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 王宮の広間に王国の主だった者たちが集い、豪華な料理の前でワイングラス片手に歓談している。


 先の戦争の勝利を記念する国王主催のパーティーの最中だ。


 出席者の中には今回戦った国々の駐在大使たちの顔も見える。


 彼らはうかれぎみの王国の人々とは対象的にみな一様に渋面を浮かべている。こんなパーティーには出席したくないのは明らかだった。ただ、本国からの命令でウェスト王国との活計悪化をさけるために欠席することが禁じられているから、この場にいるのだ。


 先ほど、今回手に入れた新領土を統治する代官のお披露目も行われ、会場中が拍手に包まれる中で、俺は例の歯形が見える宰相から代官任命の宣旨(せんじ)を与えられた。さらに、新領土のうちから代官の役職に見合うだけの領地が与えられ、それをもって貴族に列せられることにもなった。


 人々は口々に祝福の言葉を俺にかけ、今回の幸運(?)を(うらや)んだ。


 おかげで、一介の企業経営者から国の高官にして貴族の一員になってしまった。いままでの気楽な立場で王国内の様々な人たちと交流できる方が、俺の(しょう)に合い、なにかと都合がいいのだが……


 


 


 


 広間の隅でカナーガッファの駐在大使が浮かない顔をして酒をあおっている。ま、それも当然か。今回の敗戦国であり、領土を削られた国の代表なのだから。


 さっそく近寄り、声をかけようとしたのだが、挨拶もそこそこにその場を離れようとする。


 まあ、失った領土を新しく統治する責任者に俺が指名されたのだから、俺の顔も見たくなくて当たり前。とはいえ、俺の方は、これから新しく治めることになる土地。今まで一度も足を踏み入れたこともなく、どんな土地柄なのか情報が決定的に不足している。一応、ディアナたちにも協力してもらって調べてもらっているが、俺の方でも集められる限りのものを集めておくに越したことはないだろう。


 逃げようとする駐在大使の先回りするように移動し、ブロック。空になっているグラスに酒を注ぎつつ、話しかけようと……


 


 ――ざわざわ


 


 不意に会場の中がざわめきだした。


 広間にいた全員の目が入口の方へ集まる。


 そこには美しく着飾った貴婦人が立っていた。


 姿勢よく凛とした立ち姿はよく目立つ。胸元が大きく開いたドレスを着て、内側から七色の光を発する宝石をはめ、周囲にたくさんの宝石をちりばめたペンダントトップのついたネックレスを飾り、髪の毛を高く巻いている。口元を扇で隠して色っぽい目で広間の中を見回している。


 やがて、その目は目的のものを見つけたのか、一瞬、猛禽類のように細められ、光った。


 その視線が向けられているのは――えっ!? 俺。


 思わずあっけにとられて、見返しているうちに、いつのまにかカナーガッファの駐在大使は俺の側からはなれている。


 かわりに、その入り口にいた貴婦人が優雅な足取りで、俺のもとへまっすぐにやってくるのだった。


 その人は――


 


「こ、これは、ソフィア王女。いつ、ツ・ルーミから?」


「おひさしぶりね、ロジャー・スミス。先ほど到着したばかりですわ」


 


 カナーガッファのさらに北にあるツ・ルーミ王国の王女にして次期国王として摂政を務めるソフィア王女だった。


 


「聞きましたわよ。この度は新領土の代官就任おめでとうございます」


「あ、ありがとうございます」


 


 ――なぜ、ここにソフィア王女が? わざわざ戦勝パーティーへ来たのか? いや、そんなわけない。そんなことのために遠く離れた我が国へ旅してくるはずはない。なら、摂政の職務を中断してまで我が国へこなければならない緊急の出来事でも発生したのだろうか?


 


 考えてみるが、とくに思い当たることはなく……?


 


「これであなたもただの民間人ではなくなりましたわね」


「で、ですね。ハハハ。ちょっと不本意ではありますが」


「あら? 不本意ですの?」


「ええ、あははは……」


「オホホホ」


 


 二人で笑いあい(ほが)らかな空気を(かも)している。


 って、なんなんだろう? なにか俺に言いたそうにしているのだが?


 


 と、ソフィア王女は口元を隠していた扇を閉じ、腹の前でその扇をねじるようにつかんだ。そして、今までの様子から一変して、真剣な表情を俺に向けてくる。


 


 な、なんだ? これからなにが起こるんだ?


 


 息を吸い込み、吐き出しながら一気に告げてきた。


 


「貴族に列せられたのは朗報でしたわ。これで重大な障害が一つ片付きました。だから、言いますわ。ロジャー・スミス!」


「は、はい!」


 


 異様な雰囲気に俺自身も周りの人々も緊張感で息をのみ、見守る。


 


「私と、この私、次期ツ・ルーミ王国女王にして、摂政ソフィア・ツ・ルーミの、生涯の夫・伴侶になりなさい! 私と結婚しなさい!」


 


 そのプロポーズの言葉が本気であることを示すようにまっすぐに、どこまでもまっすぐに俺のことを見つめてくる。


 その言葉の内容を理解した周囲の人々から順にどよめきが広間の中へ広がっていく。


 


 そんなどよめきの中に、


 


「な、なんですってぇ! 突然現れて、なんてことを! この薄汚い泥棒猫め、許すまじ! その罪万死に値する! 殺す! そこの鼻の下のばしてるおバカごと殺す! お兄様のために殺す!」


 


 なぜか、前の聖女にしてウェスト王国のミレッタ王女の憎しみの言葉が(まぎ)れていた。


 


「なんでだよ!」


 


 


 

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