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ウェスタリア・サーガ:亡国の王子と喋るスライム  作者: 信川紋次郎
第二章:目覚める厄災と集う星々、ウェスタリア動乱
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虚無の先触れ、白銀の刃と砕ける呪晶


【虚無の宣告、絶望の円舞】

「…フフフ…来たか、ドラグニアの『竜の子』よ。そして、星の乙女と森の民の生き残りも一緒とはな…」

禁忌の森の最深部、巨大な黒水晶柱の前で儀式を行っていたローブの集団。そのリーダー格である、深いフードを目深にかぶった人物が、地獄の底から響くような冷たい声でリアンたちに語りかけた。

「歓迎しよう。我らは『虚無の先触れ』。この老いぼれた星の生命を刈り取り、新たなる静寂、偉大なる『無の御方』の御許へと、万物を導く者なり。お前たちもまた、この大いなる石化の円舞ワルツに加わり、永遠の静寂の中で我らが主の降臨を待つ、栄誉ある贄となるがよい!」

その言葉と同時に、周囲のローブの者たちが一斉に不気味な呪文を唱え始め、リアン一行に襲いかかってきた。彼らの手からは、触れたものを石に変えるという禍々しい紫色の魔弾が放たれ、足元の地面からは鋭い石の槍が無数に突き出してくる。黒い水晶柱が、彼らの呪術に呼応するかのように、不気味な低い唸りを上げて脈動し、周囲の森にさらなる石化の呪いを撒き散らしていた。

【連携の刃、災厄への抵抗】

「させるものか!」

リアンは、白銀のオーラを纏った剣を構え、真っ先に飛び出した。彼の剣閃が、飛来する石化の魔弾を切り払う。剣に触れた魔弾は、まるで浄化されるかのように霧散し、石化の力が中和されていくのが分かった。「調和の聖具」の力が、この邪悪な呪いに対して有効なのだ。

「エルミナさん、あの水晶柱が奴らの力の源です! あれを止めなければ、この森全体が石になってしまう!」リアンは叫ぶ。

「はい、王子! ですが、あれには強力な邪気が…!」エルミナは、光の結界を展開して仲間たちを石化の波動から守りつつ、その星詠みの力で水晶柱の弱点を探ろうとするが、柱から放たれる強大な負のエネルギーに阻まれ、顔を歪める。

「森の怒りを思い知れ!」カイトが、動きの素早いローブの敵のフードの奥、わずかに覗く顔面を狙って正確無比な矢を次々と放ち、その数を減らしていく。彼の矢には、セレスが祈りを込めた小さな木の葉が結び付けられており、命中した敵の動きを一時的に鈍らせる効果があった。

セレス自身も、両手を大地にかざし、必死に森の精霊たちに呼びかけていた。「お願い、まだ諦めないで…! この森の子供たちを、私たちに力を貸して…!」彼女の祈りに呼応し、石化しかけた地面から、最後の力を振り絞るかのように歪な木の根が数本突き出し、ローブの敵の足に絡みついてその動きを封じた。

【水晶柱の脅威とマルーシャの機転】

「小賢しい抵抗を…だが、無駄だ!」

ローブのリーダーが、両手を黒水晶柱にかざすと、柱はさらに激しく脈動し、これまでとは比較にならないほど強力な石化の波動を全方位に放った。リアンのお守りが眩い光を放ち、その直撃を辛うじて防いだが、一行全員がその凄まじい衝撃に吹き飛ばされそうになり、地面に手をつく。

「こんなところで、石になってたまるもんですかーっ!」

マルーシャが、商人鞄からありったけの煙幕弾や、強い光と音を発する古い魔法道具(かつて護身用に仕入れた不良在庫だった)を取り出し、敵陣へと投げつけた。ドォン!という轟音と共に色とりどりの煙と閃光が広がり、ローブの者たちの視界と集中を奪う。

「プリンちゃん、今よ! あのリーダーが持ってる、なんかキラキラしたお守りみたいなの、取ってきて!」

「ぷるるん! 任せとけだぜ!」

プリンは、マルーシャが作り出した混乱に乗じて、その小さな体で素早くローブのリーダーの足元へと潜り込み、彼が首から下げていた、黒水晶の欠片で作られた禍々しい輝きを放つアミュレットに飛びついた。そして、それを強引に引きちぎると、電光石火の速さでリアンの元へと戻ってきた。

「グヌヌ…! 我が力の増幅器を…! このスライムめ!」

リーダーは、不意を突かれてアミュレットを奪われたことに気づき、初めて怒りの声を上げた。その影響か、黒水晶柱の脈動がわずかに弱まったように見えた。

【ガイウスの「監視者」と苦戦】

だが、戦況は依然として厳しい。ローブのリーダーの力はアミュレットがなくとも強大で、水晶柱から供給されるエネルギーは底なしのように思われた。エルミナの魔力は消耗し、光の結界も徐々に薄れ始めている。カイトの矢も残り少なくなってきた。セレスも、森の精霊たちの悲鳴を感じ取り、その顔は蒼白だった。

リアンは、仲間たちが次々と追い詰められていくのを見て、焦りと無力感に襲われそうになる。お守りと聖具の力は確かに増しているが、それを完全に引き出し、制御するには、まだ何かが足りない。

その時、森の木々の上空に、数体の金属製の小型飛行物体――ガイウスが放った「監視者」――が静かに滞空しているのが見えた。それらは、まるで冷たい昆虫の複眼のように、戦場のあらゆる情報を記録・分析しているかのようだった。戦闘には直接参加しないものの、その無機質で不気味な存在は、リアンたちに言い知れぬプレッシャーを与え、この戦いがガイウスの掌の上で踊らされているのではないかという疑念を抱かせた。

【覚悟の一撃、砕けるか呪いの核】

「もはやこれまでか…」ローブのリーダーが、再び水晶柱に両手をかざし、その禍々しいエネルギーを極限まで高め始めた。「この森の全ての生命と共に、永遠の石像と化すがいい! そして、偉大なる『無の御方』の礎となれ!」

大地が激しく震え、黒水晶柱から放たれる石化の波動は、もはやリアンのお守りの光だけでは防ぎきれないほどの規模で、津波のように一行へと迫ってきた。

「リアン王子、今しかありません!」エルミナが、最後の力を振り絞るように叫んだ。「あの水晶柱の中心…黒く淀んだ核のようなものが見えます! そこが、おそらく弱点です! そこに…全ての力を!」

彼女の星詠みが、極限の集中の中で、一瞬だけ水晶柱の弱点――内部で不気味に脈動する黒い核――を捉えたのだ。

リアンは、仲間たちの想い、シルヴァンウッドの民の祈り、そして母ソフィアの顔を脳裏に浮かべた。彼は、お守りと「調和の聖具」の力を、そして自身の魂の全てを、白銀に輝く剣へと注ぎ込む。剣は、これまでにないほどの眩い光と、天を衝くかのような竜の咆哮を思わせる強大なオーラを放ち始めた。

「このウェスタリアを…こんな悲しい涙で満たされた場所には…断じてさせない!」

リアンは、全ての希望と覚悟を込めた渾身の一撃を、黒水晶柱の中心核めがけて解き放った。白銀の閃光が、まるで流星のように森の闇を切り裂き、水晶柱の核へと吸い込まれていく。

ドゴオオオオオオオオオオン!!!

森全体を揺るがすほどの凄まじい轟音と共に、黒水晶柱が内部から眩い光を放ち、その表面に無数の亀裂が走った。果たして、リアンの一撃は、呪いの核を砕き、この「石化の嘆息」を止めることができるのか。そして、その衝撃的な結末は、上空で静かに監視を続けるガイウスの機械の眼に、どのように記録されるのだろうか…。

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