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07

 近隣世界の禁書類は、すべて七千年ほど前に生きていた多くの世界の勇者や魔王、大精霊や妖王たちの手によって何重もの封印が(ほどこ)され、何人(なんぴと)といえどその封印を解き、中を読むことなんてできない。たとえ、勇者や魔王自身であったとしてもだ。


 その禁書類とは、かつて近隣世界のほとんどを植民地支配していたカーマイン・ク・ラールで七千年以上前に書かれたもの。


 だが、今から七千年ほど前、その植民地支配から逃れ、次に次に独立していった植民地世界の勇者や魔王たちが、相互に協力し合い、逆に宗主国だったカーマイン・ク・ラールに攻め込み、そこで繫栄していた文明を討ち滅ぼしたのだ。そして、その独立戦争の戦利品として持ち帰ることになったものの中にある書物類が、自分たちののちの世代に悪用されないように、カーマイン・ク・ラールに攻め込んだ三十人を越える勇者や魔王たち(その中に当時のヨックォ・ハルマの勇者であった聖王ミミロワンドも含まれていた)の手で施されたのが聖王ミミロワンドの封印というものの正体だった。


 三十人以上の別々の伝説級の人々の手によって施された封印。なので、一つや二つならともかく、すべての封印を破るなんてほぼ不可能なのだ。


 


 


 


 ――さて、ヘンリー王太子は、このほとんど伝説といっていいような話を耳にしているのだろうか?


 


 すくなくとも、同じ王族の一員であるミレッタ王女やユリウス王子たちは、この聖王ミミロワンドの伝説については知らないようだった。


 何しろ、七千年以上前の出来事。人々の記憶や伝承から抹消されるのには十分な時間が流れている。


 そして、もし本当に知らないのであれば、それをいまさら説明するべきではないだろう。


 なにしろ、かつて近隣世界を植民地化するだけの知識や強大な能力について書かれている書物の内容に関わるものなのだから。知ってしまえばロクなことにならないのだけはたしかな話だ。


 くわばら、くわばら。


 


 


 


 ひそかに首をすくめる俺のことをじっくりと眺めながら、ヘンリー王太子は、使用人が再び淹れたカップに口をつけている。


 


「つまり、そなたはどこかで封印が施されていない禁書に目を通したというわけか……」


「すべての禁書には封印がなされているはずなのでは?」


「おそらくは封印が施される前に別に隠された禁書がどこかに存在するということだな」


「……」


 


 なかなかに鋭い。もっとも、俺のほうは表情一つ変えずにカップを持ち上げて、優雅な仕草でその中身をのどに流し込むのだが……


 


 カタカタ――


 


「どうした? 手が震えておるではないか?」


「そ、そのようなこと、まったく、一向に……」


「激しく動揺しておるようだが?」


 


 くそっ! 見透かしたように微笑みやがって!


 


「で、その中身に私が目を通すことはできるのか?」


「さあ、なんのことでしょう?」


「王家の権限をつかえば――いや、それでは難しいな。なにしろ、そなたはミレッタに仕えるもの。ウェスト王国の権威などいかばかりのこともないか……」


「……」


 


 そのあとも、独り言のように俺の目の前で、どうすれば俺が目にしたはずの禁書の中身を自身でも知ることができるかをあれこれと検討するわけで。


 


 ほんと、ここの兄妹というやつは!


 


 とりあえず、とぼけて、聞こえないふりをして。


 


「いっそ、殺してしまって、家探しして奪うというのは?」


「おいっ!」


 


 そして、この後もたまにこんな調子で俺を呼び出しては、目の前であれこれ策謀(さくぼう)をめぐらしつづけることになるのだった。


 


 はぁ~ 面倒くさっ!


 


 


 

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