決死の想い
今まで誰かを好きになったことなんてないから、どうすればいいのかわからない……っ。
ええと、つまり……、初恋?
私の初恋の相手が、あの、テオ様……?
テオ様は私の恩人で、一番の憧れで、大切な人で、大好きな――……。
「ひぇぇ……!」
無意味に声をあげながらベッドの上をバタバタと転がってしまう。
掛け布団の風圧に煽られたのか、書き物机に置いていたガラス製の小鳥がコトンと音を立てた。
このガラスの小鳥はルナリア様にもらった伝達の魔術具だ。嘴を指でつっつけば瑠璃色の小鳥に変化して、ルナリア様とお話をすることができる。
「っ!」
私はハッとして体を起こすと、藁にもすがる思いでガラスの小鳥の嘴をつっついた。
するとガラスの小鳥がポンッと音を立てて瑠璃色の小鳥へと変化する。
小鳥はパタパタと飛んできて右手の人差し指に止まった。
『んー? シアちゃん、どうしたのー? 忘れ物でもしていたかなー?』
「ル、ルナリアさまぁぁぁ~っ!」
ルナリア様の平和な声を喋り始めた瑠璃色の小鳥に、私はもどかしい思いで縋りついた。
私の勢いに驚いたのか、小鳥は大きく見開いた目をパチクリとさせている。
『んー? シアちゃん、どうしたのー? 何かあったのかなー?』
「ルナリア様ぁ、どうしよう……っ。私、わたしっ……」
『うん、うん。シアちゃん、大丈夫だよー。大丈夫だから、ゆっくり私に教えてくれるかなー?』
穏やかなぽわぽわ声でそう促す小鳥は、私に優しく寄り添ってくれるお姉さんのような包容力がある。
小鳥を両手で包んで口を開いた私の顔は、今日一番の熱さとなった。
「ルナリア様ぁ……。わ、私っ、テオ様が好きになっちゃったんです……っ! どうしよう? どうすればいいですかっ? 初めてで、わからなくて、テオ様で……っ!」
心のままに支離滅裂な言葉を吐き出す。何だか色々と興奮して血が上って鼻血が出そう……。
小鳥はそんな私の顔をポカンとした表情で見上げていて……。やがて何回かパチパチと瞬きをした。
『……うーん、そっかーぁ! シアちゃん、初恋なんだねー。甘酸っぱいねー。これまで知らなかった気持ちで戸惑っちゃうよねー。可愛いねー。そっかぁー。シアちゃん、初恋かぁー』
「うぅ、テオ様ぁ……」
『うーん、テオかー。テオ……、テオかぁー……。うーん、テオかぁー……。あの子は女心に鈍いから手強いねー』
「…………お、怒らないんですか……? テオ様を好きになるだなんていけないことなのに……」
ルナリア様のぽわぽわ声を聞いている内に私は少しずつ冷静になってきて、おそるおそるとそう訊ねた。
今のテオ様と私は師匠と弟子の関係だ。
そもそも奴隷だった私をテオ様が買ってくれたから、私はこうしてこの家にいられるのだ。そんな私がテオ様にこんな感情を抱くだなんて、不純でしかない……。
気落ちする私に小鳥は、ん? と首を傾げている。
『怒らないし、いけないことなんかじゃないよー? シアちゃんの想いはとっても大切なものなんだよー。それに勇気を出して私に相談ができたシアちゃんはとっても偉いよー。シアちゃんは本当にいい子だねー』
「え、えっと……。ルナリア様に連絡したのはその場の勢いだったというか……」
『それは私に相談したいって思い至ってくれたってことでしょー? シアちゃんが私を頼ってくれたこと自体が私は嬉しいなー』
私を肯定してくれるルナリア様は本当に優しい。さすがテオ様のお姉様だ。
……あっ、またテオ様基準で考えてしまった……。頭の中がテオ様だらけな自分に顔が熱くなってしまう。
そんな私をルナリア様が小鳥の瞳を通して微笑ましそうに眺めている。
『シアちゃんはどうしたいかなー? 告白するー?』
「ここここっ、告白ですかっ?! 私なんかがっ……」
焦ってあたふたと両手を振ると小鳥が小首を傾げた。
『シアちゃんは密かな片想いで大丈夫なのかなー? その気持ちをひた隠しにしてテオと普通に接することができるのかなー?』
「…………。で……、できない、です……」
さっきだって挙動不審になった挙げ句に逃げ出してしまった……。
で、でも! 告白だなんて……!
うう……。でも、このままなんて絶対に無理だ……!
今の私は様々な感情が行ったり来たりしていて、顔を赤くしたり青白くしたりと忙しい。
そんな私に小鳥の向こう側にいるルナリア様がクスッと笑うのがわかった。
『どうせなら、今すぐに告白しちゃった方がいいんじゃないかなー?』
「い、今すぐに?!」
『悩むとどんどん気まずくなっちゃうよー?』
うぅ……、ルナリア様の言い分もわかる。
だって私は……、悩んだ挙げ句に行動ができなかった結果、時間が経つとどんどん袋小路に追い詰められて身動きがとれなくなってしまうという臆病で面倒な性格をしているからだ。
「でもっ! こ、告白ってどうすれば……?!」
『さっき私に話したように、素直な気持ちをそのまま話せば大丈夫だよー』
「で、でもっ。その……。告白なんてしたらテオ様は……、私を嫌いになっちゃう……」
テオ様に不快な思いをさせて幻滅されてしまいそうだ。
それでテオ様に嫌われて、この家からも追い出されてしまったりして――……!
早速暗い思考に囚われ始めた私の肩に飛び移った小鳥が、ふわふわな羽根で私の頬を撫でた。
『テオはそんなことしないから大丈夫だよー。ねー? そうだよねー?』
そうだよねーって……、ルナリア様は誰に問い掛けて……?
私の心の疑問に答えるかのように、ふわっとした温かな毛玉が私の右手に擦り寄ってきた。
「ひぇっ?! リ、リンクス?!」
いつの間にいたの?!
平和な雰囲気で私に擦り寄ったリンクスは、そのまま私の膝にのそのそと移動して香箱座りに落ち着いた。膝の上が温かい……。
ほらね? とルナリア様が微笑む気配がする。
『大丈夫だよー。もしテオがシアちゃんを傷付けたら、私とその子がお仕置きするからねー』
ルナリア様から本気の「えいっ」をされて、リンクスに顔面を引っ掻かれているテオ様が思い浮かんだ。
今ここにいるルナリア様とリンクスは間違いなく私の心強い味方だ。
……う、うん。絶好の機会なのはわかった……。
緊張で渇いた喉にゴクッと唾を飲み込む。
「…………わ、わかりましたっ」
意を決した私に小鳥は頼もしくコクッと頷いた。
『リンクスー、テオドアを呼んできてくれるかなー?』
ルナリア様の柔らかな声にリンクスは立ち上がると、しなやかな動きでスルッと窓から出ていった。
私の心境とは正反対に窓の外は平和だ。秋の心地よい風に落ち葉がカサカサ歌っている。そこに自分の心臓がバクバク鳴る音が聞こえて……。
緊張を宥めようと深呼吸を繰り返していると、室内にコンコンとノックの音が響いた。
ポンッ、と心臓が跳ね上がる。
「――シア、入るぞ?」
「ひっ! ひゃっ、ひゃいっ!」
噛んじゃった! 我ながら情けない声……っ。
テオ様はドアを一歩入ったところでピタッと立ち止まって、戸惑ったように目を白黒させた。
たぶん緊張と羞恥心のせいで明らかに普段と違う私の雰囲気に困惑しているのだと思う。
『テオ。シアちゃんの隣に座って』
いつの間にか私の肩から書き物机へと移動していた小鳥がテオ様をそう促した。
ルナリア様の語尾がいつもの平和なぽわぽわではなくて真面目な雰囲気だ。
テオ様はますます困惑したような様子で、それでもベッドサイドに座っている私の隣に腰掛けた。
…………気まずい沈黙の時間が流れる……。
「……あー……。一体どういう状況なんだ?」
テオ様がこめかみを人差し指でポリポリ掻きながら会話の糸口を探ってきた。
ルナリア様は沈黙したまま。……きっと私の意思を尊重してくれているのだと思う。
私は自分の気持ちを落ち着かせようと大きく息を吸い込んだ。
自分の気持ちを、テオ様に伝える……。
テオ様に好きだって伝えるんだっ!
大きく息を吸って、口を開いて――。
「……っ」
声を発する寸前で耐え難い不安がゾワッと込み上げてしまって、声が喉に引っ掛かって出なかった。
――テオ様に好きだって伝えて、本当に大丈夫なの?
それを聞いたテオ様はどう思う?
私に呆れる?
こんな想いを秘めた私に幻滅してしまわない?
気色悪いって思われない?
本当にここから追い出されない?
「……っ、ぐすっ……」
押し寄せる不安と緊張で涙が出てきた。
溢れた涙が頬を伝って、膝の上に握りしめた私の両手にぽたぽたと落ちる。
「シア」
勝手に混乱して泣き出した私の頭をテオ様が撫でてくれた。
私の頭を撫でるのはテオ様の癖になっているのかもしれない。
そしてテオ様にこうして撫でてもらうのが私は大好きで……。
「……」
目元を擦りながら鼻をすすってテオ様を見上げると、少し困り顔のテオ様が見えた。
私と目が合うと優しく問い掛けるように首を傾げている。
「シア、どうしたんだ? 何があった?」
私を心配するテオ様の優しい声。
私が大好きなテオ様の声。
「……っ」
私はすぅっと大きく深呼吸をして……。
もう一度、テオ様を見上げる。
「…………テオ様……」
「ん?」
「……あ、あのっ」
「うん」
「私……っ、テオ様のことが好きなんですッ!」
私は勇気を振り絞ってその言葉を口にした。
緊張のあまりに心臓も一緒に口から出てしまいそうで、脳内に響くような耳鳴りがしている……っ!
そんな私の言葉を受けたテオ様は――……。
パチパチと数回瞬きをして、不思議そうに小首を傾げた。
「お……、おー?」
……あっ。これ、まったくわかっていない時の反応だぁーッ!
これでも私は半年間テオ様と一緒に暮らして、テオ様をずっと見てきたのだ。テオ様が私の言葉にピンときていないことはすぐにわかった。
そう理解した途端――、緊張や羞恥心よりもテオ様が私の決死の告白を理解してくれなかったというもどかしさが勝った。
わ、私の決死の覚悟が……っ!
思わずテオ様の裾をぎゅーっと引っ張ったけれど、体幹が強いテオ様は私の力じゃびくともしない。
「だからっ! 私っ、テオ様のことが大好きなんですっ!」
「お、おう。ありがとう?」
「テオ様の全部が大好きなんです! テオ様とずっと一緒にいたいんですッ!」
「おう」
「……もうっ! テオ様、全然わかってないッ! 私はテオ様が大好きなんですっ! 私のはっ……、初恋、なんですッ!」
どうにか伝えたい一心で真っ赤になりながら叫ぶように訴えると、テオ様はピタッと動きを止めた。私がぶつけた言葉の意味を消化しているみたい。
そうしてテオ様は五秒ほど動きを止めていて――……。
やがて「……へっ?」と間の抜けた素の声を漏らした。
「へっ? そういう意味なのか?」
「そういう意味なんですっ……!」
や、やっと伝わった……!
最初に抱いていた緊張や不安はどこへやら。テオ様がやっとわかってくれたことに安堵のため息をつきながらへなへなと脱力してしまった。
……ルナリア様の「テオは女心に鈍いから手強い」という言葉をすっごく実感した……。
「そ、そうか……。あ? ん? えぇぇ……?」
テオ様はまだまだ混乱しているみたい……。
鳩が豆鉄砲を食らったような表情で何度も瞬きをしている。
「テオ様、困らせてしまってごめんなさい……。でもっ! 私のことは、き、嫌いにならないでくださいっ! ここから追い出さないでっ……!」
「俺がシアを追い出すなんて絶対にない。当然だろう」
必死の思いで訴える私に対して、テオ様が心底心外だと言わんばかりに目を見開いて驚いている。
私はテオ様の言葉にほっとため息をついて、両手でテオ様の裾をぎゅっと握った。
テオ様はそんな私を見ながら少し呆けた感じになっている。
「そう、か。……えぇ? 俺……? 俺みたいな碌でなしのどこがいいんだ……?」
ボソッと呟くテオ様に私はブンブンと頭を横に振った。
「碌でなしなんかじゃないですっ! 私はテオ様の全部が好きです。テオ様は優しくて、いつも私に寄り添ってくれて、傍にいると安心するんですッ!」
「お、おう……」
「だから、やだ……っ。テオ様でなきゃ、やだぁ……」
テオ様以外の男性だなんて考えられない。
テオ様から離れたくない。傍にいたい……。
その一心でテオ様の肩にコテンと額をつけると、テオ様はポンポンと頭を撫でてくれた。
そんな私達の様子を書き物机の上から見守っていたルナリア様が、テオ様に向けてちょっと呆れたようなため息をつく。
『テオは本っ当に鈍くてポンコツだねー……』
「いや、だって……、そりゃまぁ……。自分の歳より半分以下の子供から告白されるとは思わないだろうが……」
子供……。
うん、そうだよね……。
テオ様からしたら……、私なんてただの子供だよね……。
私が心の中で繰り返していると、ルナリア様が盛大なため息をついた。
『ここでそんな台詞が出るなんて本当にポンコツ。最っ低』
「えっ?」
『女の子には年齢なんて関係ないんだからねー。シアちゃんを悲しませたら「えいっ」だからねー』
「……女心ってマジでワケわかんねぇなぁ……」
『ほら、また無神経なことを言って。本当にポンコツすぎ』
「う……」
テオ様の視線を感じるけれど……、私はテオ様の胸にしがみついたまま顔を上げることができない。
「シア」
優しく呼ばれても私は動けない。
テオ様が今どんな顔をしていて、これから何を言おうとしているのか。それを想像すると怖くて動けない。
テオ様は私の頭と背中をポンポンと撫でて、困ったように小さくため息をついた。
「シア、俺なんかを好いてくれてありがとうな。でもな、シア――」
「やだッ! テオ様、でもって言わないで! 否定しないでッ! やだっ、テオ様ぁ……っ」
ますますぎゅーっとしがみつく。
テオ様を離したくない。
怖い。怖い……っ!
そんな私にテオ様は小さく苦笑している。
「否定しないで、と言われてもなぁ……。その場しのぎの嘘でも『実は俺もシアに恋心を抱いていた』だなんて軽い返事をしたら、それこそ単なるロリコンの変態だろうが」
「……でも……」
「シアは俺のかけがえのない大事な家族だ。それじゃ、ダメか?」
「それじゃやだぁ……」
「…………参ったなぁ……」
ここまで困った様子のテオ様は初めてだ。
困らせて迷惑を掛けているのはわかるけれど、テオ様を離したくない私は必死でテオ様の服にしがみつく。
遠くでクスッと笑うルナリア様の声がした。
『大丈夫そうだし、私はここまでで退散するねー。テオ、シアちゃんを傷付けたら怒るからねー』
「えっ。おいアネキ、待てよッ。散々引っ掻き回して放置すん――」
『じゃあねー』
ルナリア様はテオ様の言葉をぶつ切りにして伝達の魔術を切ってしまったようだ。
室内のマナの流れが変わって、ガラスの形に戻った小鳥が書き物机にコロンと転がった音がした。
…………再び気まずい沈黙の時間が流れる……。
「――なぁ、シア」
「やだッ!」
「まだ何も言っていないだろうが」
反射的にテオ様の服をぎゅっと握りしめながら拒否すると、テオ様がやれやれと苦笑するのがわかった。
ポンポンと頭を撫でて私を宥めてくる。
「気持ちを伝えてくれてありがとうな。俺に向かって口に出すのは勇気が要っただろうに……。シアがここまで俺に心を開いてくれて本当に嬉しいよ」
「…………うぅ……」
「だが、な? シアはまだ十三歳。対して俺は、三十一歳だ」
初めてテオ様が自分の年齢をハッキリと教えてくれた……。
おそるおそると視線を上げると、テオ様は穏やかな眼差しで目を合わせてそっと微笑んでくれた。
「いくら魔術師が自分の年齢を気にしないとはいえ、そしてシアが俺のことを好いてくれているとはいえ……。大の大人が思春期の子供と色恋沙汰っていうのはさすがにダメだろう」
「……や、やだ……。テオ様、私のことを否定しないで……」
悲しくて涙がにじんできた。再びテオ様の胸に顔を押し付ける。
自分がどれだけテオ様に否定されることに敏感なのか、そしてこれまでテオ様がどんなに心を砕いて私を肯定して認めてくれていたのかを実感する。
そんなテオ様のことが、私は本当に大好きで……。
「テオ様……」
テオ様と出会う以前の私は誰にも相手にされなかった。
お屋敷の雇い主一家は私を見下してこき使った。
他の使用人達ともマトモな会話はなくて、影で嫌がらせを受けた。
そんな時に、魔術師のお兄さん――テオ様と出会った。
テオ様は困っていた私を助けてくれた。
他愛のない話にも付き合ってくれた。
テオ様から聞く異国の話には胸が踊ったし、何よりもテオ様と会話をすること自体が楽しかった。
テオ様がバルカから去って、私の世界は再び灰色になった。
……いや、灰色なんて物じゃない。もっと汚くて、汚濁のような物になった。
雇い主の長男に乱暴されて、盗みの罪を着せられて、奴隷に堕とされて……。
そうして完全に閉ざされていた世界から、テオ様は私を救い出してくれた。
私にとってテオ様は本当に大きな存在だ。
「テオ様ぁ……」
グスグスと泣きながらテオ様にしがみつく。
テオ様と離れたくない。
テオ様を離したくない。
ずっと、ずっと、一緒にいたい……。
「俺は女心がわからない馬鹿だが、シアの勇気を出した告白を子供の発言だと適当に受け流さないし、シアの気持ちを雑にするつもりはないよ」
「……テオ様……」
テオ様はいつもこうして私と向き合ってくれる……。
鼻をすすって視線を上げると、テオ様は優しく微笑むと自分の袖で涙をそっと拭ってくれた。
「俺はシアのことは家族として好きだ。シアは俺にとって大事な家族で、未来を導くべき大切な弟子で、庇護すべき可愛い子だ。子供だから可愛いんじゃない。シアだから特別で、可愛いんだよ」
特別で可愛いって言われると嬉しいけれど、ちょっと恥ずかしい……。
もじもじしている私の頭をテオ様はわしゃっと撫でた。
「シアの気持ちは確かに受け取った。俺なんかに心を寄せてくれて本当にありがとうな。だが、俺は大人だ。今の俺はシアのことをまだまだ危うい面がある子供だと認識しているし、俺はシアにとって師であり親のような立ち位置だと考えている。だからシアの告白は断らないといけない。俺をロリコンの変態犯罪者にしないでくれ。な?」
「……うぅ……」
テオ様の言い分は理解できる。……でも、告白を断られるとやっぱり悲しい……。
自分の気持ちの着地点がわからなくなって俯くと、テオ様はため息混じりの苦笑をした。
「シアの世界はこれからどんどん広がっていく。様々な経験をして、様々な人と出会っていく。そうしてシアは大人になっていくんだ。そんな素晴らしい未来があるのに、今ここで俺に固執して未来を閉ざすようなことをしちゃいけない」
「……やだ……。テオ様がいい……」
「こーら、俺の話を最後まで聞きなさい」
テオ様はおどけるように言いながら再び私の頭をわしゃっと撫でた。
「大人になったシアがまだ俺を好いてくれていたら、その時はちゃんと向き合うよ。ただし、俺は本当に女心がわからないポンコツの屑野郎だからなぁ。その頃にはシアの繊細な恋心は完全にへし折れていて、俺に幻滅しているかもしれないぞ?」
「……テオ様がポンコツでもいいもん……」
私の言葉にテオ様はプッと吹き出して笑った。
「あははっ! ま、シアの告白はシアが大人になるまで俺が預かっておくよ。どんな形であれ俺がシアを大事に思う気持ちは変わらないし、何があってもシアを見捨てたりしない。
だから、な? シアは何も心配しなくていい」
「…………わかり、ました……」
「うん」
テオ様はわしゃわしゃと私の頭を撫でる。愛情いっぱいの優しい弄りだ。心が気持ちいい。
思わずふふっと笑うとテオ様が手を退けたので、私は手櫛で髪を整えた。
秋の乾燥した部屋でテオ様にわしゃわしゃされたから静電気が酷い……。けれどテオ様に頭をわしゃわしゃされるのも好きだから気にならない。
「俺はシアを遠ざけたりしないし、これまでと同じように甘えてくれて構わない。だが、オンとオフはしっかりと分けるからな。まずは工房の片付けを弟子に手伝ってもらうつもりだ。生半可な考えの弟子を自分の工房に立ち入らせるほど俺は甘くないぞ?」
「……っ!」
テオ様の言葉は弟子である私のことを認めているという意味だ。
喜びと興奮で目頭と胸がグッと熱くなる。
「はいっ、お師匠様っ!」
「やっぱりそう呼ばれるのはガラじゃないなぁ。ところで、俺はあのブランデーケーキをいつ食べられるんだ?」
「明日の夜にお出しますっ。テオ様が大好きなロールキャベツのトマト煮込みと、ジャガイモのタルタルサラダも作りますからねっ!」
「あはははっ! そりゃあ楽しみだ」
テオ様が爽快に笑っている。その気持ちのいい笑顔に好きの気持ちがまた溢れてきたけれど、私はふぅと深呼吸をして自分の気持ちに区切りをつけた。
――ああ。たぶん私は、バルカで初めて会った瞬間からテオ様のことが好きだったんだ。
テオ様。私の強い憧れで、言葉では言い表せないほどに大切な人。
どうかこの先の未来でも、ずっとテオ様の傍にいられますように――……。




