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ウェスタリア・サーガ:亡国の王子と喋るスライム  作者: 信川紋次郎
凍星(いてぼし)の残響と再生のカンパネラ
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星屑の覚醒とアストラルセイバー


【星屑の顕現、虚無への宣戦布告】

「そこまでだあああああああああああっ!!」

白竜の谷に響き渡ったリアンの絶叫は、もはや「執行者リオン」のか細く感情のない声ではなく、ドラグニアの王子として、そして「竜の子」としての魂の咆哮そのものだった。彼の白銀の髪は太陽光を編み上げたかのように神々しく輝き、その瞳には、全てを見通し、全てを慈しむかのような、深い叡智と慈愛を湛えた黄金色の竜の光が宿っていた。額を縛っていた「星詠みの調停者」の紋章は完全に砕け散り、その痕跡すら残っていない。

「お前たちの好きにはさせない…! このウェスタリアも…俺の愛する仲間も…そして、俺自身の魂も!!」

リアンの体から、父の指輪、シルフィードの「風の涙」、そして「調和の聖具」の力を宿すお守りが一体となった、純粋で強大な「星屑のオーラ」が迸った。そのオーラは、「虚無の処刑人」がソフィア王妃たちに放とうとしていた破壊の波動を、まるで陽光が朝霧を払うかのように、完全に弾き返し、霧散させたのだ。

さらに、その聖なるオーラの波動は、エルミナ、ヴォルフ、カイト、セレスの額に刻まれていた調停者の紋章をも打ち砕き、彼らの魂を非情な精神支配から完全に解放した。

「あ…あ…リアン…王子…?」エルミナが、涙を浮かべながらリアンの名を呼ぶ。その瞳には、かつての聡明な輝きと、リアンへの深い信頼の色が戻っていた。

ヴォルフは、全身に力がみなぎるのを感じ、折れた鉄棍を捨て、大地を力強く踏みしめた。「そうだ…俺は…七星の守護者、戦斧のヴォルフ…! この力は、仲間と民を守るためにある!」

カイトとセレスもまた、それぞれの武器を構え直し、その表情には「星の民」としての誇りと、リアンと共に戦うという固い決意が浮かんでいた。

リアンは、その手に握られた古びた剣を天に掲げた。剣は、彼の新たなる力と、仲間たちの想いに呼応するかのように、眩い七色の虹彩を放ち、刀身には古の竜の紋様が浮かび上がり、伝説の聖剣「アストラルセイバー」へとその姿を変貌させていた。

彼は、新たなる力と、取り戻した仲間たちと共に、「虚無の処刑人」、そしてその背後にいるであろう「星詠みの調停者」と「虚無の君主」たちに、敢然と立ち向かう。ウェスタリア大陸の運命を賭けた、本当の意味での反撃の狼煙が、今まさに、この絶望の淵から上がろうとしていた。

【処刑人との死闘、連携の光刃】

「…エラー…修正不可能…対象リオン、完全覚醒…脅威レベル…最大に移行…」

「虚無の処刑人」は、その無機質な頭部をリアンに向け、複数の鎌のような腕を振りかざし、これまで以上の速度と破壊力で襲いかかってきた。その動きは、もはや単なる破壊兵器ではなく、リアンという「エラー」を確実に排除しようとする、冷徹な殺意に満ちていた。

「エルミナ、ヴォルフさん、カイトさん、セレスさん! みんな、行くぞ!」

リアンの号令一下、仲間たちは一斉に処刑人へと立ち向かう。

エルミナは、リアンの覚醒によって増幅されたかのように、強力な聖なる光の魔法を次々と放ち、処刑人の動きを牽制し、その虚無のオーラを中和しようと試みる。「星々の光よ、彼の道を示し、我らに力を!」

ヴォルフは、その巨躯を活かし、処刑人の物理攻撃を正面から受け止め、その剛腕で巨大な岩盤を砕いて投げつけ、反撃する。「俺たちの絆の力、思い知るがいい!」

カイトは、シルヴァンウッドで失った黒檀の弓に代わり、白竜の谷の兵士から託された硬木の弓を手に、風を読むようにして正確無比な矢を処刑人の関節部やエネルギーの奔流点と思しき箇所に次々と撃ち込む。セレスは、風の精霊と大地の精霊に呼びかけ、処刑人の足元に巨大な蔦を絡ませたり、鋭い岩の槍を突き上げさせたりして、その動きを封じようとする。

そしてリアンは、聖剣アストラルセイバーを手に、処刑人の懐へと飛び込んだ。その剣技は、もはや以前の彼とは比較にならないほど洗練され、力強く、そして何よりも「調和」の力を宿していた。アストラルセイバーが虚無のエネルギーと衝突するたびに、七色の光の粒子が舞い散り、処刑人の黒い体をわずかながらも浄化していく。

【プリンの奇跡とマルーシャの援護射撃】

「みんな、頑張ってー! あたしも、あたしにできることをやるわ!」

マルーシャは、腕の中で完全に意識を取り戻し、翠色の優しい光を放つプリンを抱きしめながら叫んだ。プリンは、彼女の腕の中で、あの不思議な歌を再び歌い始めた。その歌声は、戦場に響き渡り、リアンたちの傷を癒やし、その心に勇気と希望の力を与えていく。さらに、プリンの歌声に呼応するかのように、マルーシャが鳴らす「古の民の音叉」の音色が、虚無の処刑人の動きをわずかに、しかし確実に鈍らせているようだった。

「そうよ、プリンちゃん! その歌は、きっとみんなの力になるわ! あたしも負けてられないわね!」

マルーシャは、商人鞄からありったけの発煙筒や閃光弾、そして悪臭を放つ薬品などを取り出し、処刑人の視界を遮ったり、その感覚を麻痺させたりと、彼女ならではの奇抜な方法で援護射撃を続けた。その姿は、もはや単なる商人ではなく、仲間と共に戦う勇敢な戦士そのものだった。

【調停者の沈黙、そして最後の賭け】

遠く異次元の「聖域」では、「星詠みの調停者」たちが、この予想外の事態を、そしてリアンの完全なる覚醒と、それに呼応するかのように力を取り戻し始めた仲間たちの姿を、驚愕と、そしてわずかな焦りの色を浮かべて観測していた。

「…エラー対象リオン…廃棄プロトコル…失敗…!? 馬鹿な…我々の『再調整』を…人間の矮小な魂の力が覆したというのか…?」

「このままでは…宇宙の法則に…さらなる歪みが…!」

調停者たちは、この「エラー」を修正するために、さらなる強力な介入を試みようとする。しかし、リアンたちが放つ「調和」のオーラと、プリンの歌声、そしてマルーシャの音叉の音色が、不思議なことに彼らの異次元からの干渉を阻害し、その力を著しく減衰させていた。

「おのれ…人間どもめ…!」

調停者たちは、初めてその冷徹な仮面の下に、焦燥と怒りの感情を露わにした。

【星屑の勝利、そして新たな夜明けの予感】

「虚無の処刑人」との戦いは、まさに死闘だった。何度も仲間が倒れそうになり、リアン自身も深手を負いながら、それでも彼らは決して諦めなかった。リアンのアストラルセイバーが、エルミナの聖なる光が、ヴォルフの魂の咆哮が、カイトの必中の矢が、セレスの精霊の祈りが、そしてプリンとマルーシャの勇気が、一つとなって処刑人に叩きつけられる。

ついに、リアンのアストラルセイバーが、処刑人の胸部にある禍々しい核――虚無のエネルギーの奔流点――を深々と貫いた。

「これで…終わりだあああああああっ!」

聖剣から放たれる七色の光の奔流が、処刑人の黒い体を内部から浄化し、焼き尽くしていく。処刑人は、断末魔の絶叫と共に、その巨体を維持できなくなり、黒い粒子となって霧散し、消滅した。

後に残されたのは、深く傷つき、疲弊しきったリアンと仲間たち、そして、破壊されながらも、かろうじてその姿を保った白竜の谷だった。

空を覆っていた異次元の亀裂もまた、処刑人の消滅と共に静かに閉じていき、谷には久しぶりに、雲間から柔らかな太陽の光が差し込んできた。

ソフィア王妃やダリウス騎士団長、グレイファング、そして生き残った谷の民たちが、恐る恐る姿を現し、リアンたちの起こした奇跡を目の当たりにして、ただただ涙を流しながらその場にひざまずき、感謝の祈りを捧げた。

リアンは、アストラルセイバーを杖代わりに、ふらつきながらも立ち上がり、仲間たちを見渡した。その顔には、疲労困憊の中にも、確かな安堵と、そして未来への強い決意の光が宿っていた。

「勝った…のか…?」マルーシャが、信じられないという表情で呟く。

「ああ…」リアンは頷いた。「だが、本当の戦いは、まだ始まったばかりだ。ウェスタリアを、そして俺たちの未来を、この手で取り戻すために…」

しかし、「星詠みの調停者」たちが、このリアンの完全なる覚醒と、彼らの計画の破綻を、黙って見過ごすはずがなかった。彼らの沈黙は、次なる、より恐るべき介入の予兆なのかもしれない。

そして、ウェスタリア大陸を覆う「虚無の侵食者」と「七つの災厄」の脅威もまた、決して消え去ったわけではなかった。

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