第10話 静寂の芽吹き
戦乱の果て、新たな世代が希望を紡ぐ。だが、その影には再び嵐の気配が――。
安土決戦から一年後。
戦火はようやく収まりを見せたものの、日本の大地には深い傷が残っていた。
多くの都市は廃墟と化し、中央政府の支配力も形ばかり。
そして、安土幕府の若き将軍――八条宿政が静かに登場する。
宿政は、かつての将軍・八条家御の次男であり、家昌の甥にあたる青年であった。
二十六歳。細身の体躯に長い黒髪、そして透き通るような瞳。
彼は、戦乱の中で唯一「人を憎まぬ将軍」として知られていた。
彼のもとには、戦で傷ついた民、職を失った武士、そしてかつて敵であった皇軍兵士までもが集まり始めていた。
宿政は安土城の政庁で告げた。
「幕府は戦うためではなく、民を守るためにある。
兄弟が争い、民が泣いたこの国を、再び同じ轍に踏み込ませてはならぬ」
その声は穏やかで、しかし確かな力を帯びていた。
彼の治世が始まるにつれ、安土の街は急速に秩序を取り戻していく。
戦後の荒廃から立ち上がる希望――それが、宿政の政治の基礎であった。
一方、京の中央政府では八条家太郎が老いを隠せずにいた。
「宿政という若き将軍……あの者には、兄たる家昌の理想が宿っておる」
太郎は、宿政の評判を聞きながらも、心の奥に複雑な思いを抱く。
かつて自分が掲げた理想――令和律令――が、戦の果てに歪み、そして今や若者の手で新たに生まれ変わろうとしている。
その時、富士川弘が静かに告げた。
「太郎様。宿政殿は、和議を望んでおられます」
「……和議?」
「はい。幕府を国政の一翼として、再び中央との共存を提案なさると」
太郎は長く沈黙した。
そして、窓の外の灰色の空を見つめながら呟いた。
「ならば――私もまた、最後の戦を終わらせねばならぬな」
こうして、再び歴史は動き始める。
しかし、その裏で暗躍する者たちがいた。
宿政の平和路線を快く思わぬ、旧幕府の強硬派・真田廉の残党、そして中央政府の過激派たち。
彼らの思惑が、静かに次なる嵐を呼び寄せようとしていた。
平和を願う宿政の理想。その光が、古き闇を呼び覚ます。




