1話『死』
この作品は、以前投稿していた
『人形神 -神聖大日本国憲法第零章第零条-』のリブート版です。
あの頃とは世界観も作風もがらっと変えました。
そして前作以降に得た知識や経験を総動員して、物語をもう一度形にしてみようと思います。
楽しんでいただけたら嬉しいです!
『月宮さん、残念ですけどこの話も見送りですね』
電話越しで聞きたくないセリフを月宮貫之は聞いた。
衝動的にスマホを投げ捨てたくなるが、貫之は手を震わせながらもスマホは投げ捨てずに耳を傾け続けた。
「これも……ですか。言われたとおりに修正してオチもきれいに纏まってると思ったんですけど」
『ええ、確かに前の打ち合わせでした通りに修正されてました。構成も分かりやすくなってました』
貫之の担当編集者である田淵は感想を話す。
「ではどうして」
『読み返して分かるのが、言われたことを忠実に守り続けて月宮さんとしての〝色〟が見えないんです。要は誰でも書ける作品なんです。設定やストーリーが、テンプレートから一歩も外れない』
「〝色〟……また〝色〟ですか」
『〝小説家になりたい〟に掲載していた作品には、月宮さんしか出せない独特の〝色〟がありました。テンプレから少し外れた物ばかりで、だから人気が出ましたが、今回送っていただいた作品にはそれがない。これでは会議にも出せません』
「……けど、前はやりすぎって言ったじゃないですか」
『だからバランスですよ。月宮さんは極端なんです。自分の色を出しすぎたり出さなすぎたりと。最初の作品はそれがうまくできてました』
言われなければ叩かれ、直しても素直に受け取られない。どんどん目先が縮こまっていく。
「ではどうしたらいいんですか?」
『根を詰めすぎず、一度リセットしてから考え直したほうがいいのかもしれません。今の月宮さんは作品を書くことに囚われすぎて何を書きたいかが薄れてます。直せば直すほど悪化する負のスパイラルに入っているので、少し間を開けたらと思います』
貫之は歯ぎしりし、脳裏に通常の残高が思い浮かんだ。あと何ヶ月生きていけるかを、瞬時に計算する。
「それは俺は死ねってことですか。書かなきゃお金が入らないんですよ」
『そんなつもりはありません。ですが、今のままでは書けば書くほどつらくなります。一度筆を置くことも書くことのうちなんです。私は負のスパイラルに陥って、頑張れなかった作家さんをたくさん見てきました。月宮さんもそうあってほしくないんです。逆に、そこを耐えてヒット作を出した人も見ています』
「……分かりました。少し考えてみます」
『僕は月宮さんの味方です。ヒット作を出すためにも一緒に頑張りましょう』
貫之は自分自身言ったと自覚がないような小声で「はい」と答えて通話を切った。
直後、全力でスマホを布団の上へと投げ捨てた。
スマホは布団の弾力によって弾かれず、そのまま布団の中へと沈み込む。
「……くそっ!」
何度も修正され、頭をひねり、気分転換に別のことをしたりしてようやく出せた会心の出来を、〝色〟がないとダメ出しして終わりだ。
もう終盤までの流れも考えていたのに、またゼロから考え直さねばならない。
「くそっ!」
貫之は黒い感情をあらわとし、叫んだ声が、六畳一間のアパートに反響した。誰かに聞かれてもどうでもよく、そんな感情が胸の奥から噴き出していた。
子供のころから作家になることを夢見て、本を読んだり色々なところに出かけたりして、けど出版社にいくら送っても二次選考どまりだ。
ならばネットサイトとして投稿したら幸運にも大バズりして出版まで行けたのに、売り上げが悪くて二巻で打ち切り。それからはずっと田淵編集者と何度も何度もメールを重ね、打ち合わせも通話もして、修正案も三度は出した。それなのに結局は色がないと突き返される。
印税なんて雀の涙で、親の支援があっても日々の暮らしで精いっぱいだ。
しかも親の支援は温情で、成果が出なければ打ち切られていよいよ生活が苦しくなる。
今年で二十三歳になる貫之は、普通の安定した生活ではなく夢を求めた生活をしているのだから、親からすればいつ見限られてもおかしくない。
何の保証もない夢をいい歳して追いかけてるのだ。文句のひとつも言われてもしかたない。
だからこそ一人で生きていけるようにがんばっているのに、芽が出ない。
貫之は深いため息を吐きながら、正面にあるノートパソコンの横に置いてある万年筆に手を伸ばした。
その万年筆の下にはコピー用紙があり、びっしりと手書きで今回考えた話の設定が書き込まれている。
万年筆職人だった祖父が貫之が生まれた祝いとして送ってくれたオリジナルペンで、インクはカートリッジ式でペン先は18金と、販売すれば十万以上はする高級万年筆だ。
誰もが破壊神だった幼少期でも、特別な何かを感じ取っていたのかペン先を曲げたり破損させることはなく、傷は増やしても壊すことはなかった。
ほぼ家族と言って差し支えない相棒で、何作品と世界観や設定を固めるのに活躍してくれた。
思えば、作家を目指そうと考えたのも万年筆がそばにあったからだ。
「やっぱり……無理なのかな」
ヒット作や話題作を生み出せる人は氷山の一角でしかないのは有名な話だ。膨大な希望者に対して慣れるのはほんのわずか。大半が希望を夢見て敗れて離れていく。
貫之はその一握りになるべく努力してきたが、頑張りが足りないのか運がないのか、そのスタートすらまともに超えることが出来ないでいる。
少し息を切らしながらも布団へと歩いてスマホを拾う。
画面には速報ニュースのホップが出ていて、『また闇バイトか、二十代男性が自宅で男二人に襲われ現金を奪われる』と記載されていた。
タップして詳細を開くと、同じ町内だった。
「この近くか……物騒だな」
とはいえ、貫之の家に金目の物はない。あるとすればノーパソと万年筆くらいで、貧乏人を敢えて狙うことはないだろう。
「俺もいよいよとなったら応募してみるかな」
無論そんな気持ちはないが、気分的にそう自棄なセリフをぼやいてしまう。
グゥ、と腹から聞きたくない音が鳴った。時計を見ると午後六時を回っており、空腹から腹がなったのだ。
「コンビニに行くか」
この話に気合を入れていたから買い物に行っておらず、冷蔵庫にはほとんど食べ物がない。コンビニの食べ物は少し高いから避けたいが、いまからスーパーに行く気力はなく、コンビニで済ませようと軽く身支度をして外へと出た。
いつでもメモが出来るように万年筆とメモ帳をポケットに入れることも忘れない。これは習慣だから意識しなくても忘れないほど定着している。
二階建てアパートの二階から階段を下りて、自転車に跨ってコンビニへと向かった。
*
「ありがとうございやしたー」
自動ドアが開くと同時にコンビニ特有の音楽を聴きながら、ビニール袋を引っ提げて貫之はコンビニを出た。
自転車の籠に袋を乗せ、サドルに乗っかりながら簡単に周囲を見渡す。
この時も考察の大事な時間だ。些細な風景や活動から新たなアイデアは生まれる時があり、貫之はそれを大事にしている。
ポケットから万年筆とメモ帳を取り出して、なにかアイデアのとっかかりになりそうなものはないか考える。
あるのは車二台と、若者が二人。コンビニの中には立ち読み客とカップルがいるだけだ。
貫之はその様子をメモに書き記す。
「……さすがに日常すぎるな」
日常系は山も谷も低いから難易度が高い。だからいつも考えるのはSFやバトルものばかりになる。
「まあ、何かの時に変わるだろ」
今は気づかなくても後に気付くときがある。記憶に頼らず記録に残すのが大事な時もあるから、意味はなくても無駄とは思わない。
「……?」
もう一度周囲を見渡すと、二人の若者が貫之をちらっと視線を向けた。
貫之はそのことらを纏めて漢字の『二』としてメモに書き残し、ポケットにしまってペダルに足を乗せた。
*
結局、貫之は新たに作品を作るのではなく、ダメ出しされた作品をバラシて作り直すことにした。
あくまで自分らしい個性がないからダメであって、作品自体は悪くないはずだからだ。自分なりの〝色〟を混ぜ込ませることが出来れば、田淵編集者も会議に出してくれるかもしれない。
しかし、そう考えると自分らしい〝色〟とは何だろうか、と考える。
最初の作品はバズればいいな程度で、好き放題に書きたいことを書いた。
好き放題書いたのが受けたのか、ストーリーが受けたのか、受ける感想を読み返すとストーリーだと思うのだが、では〝色〟とはなんだ。
貫之は手癖である万年筆をクルクルと回しながら、なんとか頭を冷やして分析をしようと思考を巡らせる。
少なくとも田淵編集者はストーリーに言及はしていない。していないと言うことは問題ないと言うことだ。あくまで表現に月宮貫之らしさがないと言うこと。ならば生成AIで作っても同じである。
「ならいっそポイントだけ守って好き勝手書いてみるか」
今までは田淵の言う通りに直していたから、そこに自分の考えは組み込めてなかった。実質田淵の作品とも言えるわけだから、守らなければならない部分だけ守ってあとは余計なことは考えない。
どうせ守ってボツなのだから、好きに書いてみよう。
貫之は半ば自棄、諦めの考えでノートパソコンで文書ソフトを新規で開いた。
ピンポーン。
午後九時。まず鳴ることのない時間帯でインターホンが鳴った。
「誰だ、こんな時間に」
宅配は頼んでいない。連絡もなく訪れる知り合いもいない。親も来ないからインターホンが鳴ることはまずなかった。もちろん料金の滞納もしていない。
二度目のチャイムが鳴った。
安アパートの六畳一間だからインターホンモニターはない。ドアののぞき穴しか外は見えず、貫之は足音を立てないようにしてのぞき穴から外をのぞいた。
そこには警察官がひとり立っていた。
「警察?」
別段貫之は違法なことをした覚えはない。赤の時に横断歩道を渡ったような、誰しもがしたことがある誇れはしないが警察が来るようなことはしたことがなかった。もちろん税金の滞納はしていないし、督促状も来ていない。
数時間前に見たここ近辺で起きた事件のニュースを思い出した。
「聞き込み調査でもしてるのかな」
そう小さく呟き、貫之はドアのカギを回してドアを開けた。
瞬間、貫之の意図とは別にドアが一気に開き、何かが口をふさがれた。
「おい、早く入れ」
決して大きくはないが気迫ある声がして、二人の男が家の中へと入り込んだ。
「んー!」
目いっぱいの力で口をふさがれ、とっさに叫ぼうとしてもうなり声しか出せない。そして突然のことで体が強張ってしまい、大の男のくせして何もできなかった。
そのまま地面へと倒されて、部屋全体に鈍い音が響く。
「っておい、こいつ聞かされたババアじゃないぞ」
「違う情報掴まされたってことかよ。くそっ」
「どうする!」
男たちが動揺するのを見て、強張ったからだが少しほぐれた。貫之は目いっぱい力を入れて抵抗しようとする。
「暴れんな!」
ゴッ、と鈍い音が頭部に響き、間を開けずに激痛が側頭部からした。口をふさいでいる男が貫之の側頭部を殴ったのだ。その衝撃で目の前がゆがむ。
「……こうなったらここの金目の物を奪って逃げるぞ。おい、抵抗したら殺すからな」
警官の服を着た男はポケットからサバイバルナイフを取り出して貫之に見せつけた。
何がどうなっているのか混乱する中、唯一分かるのは押し入り強盗と言うことだけだ。
どうもても偽の警官は土足で部屋を物色し始める。
貫之はもがこうとするが、口をふさぐ男に馬乗りにされて、動くのは左手だけだ。利き手ではないから男を押しのけることも出来ず、両脚にも男の足が乗せられて体をひねることも出来ない。
「大人しくしてろ!」
安アパートだから床も横壁も薄い。トラブルが起きたとして通報してくれればいいが、してくれるかは不明だ。トラブルを避けるべく近所付き合いはほとんどしていない。
「ちっ、こいつ金目の物なにもないぞ」
安アパートだから収納はほとんどない。押し入れには衣装ケースがいくつかある程度で、タンスのようなのはなかった。警官の男は衣装ケースを開けて物色するも、現金は置いてないから目当てのものは見つからない。
「あるのはノーパくらいだ」
「ノーパとスマホはやめとけ、追跡されるぞ」
「あとは……高級っぽいペンくらいだな」
「ならそれだけでも持っていくぞ」
その言葉に、貫之の脳裏に雷のように浮かぶ。
――万年筆。
血の気が引いた。
――あれだけは、ダメだ。
何を奪われてもいい。金も物も。
だが、あの万年筆だけは別だった。
生まれた時にもらってからずっと一緒だった。
遊びの落書きから始まり、勉強、受験、小説の初稿、受賞作、没作……そのすべてに、あの万年筆があった。
友人でもあり、分身でもあった。
唯一、創作という荒野を並んで歩いてくれた相棒だった。
――あれを奪われたら、俺は俺じゃなくなる。
貫之は怒りでも恐怖でもない、もっと別の本能に突き動かされて動いた。
傷がどうとか、痛みがどうとか、そんな感覚は切り捨てた。
馬乗りになっていた男を、捻じ伏せるように力任せに突き飛ばす。
「返せッ!」
偽警官が万年筆を掴もうとした、その瞬間――貫之は体当たりするようにして机に突進し、手を伸ばした。
ぎりぎりで、彼の指先が万年筆の冷たい金属に触れ、握りしめる。
同時に、腹部に、何かがめり込むような感触。
熱く、生臭い感触が腹の奥から波のように押し寄せてくる。
鈍い痛みが、徐々に鋭く変わっていく。
――刺された。
だが、貫之の手は、万年筆を離さなかった。
「こいつ……!」
偽警官が持っていたナイフが、貫之の腹に深く突き刺さった。
そのまま、ためらいなく引き抜かれる。
表現のしようもない痛みと感触が腹の奥から広がり、貫之はその場に崩れ落ちた。
足も、腕も、指先すらまともに動かせない。
だが――
まだ、逃げない。
偽警官の男は、それでも机の上の万年筆へと手を伸ばしてくる。
――やめろ。
それだけは、渡せない。
貫之は最後の力を振り絞って、顎を上げた。
そしてキャップ部分を口にくわえると、一気に喉の奥へと押し込む。
マジックショーで剣を飲み込む芸を真似るように、喉を広げて無理やり詰め込んだ。
「こいつ……ペンを飲み込みやがった!?」
「もういい! 行くぞ! そんなもん売れねぇよ!」
異物を飲み込んだ反射で込み上げる嗚咽を、根性で抑える。
二人の押し入り強盗は、それ以上を諦めたように、貫之の家から逃げ出していった。
「ごふっ……」
胃から逆流してくるものと、喉に突っかえる万年筆の異物感が襲い、激しくせき込む。
べしゃ、と音を立てて、畳の上に深紅の液体が飛び散った。
血だった。
映画の中でしか見たことのない光景――
本当に、腹を刺されると吐血するのだと知る。
喉の奥に広がる、鉄錆のような味。
切り傷の出血なんかとは比べ物にならない。
これは、致命傷だ。
息が、できない。
血と万年筆が喉を塞ぎ、酸素が入ってこない。
――じ。
苦しい。息がしたいのに、できない。
吐こうとすれば血が逆流して、むせ返る。
――んじ。
このまま、死ぬのか?
こんな、あっけなく?
まだ何も――何も成していないのに?
苦しくて、喉を爪で引っ掻く。
だが、万年筆は決して離さない。
かんじ。
守れた。それだけは、よかった。
誰にも渡さない。
人生の相棒を、人間のクズどもに触れさせてたまるか。
目の前が、だんだん暗くなっていく。
――貫之。
誰かが呼ぶ声がした。
幻聴だろうか。
けれど、その声はどこか懐かしく、優しかった。
心地いい声に包まれながら、貫之は血の海の中で静かに目を閉じた。
*
――苦しい。
息が、できない。
意識が浮上する。
夢の底から、身体が引き上げられる感覚。
けれど、息が出来ない。
喉の奥が詰まっている? 何かが引っかかってる?
咳き込みそうになるが、息が吸えない。
咳も、できない。
苦しさから目を開けた。
視界に広がるのは、揺れる緑。
森?
腕が冷たい地面に触れている。湿った土の感触。
顔の高さに生える草。風の音。鳥の鳴き声。
現実感がない。夢か? しかし妙に肌が冷たい。
体を抱きしめる。……裸だった。
頭が回らない。けれど、一つだけ確かなのは――。
ここが、自分の部屋ではないということ。
生きているのか、死んでいるのかも、よくわからない。
喉に強い違和感が覚える。硬い異物がある。これが喉を詰まらせているのだ。
痛い。息が出来ない苦しさと、その異物が内部から気道を痛めつけているようだ。
せき込もうとしても空気が口と鼻、両方で塞がれてでない。
「っ……っ」
大きく口を開けて吐き出そうとしても何も出ない。
「かっ……」
喉の奥で強い圧迫感が生まれた。
気道でほど長い風船が膨らむような感覚だ。
詰まって動かない何かが動く。
息が出来ないで一分は経っただろうか。頭の中に霞が出来るような感覚に陥るなか、貫之は大口を開けて何かを吐き出した。
ドロロと長い何かが吐き出される。
「げほっ、げほっ! はぁ……はぁ……はぁ」
長く喉につっかえていたものがなくなり、足りない酸素を急いで取り入れて体を巡らせる。
「じ……じぬがと……」
口の中が胃酸なのか血なのか分からない味がする。
分かるのは何かを吐き出して息が出来てると言うことだ。
そして貫之は視界がちかちかと明滅する中で、吐き出したものに意識を向けた。
吐き出したのは全裸のフィギュアのような人の姿をした物だった。
全長三十センチほどで、腰まで届く長い黒髪。透き通るような肌に、貫之の体液が全身に浴びている。うつ伏せで地面に倒れているから正面は分からないが、そのフィギュアは貫之の万年筆を全身で抱きしめていた。
もぞっと万年筆を抱きしめる長髪のフィギュアが動いた。
生きている。
貫之はその小さな生き物を見る。
人生を共にした万年筆を抱きかかえる全裸の小人。異常の二文字しか浮かび上がらないが、なぜかその小人は知っている。気がするとかではない、貫之は確信をもって小人を知っていた。
もちろん見るのは初めてだ。だけれど『知っている』認識は変わらない。
貫之は恐る恐るその小人に触れた。
自分の体液が付着しているが、ちゃんと体温があって温かい。柔らかさも人のそれと同じだ。
「……ぬ」
小人が反応した。すかさず触れる手を離す。
小人はもぞもぞと動き出し、座ったまま上半身を起こした。
「……おはよう、貫之」
後ろ姿から予想していたが、振り向いた小人は女の子だった。縮尺が違うから正しいかは分からないが縮図が同じなら中高生と言ったところだろう。
貫之と同じく裸であるが、大きく違うのが乳首と言った特徴的なのがなくのっぺりとした外見をしている。肌色の全身タイツを着て凹凸が一切ないと言った方が早い。
「き、みは……」
体液まみれの女の小人を見ても、やはり貫之の直感は揺るがない。
「もしかして、その抱きしめてる……万年筆?」
そう。小人をどう見ても貫之には万年筆として認識するのだ。小人が抱えている道具としての万年筆。人の形をした万年筆。どうしてそう認識するのか分からないが、断言してそれは万年筆だった。
「そうとも。妾はお主の万年筆の化身じゃ」
「化身……そんなアニメみたいなこと……」
自分で言ってハッと気づいて周囲を見渡した。
「そういえばなんで森の中なんだ?」
息が整い、喉の異物感が消え、動悸が落ち着いたことで改めて周囲を見渡すことが出来た。
「それに服も着てない。てか傷も無くなってる」
覚えている限りで最後の記憶は家で二人組に襲われたことだ。万年筆を飲み込んで、血を吐いて、苦しくて目の前が真っ暗になった。
そして気が付くと刺された傷は消えて森の中で全裸で目を覚ました。
まさかと思いたくも、職業柄そうした流れは目にする。テンプレともいえる流れだ。
「まさか……異世界に来たとか……?」
「それは妾も分からん。妾はずっとこの依り代からお主を見ておったが、お主に取り込まれてからどうやってここに来たのかは分かっておらん。分かるのは、こうして顕現出来てお主から出てきたということだけよ」
小人は見かけとは違って大人びた口調で答える。
「君は、ここに来たからその姿になれたの? それとも前々から出来た?」
「いや出来ない。顕現できたのは今さっきが初よ」
「じゃあ、ここ……異世界だとしたら来たからこそ出来たってこと?」
「そうなるの。貫之、ようやく会えた。いや、ずっとお主のそばにいたが、こうして言葉を交わしたかった」
「え、あ、はい。月宮貫之……です」
「畏まらないでくれ。妾はこうした成りでも万年筆なんじゃ。所有者らしく堂々としておくれ」
万年筆の化身はそう答えながら貫之に近づき、両手で抱える万年筆を差し出した。
「強盗に襲われたとき、妾を命懸けで守ってくれたのはとてもうれしかった。ありがとう」
「お前を助けるのは当然だよ。お前は相棒なんだから」
小人はニッと笑みを見せた。
「お主とはいつまでも語り合いたいところじゃが、その前に状況を整えようと思うがどうだろう」
「……はーっくしゅ!」
盛大にくしゃみをして全身を震わせた。
異常が立て続けに起きたことで自分が全裸であることを忘れていた。気温は寒すぎではなくても皮膚を遮るものがないから保温が出来ない。
両腕を組み、脚を閉じて少しでも体温を逃がさない態勢を取る。
「異世界転移、転生……どっちでもいいけど、服はいっしょには来てくれなかったのか」
「らしいの。妾はお主の体の中にいたから共に来れたのだろうが……」
「こんな森の中じゃ服になるものなんてないぞ」
「普通はの。だが妾たちはそれを何とか出来る」
万年筆の化身は周囲を見渡すと、一番近い木に向かって歩き出した。
「何とか……もしかして転移特典みたいなのがあるの?」
「んー。特典と言えば特典じゃが、元来妾たちが持っとる力よ。とはいえ、実践は初めてじゃがな」
言いながら木の幹に近づいて、ペタッと右手を当てた。
瞬間、化身を中心に木の幹に大きなくぼみが出来た。
「おわっ!」
チェーンソーやのこぎりで切ったような切りくずは出ず、まるでスプーンでプリンの側面を削り取ったような感じだ。
そして化身のそばには、茶色い物が落ちていた。
「……多分サイズは合ってると思う」
「サイズって、それって服?」
「うむ。木の幹と切りくずを使って服もどきを作ったんじゃ。綿の服には遠く及ばないが裸よりはマシだろう」
近づいて持ってみると、普段気なれている服と比べると硬さがあるが、木とは思えない柔らかさはあってジャンパーの形をしていた。
本来なら前がジッパーで開くが、そうした構造ではなくコートのように片側にある蔦でもう片側のボタンに巻いて止める感じだ。
「済まぬな。細かい構造は出来なくてこうした形になる」
「いや……すごい。ズボンもあるんだ」
上着のほかにズボンもあった。ただ、下着はなくジャンパーとズボンの上下セットだけだが、貫之はありがたく着ることにした。
ズボンはウエスト部分はゆるゆるで、蔦が一周巻き付いていた。ひもで結べと言うことらしく、それを結んで落下を防ぐ。すそはくるぶしのところで止まっていてサイズは丁度よかった。
ジャンパーも同じで、大きすぎず小さすぎず、普段来ているサイズである。
「ねぇ、これ、どうやって作ったんだ?」
「神通力で作った」
「神通力、それが転移特典?」
「厳密には違うが、広い意味ではそうじゃ。ともかくあとは靴じゃな」
化身は再び抉った木の幹に触れると、さらに抉れて貫之たちの方向に傾きだした。
メキメキと木が軋む音が聞こえてゆっくりと傾く。化身のそばには木で作った紐のないスニーカーらしい靴が置かれており、貫之は万年筆を口に加え、化身と靴を持って横へと入った。
上から枝同士が当たって葉っぱや枝が雨のように落ち、木や枝同士が当たる音を響かせながら地面へと倒れたのだった。
「ふー、ふー、ふー」
万年筆を咥えたまま貫之は荒く息を吸う。万年筆に着いた自分の体液の味がする。
「すまん。倒れる方向まで考えてなかった。反対側に倒れるようにするべきだった」
「んん」
首を左右に振って問題ないことを伝え、鷲掴みにしている万年筆の化身を地面へと下す。
「っと、そろそろ妾も見繕うとするかの」
「君も服を作るの?」
「妾のはちと違う」
すると化身はパッと姿を消した。
「え?」
「ここじゃ」
目の前にいたのに姿を消したかと思うと足元から声が聞こえ、下を向くと服を着た化身が立っていた。
「なんで足元に? いまそこにいたのに……」
「妾は依り代から漏れる神通力で肉体を具現化しとる。その具現化を解いて、再度具現化しなおしたんじゃ」
「……電気のスイッチを切って、入れなおした感じ?」
「そうじゃ。先のは服が引っかかって出られぬから裸じゃったが、本来はこの服と合わせての顕現となる。お主と比べると材質は違うが許してくれ」
化身が切る服装は、一言で言えば袴だ。白と水色のグラデーションの着物と朱色の袴を着用している。
その姿はまさに――
*
「大和なでしこって感じだね」
「お主好きであろう?」
「……まあ、好きだけど」
「ともかく靴を履いとくれ」
そう言われて、貫之は足元の靴を手に取った。材質は木とは思えない柔らかさで、履き心地に少し違和感はあるが、十分に機能的だ。靴底には弾力があり、森の中を歩くにはちょうどいい。
「決して着心地がいいとは言えぬが、どうじゃ?」
「うん、大丈夫。我慢できるし、寒くもないよ」
「そうか。よかった」
フミはほっとしたように笑みを浮かべ、すっと近づいてくる。さすがにこのまま地面に立たせるのも気が引けて、貫之はしゃがみこみ、左手のひらを差し出した。
フミはその上にちょこんと腰を下ろす。とても軽い。中身の入ったペットボトルよりもずっと軽く、まるでぬいぐるみを持つような感覚だった。
「おおっ、掴まれているのと、こうして持ち上げられるのではずいぶん違うの」
フミは不安定なのか、そっと貫之の親指を掴んでバランスを取った。ちょこんと乗っている様子が、なんともかわいらしい。
少し落ち着いたところで、貫之は倒れた木の幹に腰を下ろし、深呼吸を一つついた。
「そういえば、君のことは何て呼べばいい?」
状況の激変に圧倒され、名前を聞くのをすっかり忘れていたことに気づく。
「月乃筆命。――フミと呼んでおくれ」
「……うわぁ、前に俺が考えた名前だ」
その名を聞いた瞬間、胸の奥に懐かしさと、ちょっとした恥ずかしさが同時にこみ上げてきた。
昔テレビでやってた日本神話の特集。神様の名前の響きに中二心をくすぐられて、貫之は自分の万年筆にふざけてその名をつけたのだった。
漫画の登場人物のように、特別な道具に名前を付ける。子どもらしい、でもどこか真剣な遊び心だった。
けれど実際に口に出して呼んだのは、そのとき一度きりだったはずだ。
「十年以上前に一度だけ言っただけなのに……覚えてたんだ」
「忘れるものか。お主が妾に名をくれた。どうして忘れようか」
「そっか……ごめん、あれっきり呼ばなくて」
「気にしておらんよ。物に名をつけて、毎日呼びかける方が痛かろう? それに、どうあれ妾を使い続けたことは事実じゃ。妾はそれだけでうれしい」
「……ありがとう。じゃあ改めて、フミ。よろしく」
「うむ。妾もようやくこうして話せてうれしいぞ」
貫之は、木の上に乗った小さな相棒をそっと見つめる。
「フミはいつから俺のことを見てたの?」
「赤ん坊のお主に渡されたころからよ。故にお主のことは全部知っておる」
「全部か……」
「墓まで持っていきたい秘密も含めて、な」
「……うっ」
「安心せい。妾はそれを他人に漏らしたり、脅しに使ったりはせん。ただ、妾に対してだけは見栄も謙遜もしないでくれ。他人扱いされるのが何より嫌じゃ」
「分かった」
人格を有していても『万年筆』であることに変わりはない。物に名前をつけて、対等に接するのではなく、あくまで相棒として扱う。それがフミにとっても一番うれしい接し方なのかもしれない。
「で、改めて聞くけど……ここはどこだ?」
ようやく呼吸も落ち着き、寒さも凌げて、貫之は次の段階へと意識を移す。
「それは妾にも分からん」
「じゃあ、俺が知らなくて、フミが知ってることって何かある?」
八百万の神であり、神通力という異能を自覚している存在なら、自分以上に把握している知識もあるはず――そう思って尋ねた。
「んー、知ってるのは主に神通力に関することかの。誰かに教えられたわけではないが、目覚めたときには自然と理解しておった」
それはまるで、貫之がフミを万年筆だと確信したときのような直感的な理解かもしれない。
「じゃあ、この服を作ったのも、その神通力ってやつ?」
「うむ。元はといえば、お主が中学生のころに使っていた『栞日記』が土台となっとる」
「……栞日記。懐かしいな、それ」
栞日記。それは貫之が中学時代に考案した、自分なりの“思い出を整理する”方法だ。
日々の出来事の中で記憶に残る出来事があったら、それを象徴する漢字一文字だけをメモする。たとえば公園で遊んでケガをしたという日なら『公』『園』『遊』『痛』『血』など。夜にその一文字を見れば、そこから連想されて詳細を清書できるという仕組みだ。
要するに「記憶を漢字一字に象徴させる」アイデアだった。
「……もしかして、木に『服』とかってイメージを当てて、神通力で変えたってこと?」
「その通り。妾は神通力で構成されておるから、文字を書かずとも意識すれば効果が出せるが、お主が妾を使って力を使うなら、〇の中に漢字を一文字書いて、その字から連想できる現象をイメージしながら押し付ける。それで発現する仕組みじゃ」
「〇の中に一字、か」
「対象に直接書いてもいいし、自分の手のひらに書いて押し付ける方が便利じゃな。対象の素材や状況次第では、直接書くのが難しいこともあるからの」
「文字とイメージが連想できるなら何でも出来るな」
「……何でもは誇張じゃが、色々なことが出来るのは確かじゃ」
「ちょっとやってみていい?」
「お主の力じゃ。妾に聞かず好きに使って構わんよ」
フミから許可を貰ってことで、貫之はフミを倒木の上に移動させて近くの枝へと近づいた。
実はさっきから喉が渇いていて、水が飲みたかった。
だが周囲を見渡しても水があるような様子はなく、どうしようと思っていたのだ。
栞日記がフミの言う通り、字とイメージが連想できることなら何でもできるなら、水を飲むことも可能なはずだ。
貫之は左手の平に万年筆で〇と斬と書いて、手首ほどの太さのある枝の根本に、枝がきれいに切れるイメージを描いて左手を押し付けた。
瞬間、触れた部分の枝がパッと斬れた。
「おおっ!」
すかさず地面に落ちるまでに左手で掴む。
「ちゃんとイメージ通りに斬れた」
「斬り方も考え次第で色々と出来るぞ」
可能性はイメージの質だけ広がるようだ。ならば今考えている水の飲み方も出来るとして、枝をわきに抱えてもう一度、手のひらに今度は『水』と書いた。
万年筆を木の服のポケットにしまい、枝の切口から水が飲める状態で漏れ出るイメージをして押し付けた。
すると切口から水が染み出てきて地面へと落ちてきた。貫之は枝の切口を口より上にあげて流れ出るミズを受け取る。
「おお、枝の中の水分を無理やり出しておるのか」
木の中には意外と水分がある。人間が意図的に飲むには難しいが、イメージを再現する栞日記なら出来るとして考えたら、ちゃんと作用して貫之の喉を潤した。
「っはぁ……水を綺麗にするのも考えたからちゃんとしたただの水だ」
水が抜けるに合わせて枝の先端の葉っぱが萎れて散り、枝先も乾燥して収縮していく。
十分に水を飲んだ貫之は、水で顔や体前面を濡らしながら枝を地面へと捨てた。
続けて『乾』と書いて、自分の胸へと押し付けて濡れた木の服を乾かす。
「くふふ、さっそく栞日記を使いこなしておるの」
「もとは自分の考えた方法だからな。多分だけど、使える字って一日に一度だったりしない?」
「おお、よく気付いたな。そう。同じ字は一日に二度は使えん。栞日記でもルール付けしとったからな」
栞日記のルール上、同じ字を使うと混同してしまって分からなくなる。そのため同じ出来事があっても字を変えることをルールとしていたのだ。やはり土台だからこそ、そのルールも引き継いでいるらしい。
「それじゃ次はどうするかを考えるか」
空を見上げる。殺されたときは夜中だが、今は昼なのか零れ落ちる日の光は真上から注がれている。自転が二十四時間なのか、日本のような日の動きかは分からないが、少なくとも数時間は活動する余裕はある。
「この森ってどれくらいの広さなんだろうな。近くに人が住んでる街があったりするのかな」
「ここから見える限りでは人の気配も人工物もないの」
「……上から見るしかないか」
森の広さが分からないなら闇雲に移動しても意味はない。だが上なら限度が分かるから、それより高いところから見れば何かが見れる。
「貫之、栞日記で腕力を上げて妾を上に投げてくれんか?」
「お前を?」
「うむ。妾は依り代から二百メートルなら離れられるし、顕現を解除すれば一瞬でお主の元に戻ってこれるから安全じゃ。逆にお主だと何が起きたら大変じゃから、斥候なら妾がよい」
「分かった」
森と言っても空が見える程度の密集具合で、真上に投げれば隙間を縫って空に打ち上げることは可能だ。
貫之は万年筆で『力』を書いて右腕に押し付け、倒木の上に立つフミの胴体を掴んだ。
「思いっきり投げてくれ」
「行くぞ」
下から上に投げるにあたり、フミの頭を小指側になるように持ち直し、上投げの要領で思いっきり力を込めて投げた。
ブォン、と聞いたことがない風切り音を発しながら何倍もの速さで腕が振り上げられ、手に持っていたフミは空へと打ち上げられる。
「すっご……」
字を書いてイメージするだけで再現する能力。汎用性の高さにまた貫之は驚きの声を上げた。
「貫之」
「うぉっ!」
つい数秒前に空へと打ち上げたフミが、気づけば足元にいて貫之は片足を上げて驚いた。
「いま空に投げただろ」
「じゃから、空で顕現を解いて、また足元で顕現しなおしたんじゃ」
「栞日記もだけど、お前もお前で大概だな」
「そうであろう」
フミは鼻高らかに答えた。
「それはそうと、空から街が見えたぞ」
「本当!?」
「道具は嘘をつかんよ。この方角に木々を超える建物があった。廃墟ではなさそうから人はおるだろう」
フミはある方向に腕を伸ばす。
「見せたほうが早いな」
そうフミは呟くと、貫之のふくらはぎに手を当てた。
すると脳裏に猛スピードで木々を抜け、森を抜ける映像――記憶がフラッシュバックした。おそらく栞日記でフミが見た光景を貫之に移したのだ。
森はかなり広く、富士の樹海が当てはまるかのように木々で地面が覆われていた。しかし、地平線付近で木々を超えて並ぶ建物が見えた。その直後風景は暗転する。
「確かに街があった。とりあえず人か知的生物はいるな」
「うむ。すぐに教えたくて権限を解いてしまったが、もう少し見ればよかったな」
フミの言う通りで、一瞬だけだから文明レベルは分からないし、遠目だから石造りなのかも不明だ。
しかし街はあった。
「まずはそこに向かおう。この世界の文明がどの時代なのかも詳しく調べないと」
いわゆるナーロッパ系なのか、それとも近代的なのか、世界観を調べないと順応のしようもない。
「お主としてはどの時代であってほしいんじゃ?」
「紛れ込むなら古いほうがいいな。近代以上だと戸籍で詰みそうだから」
文明が古いと戸籍管理はザルだから紛れ込むのはそう難しくはないだろうが、近代でパスポートの概念があると身分証がないと忍び込めない。
栞日記を使えば出来るだろうけど、そもそもパスポートや手形、身分証が分からないから苦慮するだろう。
「じゃが古いと生活がつらいぞ。文明の利器などないし、ネットもない」
「異世界転移はそれがネックなんだよなぁ。文明の利器とチート能力の引き換えになってるのかよくよく目にするし」
「なら『栞日記』と『文明の利器』を比べるとどうじゃ?」
「めちゃくちゃ悩む」
「そうかそうか」
即答していないのにフミはまんざらでもない反応だ。
「とにかく行こうか。悩むのは向こうでだ」
「うむ」
フミは両手を挙げて万歳の姿勢を見せ、貫之はフミの胴体を掴むと持ち上げて後頭部に抱き着かせるように持って行った。
両肩にフミの足が乗り、両手で腕に抱き着いて髪の毛を掴む。
昔アニメで見たパートナーモンスターを連れていく際の定位置を思い出して乗せたのだ。
「どう? 肩に座った方がいい?」
「大丈夫じゃ。ちょうどお主の頭の上から見えるから問題ない。お主こそ、髪の毛掴んでいたくないか?」
「フミが軽いから痛くないよ。でも引きちぎらないで」
「その時は手を離すよ。よし、貫之よ、未知なる街に向けて行けい!」
「あいよ」
貫之は相棒を乗せ歩き出した。