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ウェスタリア・サーガ:亡国の王子と喋るスライム  作者: 信川紋次郎
凍星(いてぼし)の残響と再生のカンパネラ
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アルカディアの慟哭、光の守護者の最後の抵抗と星屑の共鳴


【光の守護者の悲鳴、絶望の淵での邂逅】

「アウリエル様!」

リアンの絶叫が、虚無の瘴気が渦巻くアルカディアの廃墟に響き渡った。「光の守護者」アウリエルは、「影喰らいのモルゴス」の深淵の闇にその聖なる光を飲み込まれ、血染めの白銀の鎧は無残に砕け散り、その美しい顔は苦痛と絶望に歪んでいた。彼女の口からほとばしる悲痛な絶叫は、リアンの心を鋭い刃のように切り刻んだ。

(間に合わなかったのか…! ここまで来て…またしても、俺は…大切なものを守れないというのか…!)

シルフィードの、そしてグランフォードの壮絶な最期が脳裏をよぎり、リアンは激しい怒りと無力感に唇を噛みしめた。

その時、リアンの胸に下げられたお守り――「調和の聖具」の力を宿す竜の涙――、父アルトリウスの形見である竜の紋章の指輪、そしてシルフィードから託された「風の涙」、グランフォードの魂が宿る「大地の涙」が、まるでアウリエルの最後の抵抗の光に呼応するかのように、一斉に、これまで以上の強烈な輝きを放ち始めたのだ。それは、四つの聖なる遺産が、アルカディアの地下深くに眠るという古の聖なる力、そしてアウリエルの魂そのものと、激しく、そしてどこか切なく共鳴しているかのようだった。

「この光は…!」

リアンは、その眩いばかりの光の奔流に導かれるように、そして仲間たちの制止を振り切るかのように、アウリエルを救うため、そしてアルカディアに残された最後の希望の光を繋ぐため、ただ一人、虚無の軍勢が渦巻く絶望の戦場の中へと、聖剣アストラルセイバーを構え、猛然と飛び込んでいった。

【影喰らいのモルゴス、虚無の君主の威圧】

「…ほう、新たな贄が自ら死地に飛び込んでくるとはな。愚かな、そして哀れな虫けらよ」

リアンの前に立ちはだかったのは、実体を持たぬ巨大な影の怪物、「影喰らいのモルゴス」だった。その影の中心には、無数の苦悶の表情を浮かべた魂が取り込まれているのが見え、そこから放たれるプレッシャーは、かつてリアンたちが遭遇した「虚無の使徒」など比較にならないほど強大で、空間そのものを歪ませるほどの邪悪な気を放っていた。それはまさしく、「虚無の君主」の一柱と呼ぶにふさわしい存在だった。

「光の守護者の小娘は、なかなか楽しませてくれた。だが、それももう終わりだ。お前も、あの小娘と共に、我が深淵の糧となるがいい」

モルゴスは、その影の体から無数の触手を伸ばし、リアンに襲いかかってきた。その触手は、物理的な攻撃だけでなく、触れたものの精神を直接侵食し、絶望と恐怖を植え付ける能力を持っていた。

【四つの遺産の共鳴、リアンの覚悟】

「させるかあああっ!」

リアンは、聖剣アストラルセイバーを構え、モルゴスの触手を迎え撃つ。四つの遺産から流れ込む力は、彼の内に眠る「竜の血脈」をさらに活性化させ、その全身から白銀と七色のオーラが迸る。その力は、もはや彼一人のものではなく、父アルトリウスの遺志、シルフィードの風の祈り、グランフォードの大地の怒り、そして今まさに消えようとしているアウリエルの光の願いが融合した、希望の奔流だった。

「エルミナさん、みんな! アウリエル様を頼む!」

リアンの叫びに、エルミナ、ヴォルフ、カイト、セレスもまた、最後の力を振り絞って彼の後を追う。

エルミナは、リアンから放たれる強大な聖なる波動を感じ取り、星々に祈りを捧げる。「星々よ、どうか彼に力を! このウェスタリア最後の希望の光を、お護りください!」

ヴォルフは、折れた鉄棍を捨て、その巨腕そのものを武器として、モルゴスが生み出す虚無の分身たちを薙ぎ払う。「リアン王子! アウリエル殿は、我ら守護者の最後の同胞かもしれん! 必ず…必ず助け出すのだ!」

カイトとセレスは、アルカディアの生き残りの騎士たちと協力し、アウリエルの周囲に群がる虚無の魔物たちを食い止め、彼女への道を切り開こうとする。マルーシャとプリンもまた、後方で負傷者の手当てや、リアンたちへの声援を送り続けていた。

【光の守護者の最後の灯火、託される想い】

リアンは、仲間たちの援護を受けながら、ついにモルゴスの影の触手を突破し、深手を負って倒れているアウリエルの傍らへとたどり着いた。彼女の体から放たれる光は、もはや風前の灯火のように弱々しく、その美しい顔は苦痛に歪んでいる。

「…なぜ…来たのです…? もう…手遅れなのに…」アウリエルは、か細い声でリアンに問いかけた。その瞳には、深い絶望の色が浮かんでいる。

「手遅れなんかじゃない!」リアンは、彼女の手を強く握りしめた。「あなたの光は、まだ消えてなんかいない! 俺たちが、必ずあなたを、そしてこのアルカディアを救ってみせる!」

リアンの言葉と、彼の手から伝わる四つの遺産の温かい光に、アウリエルの瞳にかすかな生気が戻った。

「あなたは…『竜の子』…リアン王子…ですね…? …古の予言に…謳われた…」

彼女は、最後の力を振り絞るようにして、自らの聖剣――その刀身は半ばで折れ、光も失いかけていた――をリアンに差し出した。

「これを…受け取ってください…我が魂と…アルカディアの…最後の希望…です…この剣には…『光の聖具』の…力が…宿っています…どうか…この光を…未来へ…」

そう言うと、アウリエルの体は、まるで役目を終えたかのように、ゆっくりと光の粒子となって消え始めた。

【アストラルセイバーの進化、深淵への一太刀】

「アウリエル様!」

リアンは、彼女の消えゆく手を掴み、その聖剣を受け取った。聖剣に触れた瞬間、リアンの持つ聖剣アストラルセイバーと、アウリエルの聖剣が激しく共鳴し、二つの剣は眩いばかりの光の中で一つに融合し始めた。そして、そこに現れたのは、これまでとは比較にならないほど強力で、そして神々しいまでの輝きを放つ、真の「アストラルセイバー・ノヴァ」とでも呼ぶべき、究極の聖剣だった。

その剣には、リアンの竜の力、調和の聖具の力、風の涙、大地の涙、そして今、アウリエルの光の聖具の力が全て融合し、宿っていた。

「これが…これが、みんなの想い…!」

リアンは、新たなる聖剣を手に、その瞳に不退転の決意を宿し、再び「影喰らいのモルゴス」へと向き直った。

「おのれ、小賢しい虫けらどもめが…! その程度の光で、我が深淵を照らせるとでも思うか!」

モルゴスは、その影の体をさらに巨大化させ、アルカディア全体を飲み込まんばかりの勢いで、絶望の闇をリアンに叩きつけてきた。

リアンは、アストラルセイバー・ノヴァを構え、全ての仲間たちの想いと、ウェスタリアの未来への希望をその一振りに込めた。

「俺は…俺たちは…決して虚無には屈しない! この光で、お前の深淵を…切り裂いてみせる!」

白銀と七色の光を纏った究極の聖剣が、深淵の闇と激突する。それは、希望と絶望、存在と虚無の、最後の戦いの始まりを告げるかのようだった。

アルカディアの、そしてウェスタリア大陸の運命は、この一太刀に託された。

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