第3章「血統の檻 ― 七条の影」
共闘の裏に、裏切りは潜む。
血は盟約を結び、同時にそれを破る。
宿命の歯車が、いま静かに回り出す――。
和律三年。
日本列島は、八条・七条連合による神軍掃討作戦で一時の平穏を迎えていた。
しかしその平穏は、薄氷の上に築かれた幻でしかなかった。
桂川会談から二年。
八条真葛と七条典孝は互いの領域を尊重し、戦線を安定させていた。
だが、その裏で静かに権謀術数が渦巻いていた。
七条幕府の内部――執権職・富士川重俊は、すでに別の密約を交わしていたのだ。
相手は、中央政府の管領・立花景頼。
富士川は幕府の独立を守るため、中央の援助を引き出そうとしていた。
「八条の血がこの国を呪縛している。
関白の座も、天皇の詔も、結局は彼らが決める。
我らが真の幕府を築くためには、八条を討たねばならぬ。」
その密談は、すぐに典孝の耳にも届いた。
だが典孝は動かなかった。
「裏切りを罰すれば、幕府そのものが崩れる。
我はまだその時ではない。」
その言葉を、富士川は冷笑で受け止めた。
「ならば、私が“時”を動かしましょう。」
――同じ頃、八条邸。
真葛は弟・八条真琴を呼び寄せていた。
「七条の内乱は時間の問題だ。
我らは備えねばならぬ。」
「兄上、まさか攻め込むおつもりで?」
「いや、守るのだ。裏切りが生まれるのは、理想が消えた証。
我は祖父が遺した理を、再び立て直す。」
だが、理想を掲げる者ほど、裏切りに脆い。
七条幕府の執権・富士川は、裏で“第三の勢力”――旧日本神軍残党と手を結んでいた。
それを察知した吉川頼景が密かに典孝に告げた時、
すでに幕府は二分されていた。
「……この国は、血の連鎖から逃れられぬのか。」
典孝は苦渋の表情を浮かべた。
彼は八条との盟約を破りたくなかった。
だが、幕府そのものが富士川の掌に落ちようとしていた。
和律三年六月。
夜明け前、富士川は挙兵した。
「幕府の正義は、将軍の手に非ず!
我ら、真の和を取り戻す!」
京に近い大津の地で勃発したこの戦は、
後に「大津の変」と呼ばれる内乱の始まりだった。
七条幕府軍と富士川派との戦いは苛烈を極め、
典孝はわずか三日の戦で重傷を負い、翌月に死去する。
典孝の死後、七条幕府は若き息子・七条頼久が継いだ。
頼久はまだ十五歳。
実権は再び富士川の手に戻り、幕府は“傀儡政権”と化した。
一方、八条真葛はこの機を逃さず、
七条の混乱を鎮める名目で軍を動かした。
「我らは助けるために戦う。」
そう言いながら、彼の軍勢は静かに近畿を包囲していく。
だがその行軍の先頭で、真葛は一人、
己の胸に宿る祖父・宿政の言葉を思い出していた。
――「和を以て貴しと為す。されど和は、力をもって守らねばならぬ。」
血統の檻は、いつしか彼自身をも縛り始めていた。
第3章では、七条幕府の崩壊と富士川の裏切り、
そして八条真葛が理想と現実の狭間で苦悩する姿を描きました。
次章「崩壊の予言 ― 九条の策」では、
摂政・九条家が動き出し、
“和令王朝”そのものの未来が問われることになります。




