第1話 父の潰したもの
父・的有の理想は、民衆の自由と平和を願うものだった。しかし、時代の混乱と秩序維持の必要性の前に、その理想は重圧となり、街の生活を縛る枷となった。
この第1話では、二代将軍・七条久貞が父の遺志を受け継ぎ、冷徹な決意を胸に城下を見下ろす様子と、民衆の静かな反抗の兆しを描く。
奈良の冬風が瓦礫の街路を吹き抜ける。灰色の空が街を覆い、遠くの山々も雪に沈んで見えた。七条久貞は城の高台に立ち、荒廃した城下を見下ろす。父・的有の遺志は民衆の生活を縛る重圧となり、街はかつての平穏を失っていた。瓦礫の間を歩く子供たちは震える手で親の手を握り、商人や農夫は冷え切った体を押さえながら布告に従わざるを得なかった。
「父上の夢は、ここに残っているのか」
久貞の声には哀しみも怒りもなく、秩序を守る冷徹な決意だけが宿る。彼の瞳は、民の生活の一つひとつを計算するように街を見つめていた。
参謀・立原宗盛が静かに頭を下げる。「将軍閣下、就任の儀は整っております」
「儀式など不要だ。必要なのは秩序だ」
宗盛の胸中には忠誠と疑念が交錯する。民の声を無視することは正しいのか。だが久貞の決意は揺るがなかった。
城の本丸に掲げられた父の軍旗は、紅白に色あせ、無数の矢痕が刻まれている。久貞はそれを見つめ、鋼の意志を胸に宿す。秩序を守るためには血も必要であり、民の自由は犠牲にされるべきだと悟っていた。
夕暮れ時、城下では民衆の小さな集まりが起きる。商人、農夫、子供たち——恐怖と怒りを胸に秘めた人々はひそひそと声を交わす。「もう耐えられない…」「安土幕府に助けを…」瓦礫の下で揺れる小さな火は、やがて大きな炎となり、幕府の運命を揺るがす予兆となろうとしていた。
久貞はそれを知らない。城内で計画書を広げ、書類と数字に心を満たされていた。夜の静寂の中、冷たい風が城を吹き抜ける。その秩序の手が、民の自由を覆い尽くすことに、誰も気づかないままであった。
久貞の心に宿る秩序への渇望と、民衆の潜在的な反抗の火。
この二つの力の対比が、後の暴動や政治の混乱の伏線となる。
読者は、父の理想の重みと久貞の冷徹さ、そして街に潜む静かな不穏を感じ取ることができる節である。




