表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第二次戦国時代 ―令和動乱記―  作者: 足利
第三部序章 静寂の果て
30/100

序章全1話完結 静寂の果て

――この国は、何度目の滅びを迎えるのだろうか。


理想は必ず戦を呼び、正義はいつも剣を持つ。

人は歴史を学ばず、ただ繰り返す。


「第二次戦国記」第三部は、そんな終わりなき輪廻の物語である。


かつて世界が一度滅び、再び立ち上がった日本。

その中で芽吹いた新たな秩序――大和幕府。

しかし秩序は腐敗し、理想は裏切られ、かつての友が敵となる。


この物語に救いはない。

だが、滅びゆく時代の中にも、確かに“生きた”人々がいた。

彼らの声を、怒りを、祈りを、ここに記す。


歴史の炎は、誰の手にも消せはしない。


――そして今、静寂の果てに新たな戦が始まる。

五年の歳月が過ぎていた。

 あの、鉄と血が街を染めた第二部の終焉から、わずか五年。

 日本列島は一見、平穏を取り戻したように見えた。だがその静けさは、暴風の前のわずかな凪でしかなかった。


 中央政府の象徴たる八条家は、長年の腐敗によりすでに実権を失い、かつての「関白太政大臣」は名ばかりの存在となっていた。

 かわって政の表舞台に立ったのは、七条家。

 彼らは旧貴族でありながら、近代的な軍制を整え、「大和幕府」と呼ばれる新政権を樹立した。


 都の喧噪が絶えた古都・奈良。

 大和幕府の本拠「平城大政殿」の石畳を、朝露が濡らしていた。

 その中心に立つ初代将軍・**七条的有しちじょうまとあり**は、静かに朝日を見上げていた。

 五年の歳月の果てに築き上げたこの幕府を前に、彼の表情は満足ではなく、どこか哀しみに沈んでいる。


 「……これが、正しき国の形なのか。」


 呟きは誰に向けられたものでもなかった。

 的有は理想を掲げ、腐敗した中央を打倒した。だが、その理想は既に戦争の中で形を変え、ただの支配と抑圧へと変質していた。

 幕府を支える武官たちは実力主義に傾き、平民の声は届かぬ。

 秩序の代償に、自由は奪われたのだ。


 的有の背後で、金属製の自動扉が音を立てて開いた。

 「将軍、安土方が再び国境を侵犯。近江方面、第二師団が応戦中です。」

 報告したのは若き軍監、立原宗盛たちはらむねもり

 彼の瞳には忠誠ではなく、冷たい計算が宿っていた。


 「……また立花か。」

 「はい。どうやら立花景範たちばなかげのりが、安土幕府の初代将軍を正式に名乗ったようです。」

 その名を聞き、的有の目がわずかに細まった。

 かつての盟友、立花家。

 七条家が幕府を起こす際、共に戦い、共に血を流した同志。

 だが、的有が“中央を完全に断絶すべし”と唱えたその夜、立花は別の道を選んだ。


 ——「我々は中央と手を結ぶ。民のためには、それが最善だ。」


 それが決別の瞬間だった。

 以来、七条と立花の間には血の河が流れている。


 「……景範。お前もまた、理想に呑まれたのだな。」


 的有は再び窓の外を見つめた。

 遠くに見える比叡山の向こう、滋賀の地に「安土幕府」は築かれている。

 武力、経済、技術、全てが拮抗する両幕府。

 五年間続いた冷戦は、いまや決定的な破裂の時を迎えつつあった。


 その頃、東京——。

 日本政府首相官邸では、別の政治劇が進んでいた。


 「中央政府はもはや統治機能を失っている。我々が主導するべきだ。」

 内閣総理大臣・**天城惟真あまぎこれまさ**は、重苦しい会議室でそう言い放った。

 参列する閣僚たちはうなずきもせず、ただ沈黙していた。

 中央政府の腐敗により、行政・軍事・司法は分断され、地方自治体すら大和幕府と安土幕府に忠誠を誓う始末。

 国家の形は保たれていても、魂はすでに消えかけていた。


 そして、その空白を狙う存在があった。

 ——ビオテスク帝国連邦。


 かつて欧亜を席巻した新興超大国。AIと生体兵器を融合させた次世代軍を有し、世界の経済と情報を掌握していた。

 日本の混乱は、彼らにとって最高の介入の機会だった。


 帝都ビオトラ。

 巨大なホログラムの地球儀の前で、総帥アリス=ベルタリウスは薄く笑った。

 「極東の島国が再び戦国に陥るとは。人の歴史は、なんと滑稽なまでに繰り返されることか。」


 その指先が日本列島をなぞる。

 ホログラム上の奈良と安土が、赤く点滅した。


 「開戦を、待つがよい。」


 ——そのわずか一ヶ月後。

 比叡山麓にて、両幕府の軍が初めて正面衝突した。

 “近江灘の戦い”の火蓋が切られた瞬間である。


 かつて一つだった日本が、再び分かたれていく。

 そして、誰も気づいていなかった。

 この戦の果てに、日本という国そのものが、歴史の海に沈んでいくことを——。

静かなる夜明けのように始まった第三部の序章。

しかし、この静けさの下には、すでに多くの命の鼓動がある。


七条家、立花家、八条家、九条家、日本政府、そして外の世界――

すべての思惑が絡み合い、ひとつの巨大な渦となっていく。


初代将軍・七条的有が見た理想は、果たして愚行だったのか、それとも未来への礎だったのか。

その答えを知るのは、彼の血を継ぐ者たち。


次章、「影の久貞」。

理想を継がず、秩序を選んだ男が歩む、氷の時代が始まる。


――歴史は再び、動き出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ