第4話 令和律令の黎明
皇居陥落の夜明け。勝者なき戦の果てに、令和の新秩序が生まれる。
夜が明けた。
煙と血の臭いが、まだ皇居の石畳にこびりついている。
東京の空は鉛色に曇り、焦げた匂いが風に乗って流れた。
八条家太郎は、静まり返った皇居・松の廊下を歩いていた。
足元には割れた硝子と黒焦げの書簡。
遠くで警備兵が敬礼し、彼は無言でそれに応じた。
「富士川、被害の報告を」
「はっ。皇軍死傷者、約十二万。敵軍は二十万を超えました」
太郎は目を閉じた。
勝利ではない。――ただ、生き残っただけだった。
陛下は今も皇居の一角、旧御学問所に避難している。
皇軍は天皇を保護という名目で実質的に幽閉し、
政府中枢の再編を急いでいた。
富士川弘はその中心にいた。
元は自衛隊情報部の参謀で、冷徹な現実主義者。
彼の進言で、太郎は新政府樹立の準備を始める。
「我らが勝ったのではない。だが、今この国を導くのは我々だ」
富士川の声には確信があった。
「憲法はすでに死んでいる。ならば――新しき律を立てねばならん」
その言葉に、太郎はゆっくりと頷く。
そして机上の白紙を見つめ、静かに筆を取った。
――『令和律令』草案
新国家の理念を定める法典。
そこに記されたのは、明治以前の律令制を復古させ、
“公卿と武士の末裔による統治”を行うという宣言だった。
戦が終わり、平和が訪れたはずだった。だが、血の夜明けは新たな嵐を呼ぶ。




