第7話 分かたれた道
兄弟の理想は二つの国を創り、やがて一つの悲劇を招く。
令和八年の春。
皇都・東京の空は、薄く霞みがかった青に包まれていた。
桜が散り、瓦礫の街路に新たな芽吹きが始まる一方で、国家は再び分岐の時を迎えていた。
関白太政大臣・八条家太郎の主導する「中央政府」は、令和律令に基づく新体制の整備を急いでいた。
だが、彼の理想は机上の夢と化しつつあった。官僚制度の崩壊は止まらず、地方では徴兵拒否や暴動が頻発。
その背後には、安土幕府を開いた弟・八条家昌の影があった。
家昌は、兄が失いつつある「民の信頼」を巧みに掴んでいた。
彼の掲げる言葉は単純で力強い――「民のための武士政」。
古き忠義と新しき正義を融合させるその思想は、各地の青年兵を惹きつけてやまなかった。
太郎は焦燥とともに、再び安土に密使を送る。
「家昌よ、われらは争うべきではない。
幕府は朝廷を支え、京と安土は車の両輪たるべし」
その書状を受け取った家昌は、静かに文を閉じた。
「兄上……私は争いを望まぬ。ただ、民の笑う国を造りたいのです」
だが現実は、彼らの意志を嘲笑うかのように動き出す。
安土に潜む過激派将校・真田廉が、幕府の名を騙り中央政府の軍施設を襲撃。
報復として皇都では戒厳令が敷かれ、再び流血の連鎖が始まった。
富士川弘首相は、もはや名ばかりの存在と化していた。
彼の命令は省庁に届かず、各地で独断専行が横行。
「もはや、太郎様も家昌様も、理想に溺れておられる……」
富士川は、国の形がゆっくりと崩壊していく音を、己の耳で確かに聞いた。
平和を願う者ほど、戦の渦に呑まれていく――。




