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ウェスタリア・サーガ:亡国の王子と喋るスライム  作者: 信川紋次郎
第二章:目覚める厄災と集う星々、ウェスタリア動乱
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星の揺り籠と父の遺志


【最後の舞台、星々の慟哭】

「ようやく来たか、リアン王子。そして、裏切り者のヴォルフも一緒とはな。お前たちのための最後の舞台は、最高の形で整ったようだ」

ガイウスの冷徹な言葉が、崩壊しつつある王城地下の巨大空洞――暴走する「星の揺り籠」の中枢――に響き渡った。彼の背後では、禍々しい紫色の魔法陣が明滅し、傍らに控える新たな仮面の魔術師が、その両手を掲げて「星の揺り籠」から溢れ出る膨大なエネルギーを制御しようと(あるいはさらに増幅させようと)している。

空洞全体が、断末魔のような轟音と振動に包まれ、天井からは巨大な岩盤が次々と剥離し、落下してくる。床には亀裂が走り、そこから眩いばかりの、しかし制御不能なエネルギーが間欠泉のように噴き出している。それは、まさに世界の終焉を思わせる光景だった。

「始めようか、ドラグニアの王子。お前のその未熟な血と魂を、我が築き上げる新世界の礎とするための、最後の祝宴をな」

ガイウスが、腰に佩いた漆黒の長剣を、まるで愛しい恋人に触れるかのように静かに抜き放った。その剣身は、光を一切反射せず、闇そのものを凝縮して鍛え上げたかのような、不気味な輝きを放っていた。

【黒曜石の剣技、絶望の猛攻】

次の瞬間、ガイウスの姿が掻き消えたかと思うと、リアンの眼前に漆黒の斬撃が迫っていた。ガイウスは、その黒曜石の鎧から放たれる闇のオーラを全身に纏い、人間離れした速度と膂力でリアンに襲いかかる。その剣技は、かつてリアンが対峙したどの敵とも比較にならないほど洗練され、かつ一撃一撃が戦斧のヴォルフの全力の一撃をも凌駕するほどの、絶望的なまでの破壊力を秘めていた。

「くっ…!」

リアンは、お守りと父の指輪から流れ込む「調和の聖具」の力を感じながら、白銀のオーラを纏った剣で辛うじてそれを受け止める。しかし、ガイウスの剣圧はあまりにも強大で、リアンは何度も体勢を崩し、地面に叩きつけられそうになる。

「エルミナ、援護を!」ヴォルフが叫び、鉄棍を構えてガイウスの側面に回り込もうとする。

だが、仮面の魔術師がそれを許さない。「フフフ…『七星の守護者』とやらも、所詮はこの程度か。我が呼び出す深淵のしもべたちの餌食となるがよい!」

魔術師の詠唱と共に、周囲の空間から黒い霧が湧き出し、そこから鋭い爪と牙を持つ異形の魔獣たちが次々と召喚され、ヴォルフ、カイト、セレスの三人に襲いかかった。

「リアン王子! あなたは一人ではありません!」

エルミナは、満身創痍ながらも、その美しい瞳に決して屈しないという強い意志を宿し、杖を高く掲げた。彼女の全身から、まるで最後の希望の光であるかのように、清浄で力強い聖なる光の奔流が放たれ、ガイウスに向けて殺到する。

「星光の裁き(アストラル・ジャッジメント)!」

ガイウスは、エルミナの放った光の奔流を、左腕に装着した黒曜石の小盾で受け止めた。光と闇が激しく衝突し、凄まじい爆音と共に周囲の岩盤を吹き飛ばすが、ガイウスは微動だにしない。

「…小賢しい。だが、その程度の光で、我が深淵の闇を払えると思うな」

ガイウスは、エルミナを一瞥すると、再びリアンへと意識を集中させ、その猛攻を再開した。リアンは、エルミナの援護で得たわずかな時間で体勢を立て直したが、ガイウスの圧倒的な実力の前に、防戦一方で、徐々に深手を負っていく。

【仲間たちの絆、絶望に抗う光】

「このままでは…王子が…!」カイトは、召喚された魔獣の爪を紙一重でかわしながら、リアンの窮状に歯噛みする。

セレスもまた、精霊の力を借りて魔獣の動きを封じようと試みるが、仮面の魔術師の放つ邪悪な波動が、精霊たちの力を著しく弱めていた。「精霊たちが…苦しんでいます…この空間は、あまりにも『虚無』の気に満ちすぎている…!」

「王子様ぁーっ!しっかりしてーっ!」

「リアーン! 負けるなーっ!」

後方では、マルーシャとプリンが、崩れ落ちる瓦礫から身を守りながら、必死にリアンに声援を送っていた。マルーシャは、商人鞄からありったけの回復薬や気付け薬を取り出し、カイトやセレス、そしてヴォルフの元へと投げ渡そうとするが、それも焼け石に水だった。

だが、プリンが、マルーシャが落とした父アルトリウスの手帳の特定のページ――そこには、乱雑な文字で「星の揺り籠…その心臓…竜の涙…共鳴…鎮静…」といったキーワードが走り書きされていた――を偶然にもリアンの足元へと届けたのだ。

【父の遺志、調和の力の覚醒】

リアンは、マルーシャが届けた(と彼には思えた)手帳の記述と、父の指輪が激しく脈動し、暴走する「星の揺り籠」の中心部――そこには、巨大な水晶のような核が不気味な光を放っていた――を指し示していることに気づいた。

(父上は…この事態を予見していたのか…? 星の揺り籠の心臓…竜の涙…それは、俺の胸にあるこのお守りのことか…!?)

絶体絶命の窮地。ガイウスの剣が、リアンの肩を深く切り裂き、激痛が全身を貫く。意識が遠のきかけ、膝が折れそうになったその時、仲間たちの顔が、そして母ソフィアの優しい笑顔が、彼の脳裏をよぎった。

(まだ…まだ終われない…! 俺には…守るべきものがあるんだ!)

リアンは、最後の力を振り絞り、胸のお守りを強く握りしめた。父の指輪、お守りに宿る「調和の聖具」の力、そして彼自身の「竜の血脈」――三つの力が、彼の強い意志に応えるかのように、ついに完全な共鳴と融合を果たした。

リアンの全身が、白銀の、そして七色の虹彩を帯びた、神々しいまでの光に包まれた。その瞳は純粋な黄金色に輝き、背中にはまるで光そのもので織り上げられたかのような巨大な翼の幻影が現れる。それは、彼が「竜の子」として、そして「調和の聖具」の正当な担い手として、完全に覚醒した瞬間だった。

【最終決戦、星々の裁き】

「なっ…その力は…!?」ガイウスが、初めてその冷徹な表情を驚愕に歪ませた。

覚醒したリアンは、もはや以前の彼ではなかった。その動きは神速を極め、手に持つ古びた剣は、まるで伝説の聖剣のように白銀の輝きを放っている。彼は、ガイウスの猛攻を紙一重でかわし、あるいはその闇の剣を白銀のオーラで弾き返す。

「ガイウス! お前の歪んだ野望も、ここまでだ!」

一方、エルミナとヴォルフ、カイト、セレスもまた、リアンの覚醒に勇気づけられ、最後の力を振り絞って仮面の魔術師とその配下の魔獣たちを打ち破り、リアンが「星の揺り籠」の中心核へと向かうための道を切り開いた。

リアンは、ガイウスの執拗な追撃を振り切り、ついに暴走する「星の揺り籠」の中心核――巨大な光の奔流が渦巻く場所――へと到達した。彼は、父の指輪を掲げ、手帳に記されていた古の言葉、そして彼の魂が奏でる調和の歌を、力強く、そして清らかに詠唱し始めた。

「星々の古き眠りよ、今こそ目覚めよ! 天地を繋ぐ聖なる絆よ、その大いなる調和の力をもって、この地の叫びを、この星の涙を、鎮めたまえ!」

リアンの詠唱に応え、父の指輪とお守りが眩いばかりの光を放ち、「星の揺り籠」の暴走エネルギーが、まるで浄化されるかのように、徐々にその荒々しさを収め、清浄で穏やかな光へと変わり始めていく。

「小僧オオオオッ! 我が理想を…我が新たなる世界を…邪魔立てするなぁぁぁっ!」

ガイウスは、自らの計画が完全に破られようとしていることに気づき、最後の力を振り絞って、その身に宿す闇のエネルギーの全てを剣に込め、リアンに襲いかかろうとした。

リアンもまた、覚醒した力の全てを剣に集束させ、ガイウスを迎え撃つ。

白銀の光と漆黒の闇が、崩壊しつつある「星の揺り籠」の中枢で、激しく衝突する。

ウェスタリア大陸の運命を賭けた戦いは、まさにその頂点を迎えようとしていた。そして、その衝撃的な結末は、まだ誰にも予測できない。

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