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第二次戦国時代 ―令和動乱記―  作者: 足利
第二部第6章 東天の叡
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第二部第6章 東天の叡 第1話 風は鎌倉より

三十年の歳月が流れ、かつての和令の英雄たちはすでに歴史の彼方に去った。

七条幕府が天下を治め、表向きの平和が訪れる中で、民の心は再び揺れ動いていた。

旧日本皇軍の遺志を継ぐ「新日本皇軍」が再び旗を掲げ、東の空に新たな風が吹く。


本章では、若き東朝の天皇・大叡だいえいが登場し、

腐敗した幕府と新勢力の狭間で「正義」と「国家」の意味を問う物語が始まる。


血と理想が交錯する第三次戦国の幕開け――

これより、「和令戦記」第二部の新章をお届けいたします。

和令三十年の春。

 鎌倉の空は、かつての戦禍を忘れたかのように澄み渡っていた。だが、その静けさの底には、再び動乱を孕む風が吹いていた。


 大叡天皇――東朝の若き帝は、鶴岡の社にてただ一人、東の空を仰いでいた。年若くして帝位につき、東朝を率いて十年。

 だがその治世は平穏とは程遠く、七条幕府による専制と、旧皇軍の再興を掲げる「新日本皇軍」の動向が、常に帝の胸を締め付けていた。


「……祖父・宿政の理想は、いずこへ消えたか」


 低く呟いた声が、春風に溶けていく。

 その背後から、老臣・立花義淳が静かに歩み寄った。立花家は代々、中央政府より東朝へと派遣された管領家である。今では東朝の参謀として大叡に仕えるが、その表情はかつての冷静さを失っていた。


「陛下。新日本皇軍の動きが、日を追うごとに活発になっております。鎌倉郊外にも、その密使が出入りしているとの報が……」


「知っておる。彼らは旧き皇軍の誇りを掲げ、七条幕府の腐敗を糾弾する。だが――」


 大叡はゆっくりと振り返り、義淳の瞳を見据えた。


「――理なき力は、また民を焼く。祖国を護るための剣が、再びこの地を血に染めるのだ」


 義淳は深く頭を垂れた。

 東朝は、名目上こそ幕府と友好関係にあったが、実質的には監視下に置かれ、政権の自由を奪われていた。

 それでも大叡は、あえて武を掲げることなく、言葉と信義による改革を望んでいたのだ。


 その日、夕刻――。

 大叡のもとに一通の密書が届けられる。送り主は「大谷義崇」、新日本皇軍総司令と署名されていた。


 封を切ると、そこには簡潔な文言が記されていた。


『陛下へ。旧皇軍の誇り、未だ消えず。

我ら、再び日本を立て直す礎たらん。

願わくば、今宵、由比ヶ浜にて御対面賜りたし。』


 立花義淳は険しい顔で言った。


「これは罠かもしれませぬ、陛下。彼らは幕府から“叛徒”とされております。もし捕らえられれば……」


「構わぬ。義崇は、かつて父帝・淡海町の側近であった男だ。彼の剣は乱世を拒み、理想を求めた。ならば、今一度、我が目で確かめねばならぬ」


 夜。

 月明かりの下、由比ヶ浜に白衣の影が二つ並んだ。

 一人は若き帝、大叡。もう一人は、かつての名将にして、今は新日本皇軍を率いる男――大谷義崇であった。


「久しいな、陛下。お若い。まるで宿政公の再来のようだ」


 義崇の声は低く、だが確固たる信念に満ちていた。

 その背後には、旧皇軍の旗を模した白布が揺れている。中央に記された「皇」の一文字が、月光を受けて淡く輝いた。


「貴公の志は理解する。だが、剣による正義は、再びこの国を裂く。和令の理想は、血によって継がれるべきではない」


「陛下……。民は飢え、幕府は金を貪り、朝廷は沈黙したままです。それでもまだ“理”を説かれるか?」


 義崇の声には痛みがあった。

 彼もまた、かつて宿政と共に理想の国家を夢見た男だった。だが、その理想が現実に踏みにじられるのを目の当たりにし、剣を取る道を選んだのである。


「陛下。新日本皇軍は、もはや動き出しております。止めることはできませぬ。

 ならばせめて――この国を、再び“天”のもとに戻すため、我らの剣を許してはいただけぬか」


 大叡はしばし沈黙し、海を見つめた。

 波間に映る月が揺れ、その光がまるで過去と未来を隔てる境のように見えた。


「……ならば、我が願いを一つだけ聞け。

 決して民を巻き込むな。戦は権のためでなく、理のためであれ」


 義崇は静かに頭を垂れた。

 その背後で、風が海を渡り、遠く鎌倉の街へと吹き抜けた。

 その風は、やがて全土に広がる「東天の嵐」の始まりを告げていた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

第六章では、物語の舞台が再び動乱の時代へと移り、

新旧の思想と権力が入り乱れる壮大な群像劇の始まりを描きました。


次章では、大叡天皇と大谷義崇――かつての同志が密かに再会し、

新日本皇軍と東朝が交わす“密約”が明かされます。


戦乱の中で何が正義で、誰が敵なのか。

それを問う時代が、今まさに訪れようとしています。

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