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 皇帝カールはじめ、カナーガッファの士官たちが中に押し込められている檻車(かんしゃ)は、北門から王都の中へ乗り入れてきた。


 この戦争を始めるころに思い描いていた入城の姿とは全く違うみじめな現実。カールは唇を強く噛んで、前方をただにらんでいる。


 それにつづく檻車に乗った士官たちは、あるものは涙にくれ、あるものはただうつろな目をしてうつむくばかり。


 そんなみじめな姿の彼らに王都の人々は罵声を浴びせ、あざけるのだった。そして、その檻車の長蛇の列を率いる将たちに歓声を上げていた。


 


「よくやったぞ!」


「ブラボー!」


「すごいぞ! すごいぞ!」


 


 そして、それらの歓声はしだいにまとまりを帯びていき、だれかが指揮しているというのでもないのに、一つになっていく。


 


「「「バンザイ! バンザイ! ウェスト王国、バンザイ! ヨーゼフ国王バンザイ!」」」


 


『バンザイ』の声は王都中に響き渡り、人々の笑顔とともにいつまでも繰り返されつづけた。


 そんな中で何台もつづく檻車の列の中から、一台の檻車が列を離れ、西の市場の方向へと去っていった。


 他の檻車には複数人のカナーガッファの士官たちが詰め込まれているのに、その檻車にだけは一人しか乗せられていない。


 


 禿頭の囚人。


 


 目隠しと猿轡(さるぐつわ)をかまされ、抵抗できないように両手を縛られている。


 結局、最後まで王都の人々の中で、その囚人が何者であるのかに気が付いた者はいなかった。


 この国にいたころには、美しいひげが自慢で、年の割に豊かな髪をもっていたのだから、それも当然だったともいえる。


 ただ、西の市場の端に設けられていた火刑台にその囚人が縛り付けられ、常とは異なり、その囚人が犯した罪状に関して市民への周知もなく、火あぶりにされるのを人々はただ淡々と眺めていただけだった。


 


 


 


 北門から皇帝カールが護送されてまもなく西門や南門からも今回の戦争に参加し、捕らえられた王たちが護送されてきた。


 最後に、囚人たちは厳重に警護された離宮の一つに集められ、収容された。


 皇帝カールが出発前に夢想したように王都でカールの一族が大集合したのである。ただし、思い描いていた宴での参集ではなく、囚人としてだったが。


 ウェスト王国に王をとらえられ、降伏した周辺各国では、それぞれの国でいそいで新しい国王が擁立(ようりつ)され、国政の立て直しが図られた。その一環として、派遣されてきた全権大使たちによって、ウェスト王国との講和条約の交渉がなされ、短期間でそれらの交渉は次々に妥結していった。


 なんにせよ、今回の戦争はカナーガッファ帝国の主導で行われた侵略戦争。各国はそれに付き合って軍を出しただけ。各国からの謝罪といくつかの約束、それと比較的少額な賠償金を受け渡すことで話はまとまった。


 まあ、今回のウェスト王国は、侵略してきた国々の王をとらえはしたが、各国の軍隊を完膚なきまで打ち破ったわけではない。各国はその気になれば、十分に再戦できるだけの戦力をまだ抱えているのだから。ウェスト王国としては、今回の勝利に乗じてどこまでも追い込むというわけにもいかなかった。


 また、各国の方も新王が即位したばかりで、まだ国内が混乱している。混乱を(しず)めるのが何よりも最優先事項だ。もしそこへウェスト王国が捕らえている旧王を押し立てて、介入してくることになると面倒なことになりかねない。


 そういう両者の思惑が早期の条約妥結をもたらしのだった。


 


 


 


 残ったのはカナーガッファ帝国との間の和平だけ。


 それも割と早々に妥結することになる。


 この戦争は皇帝カールの個人的で無謀な野心のせいだとされ、それをあおり扇動したのが裏切り者のマールのせいだと。だから、カナーガッファ帝国という国家そのものには従属的な立場での責任しかなく主要な責任は皇帝カールと裏切り者に()せられるべきだとされたのだ。


 もちろん、捕らえられている皇帝カールにはそれへ抗弁する権利も手段もなく、マールはすでにこの世にいない。死人は文句を言えない。


 結局、財務大臣あがりの老宰相によって補佐されることになった皇帝カールの後を継いだ新帝とのあいだでも、他の国とほぼ同様の条件で講和条約が結ばれた。だが、この戦争で、カナーガッファ軍は皇帝だけでなく、軍の士官たちのほとんどもウェスト王国に捕らえられてしまった。ほぼカナーガッファ軍自体は崩壊状態といってもよい。軍の立て直しのためには、彼らの解放がどうしても必要になる。


 しかも、士官として従軍していた者たちの大半は帝国内各地の地方貴族の当主や子弟たち。長引けば国土の統治にまで支障がでる。


 最終的に、結構な広さの領土がウェスト王国に割譲されることになった。


 そして、その新領土の代官に任命されたのが――俺だった。


 


 


 


 ――なぜだ! なぜ俺なんだ!


 


 抗議の意思を込めて、その決定を伝えてきた変態王太子をにらむのだが、涼しい顔をしながらのたまう。


 


「今回の大勝利の最大の功労者はお前なんだから、適任者はお前しかいないだろう」


「いやいや、王国の貴族でもなく、官吏でもない俺が代官を務めること自体がおかしいだろう?」


「それを言うなら、そもそもこの戦争はどこぞのだれぞが珍妙な理屈をとある国の姫君に吹き込んだのが発端ではなかったか。その責任を最後まで(まっと)うするのがそなたの義務であろう」


「ぐぬぬぬ……」


 

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