第12話 決断の夜明け
宿政、和平を求め敵地へ赴く。兄弟の運命が再び交わる。
冬の寒風が琵琶湖を渡り、安土の城壁を叩いた。
その風に乗って、遠く東から銃声のような音が響く。
再び戦の火が燃え上がろうとしていた。
報せは夜明け前に届いた。
「中央政府軍、近江国境へ進軍を開始――総勢十万」
幕府中枢に衝撃が走った。
側近の榊原征人は即座に進言する。
「殿下、ここで迎撃を! 先に矢を放たねば滅びますぞ!」
宿政は沈黙したまま、戦況図を見つめていた。
その目は静かで、まるで戦いそのものを見通しているかのようだった。
「榊原……この戦は、勝っても負けても国が裂ける。
ならば、私は血を流さぬ道を選ぶ。」
榊原は声を荒げた。
「理想論だ! この国は刀でしか保てぬ!」
宿政は静かに彼を見た。
「では問おう、榊原。――刀を掲げ続けた末に、何が残る?」
その一言に、榊原は言葉を失った。
夜更け、宿政は独り執務室に残った。
机の上には、父・家御と兄・家太郎が並んで写る古い写真。
戦前、八条家がまだ“家族”だった頃の一枚だ。
「兄上……あなたに会わねばならぬ」
彼は立ち上がり、佩刀を腰に差した。
翌朝。宿政はわずかな供を連れ、雪の降る東山道を進んだ。
行く先は――皇都、中央政府の本陣。
その姿を見た兵たちは皆、息を呑んだ。
将軍がたった十人の護衛のみで敵地に赴くなど、狂気としか思えなかった。
皇居前、衛兵が銃を構える。
だが、宿政は馬を降り、静かに両の手を広げた。
「私は戦を終わらせに来た」
その声は風に乗り、雪に吸い込まれていった。
中へ通された宿政の前に現れたのは、関白太政大臣・八条家太郎。
兄弟は十余年ぶりに再会した。
家太郎の頬には深い皺が刻まれ、目の奥には疲労と後悔が宿っていた。
「宿政……お前は、まだ夢を見るか」
「夢ではありません。兄上、私は――この国に未来を見たいのです」
二人は長く言葉を交わした。
やがて夜が明け、家太郎は静かに頷いた。
「お前の信念を、信じてみよう」
その日、両陣営の間に“令和休戦協定”が結ばれた。
だが、それは新たな政体の胎動でもあった。
宿政が唱えた「令和公議制」――幕府・朝廷・内閣を一体化し、武力ではなく議によって国を治める制度である。
――だが、その理想は、誰もが歓迎したわけではなかった。
旧皇軍の残党、そして榊原征人のような強硬派が動き始めていた。
「平和とは、次の嵐の前にある静けさにすぎぬのか……」
宿政は冬空を見上げ、雪の白さに目を細めた。
その手の中で、佩刀の刃が淡く光っていた。
刃を捨てた将軍の決断が、令和の新時代を呼び覚ます――。




