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ウェスタリア・サーガ:亡国の王子と喋るスライム  作者: 信川紋次郎
第二章:目覚める厄災と集う星々、ウェスタリア動乱
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星々の裁きと黒曜石の終焉、ウェスタリアの夜明けと迫る真の闇


【光と闇の激突、星々の裁断】

「小僧オオオオッ! 我が理想を…我が新たなる世界を…邪魔立てするなぁぁぁっ!」

ガイウスの絶叫が、崩壊しつつある「星の揺り籠」の中枢に響き渡った。彼の漆黒の長剣は、その身に宿す闇のエネルギーの全てを凝縮し、禍々しい黒い雷となってリアンに襲いかかる。それは、もはや剣技というより、純粋な破壊の奔流だった。

対するリアンは、完全に覚醒した「調和の聖具」の力と「竜の血脈」を共鳴させ、その全身から白銀と七色の虹彩を帯びた神々しいオーラを放っていた。父の指輪がその力の奔流を制御し、胸のお守りがそれを増幅させ、古びた剣はまばゆい光の刃と化している。

「お前の歪んだ理想のために、これ以上誰かを犠牲にはさせない! このウェスタリアの未来は、俺たちがこの手で掴み取るんだ!」

リアンの澄み切った声が、ガイウスの闇の咆哮と激しく衝突する。白銀の光刃と漆黒の魔剣が交錯し、凄まじいエネルギーの奔流が「星の揺り籠」の空間そのものを震わせ、壁や天井が次々と崩落していく。

空間に満ちる暴走したエネルギーが、二人の激闘の余波を受け、さらに不安定な状態となる。

【黒曜石の砕ける時、将軍の末路】

覚醒したリアンの力は、ガイウスの予測を遥かに超えていた。彼の剣は、ガイウスの闇のオーラを切り裂き、その黒曜石の鎧に次々と深い亀裂を入れていく。「調和の聖具」から放たれる聖なるエネルギーは、ガイウスの力の源泉である邪悪な気を中和し、彼の動きを徐々に鈍らせていった。

「馬鹿な…この私が…この黒曜石の鎧が…こんな小僧ごときに…!」

ガイウスの顔に、初めて焦りと屈辱の色が浮かぶ。彼は最後の力を振り絞り、闇のエネルギーを爆発的な力に変えてリアンに叩きつけようとした。

だが、リアンはそれよりも速かった。彼の白銀の剣が、まるで流星のような軌道を描き、ガイウスの鎧の胸部、かつてリアンがわずかな傷をつけた一点を、寸分の狂いもなく貫いた。

「ぐ…あああああああああっ!」

ガイウスの体から、黒い粒子と共に凄まじい量の闇のエネルギーが噴き出した。彼の黒曜石の鎧は甲高い音を立てて砕け散り、その下の素顔――かつては理想に燃える若き騎士だったのかもしれない、しかし今は深い絶望と狂気に染まった男の顔――が露わになる。

「…フフフ…これで…終わりと思うなよ…ドラグニアの王子…」ガイウスは、血反吐を吐きながらも、不気味な笑みを浮かべた。「『虚無』は…すぐそこまで来ている…お前たちの矮小な世界など…いずれ…全てが無に…帰すのだ…」

その言葉を最後に、ガイウスの体は完全に黒い粒子となって霧散し、その場には砕け散った黒曜石の鎧の破片だけが残された。仮面の魔術師もまた、主を失い、そして「星の揺り籠」の浄化の光に耐え切れず、絶叫と共に塵と化して消え去った。

【星の揺り籠、鎮静の歌】

ガイウスが倒れた後も、「星の揺り籠」の暴走はまだ完全には収まっていなかった。リアンは、深手を負いながらも、父アルトリウスの手帳に記されていた最後のページ、そして指輪に込められた父の想いを胸に、ゆっくりと「星の揺り籠」の中心核――巨大な光の奔流が渦巻く場所――へと歩み寄った。

彼は、父の指輪を掲げ、古のドラグニア語で、そして彼の魂の奥底から湧き上がる調和の歌を、力強く、そして清らかに詠唱し始めた。

「星々の古き眠りよ、今こそ目覚めよ! 天地を繋ぐ聖なる絆よ、その大いなる調和の力をもって、この地の叫びを、この星の涙を、鎮めたまえ!」

エルミナもまた、リアンの傍らに寄り添い、その詠唱に自らの聖なる祈りの力を重ねる。リアンの白銀の光と、エルミナの清浄な月の光が融合し、「星の揺り籠」の中心核へと注ぎ込まれていく。

すると、荒れ狂っていたエネルギーの奔流は、まるでその歌声に鎮められるかのように、徐々にその勢いを弱め、やがて穏やかで美しい、生命力に満ち溢れた青白い光へと変わっていった。王都ヴェルミリオンを覆っていた赤黒い凶星の輝きもまた、ゆっくりとその禍々しさを失い、夜空には再び清らかな星々の光が戻り始めた。

ヴェルミリオンの民衆は、空の色が変わり、不気味な地響きが完全に収まったことに気づき、何が起こったのか分からぬまま、ただ呆然と空を見上げていた。しかし、その表情には、ほんのわずかな安堵の色が浮かんでいた。

【夜明けの王都、再会と新たな誓い】

リアンは、全ての力を使い果たし、エルミナの腕の中で意識を失った。エルミナもまた、彼を支えながらその場に崩れ落ちそうになるが、駆けつけたカイトとセレス、そしてヴォルフに助けられる。マルーシャとプリンも、レジスタンスの生き残りと共に、涙ながらに彼らの無事を喜んだ。

王城の広場には、ソフィア王妃が、騎士団長ダリウスや軍師イザベラ、そして解放された王国の兵士たちと共に駆けつけていた。リアンが運び込まれると、ソフィアはその傍らに駆け寄り、息子の額に優しく手を当てた。

「…よく…頑張りましたね、リアン…私の、誇り高き息子…」

ヴァルガス王は、ガイウスのクーデターとも言える暴挙と、「星の揺り籠」の暴走が始まった混乱の中、恐怖のあまり王城から逃亡しようとしたところをレジスタンス兵に捕らえられ、その身柄を拘束されたことが報告された。ドラグニア王国は、事実上、ソフィア王妃と、そして民衆の希望を一身に背負うことになったリアン王子の指導のもと、再統一への道を歩み始めることになった。

ヴォルフは、リアンの傍らで静かに片膝をつき、その巨躯を深く折り曲げた。

「リアン王子…いや、リアン殿。俺は、『七星の守護者』戦斧のヴォルフとして、改めて貴殿に忠誠を誓おう。この命、ウェスタリアを覆う真の闇を打ち払うその日まで、貴殿と共にある」

カイトとセレスもまた、それぞれの民の代表として、そしてリアンの仲間として、改めて彼への変わらぬ協力を誓った。

【ウェスタリアの夜明けと迫る真の闇(第二章 完)】

数日後、ヴェルミリオンには、ガイウスの圧政から解放されたことを祝う、束の間の平和と再建の槌音が響き渡っていた。リアンは、民衆の前に王子として初めてその姿を現し、ドラグニア王国の復興と、ウェスタリア大陸全体の平和のために戦うことを力強く宣言した。その姿は、もはやかつての追放された未熟な王子ではなく、多くの困難を乗り越え、民の想いを背負う真のリーダーとしての風格を漂わせ始めていた。

エルミナは、星々の観測を続けていた。彼女はリアンに告げる。

「リアン王子、星々は一時的に安定を取り戻しました。ですが、大陸各地に点在する『七つの災厄』の気配は、依然として消えてはいません。そして、それら全てを鎮め、古の『厄門』を完全に封じなければ、『虚無の侵食者』の本格的な到来は、決して避けられないでしょう…」

その言葉を裏付けるかのように、遠くマキナ皇国の女帝リリアンヌや、獣人連合ボルグの賢狼王ヴォルフガングから、リアンたちの勝利を祝すメッセージと共に、それぞれの国で発生している深刻な異変と、今後の協力関係を正式に協議したいという使者が、ヴェルミリオンへと訪れ始めていた。ウェスタリア諸国の連携の兆しが、ようやく見え始めたのだ。

しかし、その希望の光の裏で、物語は静かに、しかし確実に、次なる絶望へと向かっていた。

遠い北の凍てつく大地、あるいは世界の裂け目と呼ばれる禁断の地から、異形の影が無数にウェスタリア大陸に向けて動き出していた。それは、「虚無の侵食者」の先兵たちだった。彼らの真の目的と、その恐るべき力は、まだ謎に包まれている。ガイウスは、その壮大な計画の、ほんの一つの駒に過ぎなかったのかもしれない。

リアンたちの戦いは、決して終わったわけではなかった。むしろ、ガイウスという一つの大きな障害を乗り越えたことで、彼らはウェスタリア大陸全体の運命をその双肩に背負い、より巨大で、より根源的な脅威へと、仲間たちと共に立ち向かっていくことになるのだった。

彼らの前には、まだ多くの困難と、そして想像を絶する壮大な冒険が待ち受けている。

(第二章 完)


【第三章 予告】

「虚無の侵食者」ついに本格襲来。ウェスタリア全土に広がる戦火と、次々と牙を剥く「七つの災厄」。

集う「七星の守護者」たち――彼らは敵か、味方か?

失われた「星霜の玉座」の真実と、古の竜族との関わり。

リアンは、仲間たちと、そして新たなる同盟国の力を結集し、真の王として覚醒し、この世界を救うことができるのか。

エルミナが見た希望の光は、彼らをどこへ導くのか。

星と魂が織りなす、壮大なファンタジーサーガ、次章『星霜の玉座:虚無の侵食者と七つの星の絆』にご期待ください。


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