚だった
「私が100人目かぁ
なんかラッキー」
「そうかもね!
そうだ!まだ自己紹介してなかった
私の名前はマオ
早瀬マオ
よろしくね!」
「私は古屋イスズ
よろしく」
「イスズ!?めっちゃキラキラネームやん!おもろ!」
まさか
こういうツッコミが来るとは思っていなかった
人生でこの名前をツッコまれなかったことは
いままで一度もなかった
さらに気になったのは
ツッコんだのがマオじゃなくて
髪を蛍光緑みたいな派手な色に染めてる女だってことだ
「うん
五十鈴って書いてイスズなの
よろしくね」
改めて全体に自己紹介した
皆うなずいたり「よろしく」と返事をしてくれたり
それぞれリアクションを取ってくれた
「じゃあアタシも自己紹介するわ
アタシの名前は・・・」
そう言ってマオの隣のやつが自己紹介し始めたが
正直一度に何人もの名前を覚えるのは私は苦手だった
覚えたのはマオとさっきの蛍光緑の女の名前が
福沢ジュエルってことだけだった
あんたもキラキラネームやんって思ったけど
すぐに自己紹介が進んじゃったからツッコめなかった
それからこの状況の情報整理が始まった
どうやらみんな日本のいろんなところから来たらしい
それぞれ事故やら自殺やらで死んで
気づいたら天使が目の前にいた
それでチャンスの話を持ち掛けられて
この神殿まで連れてこられたらしい
「うーん
結局チャンスが何か知ってる人はいなかったね
天使たちはここにいる人たちを使って何をするんだろう」
すっかりこのグループのリーダーになったマオが口を開いた
「そんなの決まってる!
死んだと思ったら同じような状況のやつが複数人いる部屋に飛ばされる
こんな展開宇宙人退治以外ない!」
眼鏡をかけたオタクっぽい女の子が言った
「確かにここに黒い球でもあればもう確定ね」
私もあの漫画は好きだから話に乗ってみた
すると一部の子たちがが笑いはじめ
少し場が和んだ
「私は異世界転生を期待したんだけどなぁ」
少しぽっちゃりした女の子が弱弱しく言った
大人数いるという点を除けば確かに
その期待はあってるように感じた
「いやぁ
100人いるんだ異世界転生も宇宙人退治もしっくりこねぇ
ってことはバトロワしかねえだろ!」
別の子が叫んだ
でも誰もその子に同調することはなかった
100人
その数字が何を意味するのかみんな考えていた
ゲームのバトロワなら100人という数字は定番だ
だがそれはここにいる人全員と殺しあうことを意味していた
「まあ
そのうち説明が始まるはず!
みんな悲観的にならずにこの状況に希望を持とう!
私たちは一度死んだけどよみがえれるチャンスを得たんだから!」
マオがみんなを元気づけるように笑った
それにつられてみんなも安心した表情を浮かべ
生き返ったら何をするかを話し合い始めた
そんな時だった
「お待たせしました」
不意にアリーナの最奥から大きな声が響き渡った
誰もがそこに目をやると奥の壁に置かれている巨人像の前
ステージ状になっている場所に5人の天使がいた
一番端にはピンク髪のマイヤキールさんもいた
「皆様
まもなくご説明に入りたいと思います
ぜひ我々の近くまでお越しください」
真ん中の黒髪の天使が大きい声でされどうるさくない絶妙な声量で
闘技場中の人間に呼びかけた
ぞろぞろと少女たちが天使の前に集まり
私たちのグループも一番前の列を陣取った
「お集まりいただきありがとうございます
私の名前はラシャメルリ
天使たちの統括をしております」
少女たちから歓声が上がった
このラシャメルリと名乗った天使は
誰が見ても美しいと思える彫刻のような見た目だったからだ
「始めに神の命により
この儀式の開始を宣言いたします」
再度少女たちから歓声が上がる
私は神様が存在することに本日三度目の人生最大の驚きをしたが
みんな気にしてないようだ
そもそもよく考えたら私の人生は一回終わっているんだ
いまさら人生最大とかノーカウントだろう
「それでは本題に入ります
皆様に与えられたチャンス
それは来世を自分の望む条件に設定する
権利を掴むことです」
黒髪の天使がそう言った途端
一人の少女が手を挙げた
私と同じくらいの年齢に見えるけど
私達のグループにはいなかった人だった
「それはもう一度自分の人生を歩むこともできるということでしょうか?」
黒髪の天使が少女に目を合わせた後答えた
「もちろんです」
少女たちから歓声が上がった
私自身も少し安堵した
ママとパパにまた会えると思うと
涙が出てきそうになった
「はい」
歓声の中で別の少女が声を張り上げた
今度は列の後ろから私よりも背の低い子は手を挙げていた
「楠木ミオさん質問をどうぞ」
黒髪の天使は手を挙げた少女の名前を呼びうなずいた
「望んだ条件っていうのはつまり
私を総理大臣にしてって言ったら
来世で総理大臣にしてくれるのか?」
「その通りです」
また少女たちから歓声が上がった
そして次々と少女たちは天使に質問した
「記憶は持ったままにもできるの?」
「もちろんです」
「魔法がある異世界に転生してもいいですかぁ?」
「お好きなように」
「特別な才能とか超能力とかも持てるんですか?」
「可能です」
まさに何でもあり
天使は少女たちが問いかける質問にすべてYESで答えた
少女たちの期待は最高潮になり
思い思いの来世を語り始めた
私もすでに
橋本環奈の人生をにしてくださいと
お願いするところまでは考えていた
しかし
「皆様
望みの来世に行ける者には条件があります」
黒髪の天使が騒ぐ少女たちを黙らせるように話し始めた
「この中で神の祝福を受ける者はただ一人」
少女たちの中で悪い予感がし始めた
特に先ほどまで中央に集まっていた私を含めた少女たちは
一様に天使が放つ次の言葉を恐れていた
「皆様には」
ここで天使が一息いれ
少女たちは次の言葉に戦慄する
「異世界にて殺し合いをしてもらいます」




