第13話 再び、炎の都に
再び京が炎に包まれる。宿政は理想と現実の狭間で決断を迫られる。
初春の陽光が薄く差し込む。
安土城の天守から見下ろす湖面は穏やかだった。
だが、その静けさを破るように、伝令の馬が駆け上がってきた。
「報告――京、炎上! 榊原征人、反旗を翻しました!」
広間にいた宿政の表情が凍った。
「……榊原が?」
傍らにいた妹・美鈴が息を呑む。
「兄上、和平に背くというのですか……?」
報せは凄惨だった。
榊原征人は密かに旧皇軍残党を糾合し、中央政府軍の武装解除を拒否。
同時に、令和公議制の議事堂を襲撃し、数百名の議員が捕縛された。
京の街は再び炎に包まれ、避難する民の列が果てしなく続いた。
「殿下、直ちに兵を整え、征伐を!」
老臣が声を荒げる。だが宿政は、ゆっくりと目を閉じた。
「……まだだ。榊原を討てば、また血が流れるだけだ。」
周囲の者たちは沈黙した。
そのとき、扉が開き、一人の老人が入ってきた。
八条家太郎――かつての関白太政大臣、宿政の兄である。
彼は杖をつきながらも、かつての威厳を失ってはいなかった。
「宿政よ。かつてお前は言ったな、『剣を捨て、言葉で国を治める』と。
だが、言葉が通じぬ者にはどうする。」
宿政は兄の眼を見た。
「……兄上。剣は最後の道です。まだ――信じたいのです、人の理を。」
家太郎はしばし黙し、やがて微笑んだ。
「ならば、その信念を貫け。だが、ためらうな。民の命を背負う覚悟だけは、忘れるな。」
翌日、宿政は使者を京へと送った。
榊原征人に対し、「開戦回避の直談判」を申し入れたのだ。
だが、返ってきたのは一通の書簡のみ。
――『平和を夢見る者こそ、国を滅ぼす。』
筆跡は震え、血で滲んでいた。
宿政は静かにその紙を握り締め、目を閉じた。
「征人……なぜそこまで血に飢える。」
外では再び太鼓が鳴り、戦の刻を告げていた。
宿政の決意は、まだ固まらぬまま。
だが、誰もが知っていた――
この国が再び火の海となるのは、もはや避けられぬ運命であることを。
宿政の信念は揺らぐ。平和を願う心が、血の運命に試される――。




