アルカディアの最終決戦、星屑の剣と虚無の終焉
【アストラルセイバー・ノヴァ、深淵への一太刀】
「俺は…俺たちは…決して虚無には屈しない! この光で、お前の深淵を…切り裂いてみせる!」
リアンの魂の叫びと共に、白銀と七色の光を纏った究極の聖剣「アストラルセイバー・ノヴァ」が、「影喰らいのモルゴス」の深淵の闇と激しく衝突した。それは、もはや単なる剣戟ではなく、希望と絶望、存在と虚無、二つの根源的な力がウェスタリアの存亡を賭けてぶつかり合う、壮絶な光景だった。
アストラルセイバー・ノヴァから放たれる聖なる光の波動は、モルゴスの影の体を構成する虚無のエネルギーを浄化し、その巨体をわずかながらも押し戻していく。剣に宿る父アルトリウスの遺志、シルフィードの風の祈り、グランフォードの大地の怒り、そしてアウリエルの光の願いが、リアンの「竜の子」としての力と、「調和の聖具」のエネルギーと完全に融合し、かつてないほどの力を彼に与えていた。
「馬鹿な…! この我が…たかが人間の小僧一匹に…押されているというのか…!?」
モルゴスは、その影の体から無数の闇の槍を放ち、リアンを串刺しにしようとするが、アストラルセイバー・ノヴァから放たれる光の障壁がそれらを容易く弾き返す。かつてリアンを苦しめた精神侵食攻撃もまた、聖剣の清浄な波動の前には無力だった。
【仲間たちの総力戦、希望を繋ぐ絆】
「今だ! 王子に続け!」
エルミナは、リアンの奮闘に呼応し、残された全ての魔力を込めて、星々の力を集束させた極大の聖なる光の矢をモルゴスに向けて放った。「星天の浄化!」
ヴォルフもまた、その巨躯に最後の闘志を燃やし、モルゴスがリアンから注意を逸らそうと放った虚無の分身たちを、その剛腕で次々と粉砕していく。「我ら『七星の守護者』の誇りにかけて、貴様のような存在にウェスタリアを好きにはさせん!」
カイトとセレスは、アルカディアの生き残りの騎士たちと共に、モルゴスの影の体から溢れ出る虚無の瘴気が、かろうじて残っている都の聖域や民衆の避難場所へと及ばないよう、弓と精霊魔法で必死に防衛線を張っていた。
マルーシャとプリンもまた、後方で負傷者の手当てを続けながら、その小さな体と声で、決して諦めないという強い想いを戦場の仲間たちへと送り続けていた。プリンの歌声は、不思議と傷ついた者たちの心を癒やし、その絶望を和らげる力を持っていた。
【モルゴスの最後の抵抗、アルカディアの意志】
追い詰められたモルゴスは、その影の体をさらに膨張させ、アルカディアの廃墟全体を飲み込まんばかりの、最終形態とも言えるおぞましい姿へと変貌した。その中心には、無数の魂が苦悶の表情で蠢き、そこから絶望的なまでの負のエネルギーが放たれる。
「滅びよ! 滅びよ! 全ては虚無に還るのだ! このアルカディアの魂と共に、お前たちも永遠の闇に沈むがいい!」
モルゴスの最後の攻撃が、天変地異のような破壊力をもってリアンたちに襲いかかろうとした、その時だった。
アルカディアの地そのものが、まるで生きているかのように反応した。都の地下深くに眠っていた古の民の魔導装置が、アウリエルの最後の祈りと、リアンの持つアストラルセイバー・ノヴァの聖なる力に呼応し、再起動したのだ。都の至る所に残っていた古代の石碑や建造物が淡い光を放ち始め、それらが巨大な魔法陣を形成し、モルゴスの動きを一時的に、しかし確実に封じ込めた。
「な…何だこれは…!? この都が…まだ我に抗うというのか…!」
それは、アルカディアの地に眠る、古の民と光の守護者たちの、決して屈することのない抵抗の意志の顕現だった。
【星屑の剣、虚無の終焉】
「今しかない…!」
リアンは、アルカディアの意志が生み出した千載一遇の好機を逃さなかった。彼は、アストラルセイバー・ノヴァに、自らの魂の全て、仲間たちの想い、そしてウェスタリアの未来への希望の全てを込めた。剣は、これまでにないほどの眩い七色の光を放ち、その輝きは天の黒い渦さえも一時的に晴らすほどだった。
「これが…俺たちの…ウェスタリアの…魂の輝きだあああああああっ!」
リアンの一閃が、モルゴスの影の体の中心、無数の魂が苦悶する核の部分を、寸分の狂いもなく貫いた。
聖なる光の奔流が、モルゴスの黒い影を内部から浄化し、焼き尽くしていく。取り込まれていた魂たちが、苦悶の表情から解放され、感謝の光の粒子となって天へと昇っていくのが見えた。
「おのれ…おのれええええ…! だが…我が主…『虚無の王』は…必ずや…この世界を…無に…」
モルゴスは、断末魔の叫びと共に、その巨大な影の体を維持できなくなり、聖なる光の中で完全に霧散し、消滅した。後に残されたのは、静寂と、そしてアルカディアの廃墟に差し込む、久しぶりの穏やかな太陽の光だけだった。
【アルカディアの夜明け、新たな旅立ち】
モルゴスが消滅すると、アルカディアを覆っていた虚無の瘴気は急速に薄れ、空を覆っていた黒い渦もまた、まるで悪夢が覚めるかのように消え去っていった。都の崩壊も止まり、大地にはわずかながらも生命の息吹が戻り始めていた。
リアンは、アストラルセイバー・ノヴァを杖代わりに、その場に膝をついた。全身全霊を込めた一撃は、彼の体力と気力をほとんど奪い去っていたが、その顔には深い安堵と、そして確かな達成感が浮かんでいた。
エルミナや仲間たち、そして生き残ったアルカディアの民が、涙ながらに彼のもとへ駆け寄る。
「やりましたね、リアン王子…! あなたは、アルカディアを…そして、光の守護者様の魂を救ってくださった…!」
アウリエルの魂は、完全に消滅する寸前でモルゴスの束縛から解放され、感謝の光となってリアンのアストラルセイバー・ノヴァに宿り、その力をさらに増幅させていたのだった。彼女は、剣の中でリアンたちを見守り続けるだろう。
戦いは終わった。だが、それはウェスタリア大陸全体の危機が去ったことを意味するわけではない。
数日後、リアンたちは、アルカディアの民に見送られ、新たな決意を胸に旅立った。「調和の聖具」の力と、仲間たちの聖具(ヴォルフの戦斧も浄化され、本来の力を取り戻しつつあった)、そしてアストラルセイバー・ノヴァ。彼らは、残る「七星の守護者」を探し出し、そしてウェスタリア大陸を蝕む「七つの災厄」を完全に封じ、「虚無の侵食者」との最終決戦に備えるため、次なる目的地へと向かう。
その道のりは、依然として険しく、そして多くの困難が待ち受けているだろう。しかし、彼らの瞳には、もはや絶望の色はなく、未来を切り開くという強い意志の光が宿っていた。
遠く異次元の「聖域」では、「星詠みの調停者」たちが、ウェスタリアの運命が再び動き出したことを感知し、その冷徹な瞳の奥に、新たな計算と、そしてあるいはわずかな興味の色を浮かべていた。