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08

「それはそうと、そなたちょっと耳を貸せ」


 


 なんだ? あらたまって?


 


 とりあえず、手にしていたカップとお菓子をテーブルに置き、()ずまいを正して、王太子の話を傾聴(けいちょう)する姿勢をとる。


 


「いや、そうではない。もっと我のそばへ参って、耳打ちがしやすいようにしろということだ」


「は、はぁ?」


 


 この四阿(あずまや)にはすでに俺と王太子しかいない。給仕をしている執事さんやメイドさんたちは、少し離れた場所に待機していて、そこからでは俺たちが話している内容を聞き取るなんて不可能だろう。つまり、他人に聞かれたらまずい話をしたいのであれば、普通に話せばよく、耳打ちするまでもないはずなのだが?


 それともあれだろうか?


 あの執事さんかメイドさんたちの中に、読唇術のようなことを得意にしている人がいて、俺たちの話を遠くからでも読み取ってしまえるのだろうか?


 それなら、ハンカチかなにかで口元を隠してしまえばいいだろうに?


 いろいろ疑問にも思ったが、なにか俺にだけ聞かせたい話があるようだ。好奇心がムクムクと膨らむのも感じる。


 いそいそと王太子の隣へと移動した。


 


 王太子は、隣で中腰になり、耳をそばだてる俺の耳元へ唇を寄せてきた。そして、


 


 ふっ


 


 ぞわわ――


 


 思わず、耳を押さえてのけぞってしまった。そんな俺の様子を愉快そうに眺めている王太子がいるわけで。


 


「な、なにをなされます!」


「あははは、すまぬ。すまぬ。ついな」


「そんなくだらないいたずら(・・・・)をするために、私をそばへ呼んだのですか?」


 


 眉を逆立ててにらむ俺に、笑みを浮かべたまま、謝罪するように手をふる。


 


「あははは、すまぬ、すまぬ。そうではない。ちゃんと用事があるから。まあ、そう怒るな。ほれ、この通り、謝っておるじゃろ」


 


 どこがだよ! ケラケラ笑っているままじゃねぇか!


 


 ともあれ、すぐに笑い納め、真剣な表情をつくった。今度はちゃんと何かを聞かせてくれるつもりなようなので、もう一度さっきの中腰の体勢をとって、耳をそばだたせた。途端に、


 


 かぷっ


 


「……」


 


 耳の上部に生暖かいものが覆いかぶさる。そして、硬いものが当たり、


 


 ガリッ!


 


 つよい痛みが耳に発生した。


 


 って、これって!


 


 思わず、耳を押さえ、のけぞるようにして、その場から飛びのく。


 


「な、な、なにを……!」


 


 抗議する俺に、赤い舌で唇をなめまわしながら、王太子は俺を冷たい目で眺めていた。


 


「では、命じる。そなたが知っている禁書の中身について、我に教えよ」


「えっ? ……そ、それは、なりません」


「なにゆえじゃ?」


「あれは、人が知るべきものではないからです」


「ほお。ますます中身が気になるの」


 


 むっ、なんだこれは?


 俺の意思を無視して、俺の唇が勝手に受け答えしているのだが。


 


「それほど、危険な内容なのか?」


「いいえ、内容自体は大したものではないのです。私が目にしたのは、ただの魔道具の作成方法が記されているだけのものですので」


「では、なぜ、我に見せるのをそなたはそんなに(こば)む?」


「それを用いてしまうと、いずれ世界の滅びにつながりかねないものです」


「ほお。それは、それは」


「実際、すでにいくつかの世界が滅んでしまっています。私が目にしたのも、そんな滅んでしまった世界に残されていたものなのですから」


「……」


「人が知るべきものではありません!」


「なるほど……」


 


 ようやく、あきらめてくれたか……


 


 だが、直後に好奇心で目をランランと輝かせて、俺のことを見返してくるわけで。


 


「ますます、中身が知りたくなった。絶対、そなたが抱えている秘密を(あば)いてやろうぞ!」


「おいっ! ひとの話、聞いていたのかよっ!」


 


 


 

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