04
その後は、とくに紛糾することもなく、無事に会議は終わった。
終わった途端、ミレッタ王女のもとへ数人の男たちが集まって来る。それぞれにワインの入ったグラスを片手に、きざったらしい仕草を見せつけながら、ささやいてくる。
――ああ、なんと麗しい。
――この世のものとは到底おもえないほどのお美しさ。
――あなたとこの同じ時間・部屋を共有できたことを神に感謝いたします。
それらへ、
「あら? お口がお上手ね。もっとも、そのようなお言葉は皆様からよく言われてすでに聞き飽きていますけど」
「もちろん、その通りですわ。私以上に美しい女なんて、この世界にはいませんもの」
「きっと魔神さまがアナタに天罰をくだしますわよ」
などと受け答えするのだった。
それらの言葉をかけられた男たち、胸を抑え、幸福そうに笑いながら、その場で身もだえしている。
「キモッ!」
まとわり寄ってくる男たちを適当にあしらい、追い払ったミレッタ王女は、会議室の中を見回した。
さっきまでの会議に参加していたメンバーは三々五々あちこちに集まり、会議終了と同時に運びこまれてきたワインや軽食をつまみながら、歓談している。
「お兄様はどこかしら?」
キョロキョロ見回していると、マールがやってきて、声をかける。
「王女殿下、お久しぶりでございます。見たところ、すっかりお元気になられたようで、お喜びもうしあげます。療養の方、上手くいっているようですね」
「ええ。聖女の職を離れて、離宮でのんびりさせてもらっていますわ」
「本当に、お美しくなられて。このマール、先ほどから視線を吸い寄せられてしまってばかりでございます」
「あら、そう」
「まさに女神。神話の世界から舞い降りてこられた我らの美の女神。この日この場所で、あなたのような……」
なにやら、賛美の言葉を言い募ろうとしたのだが、その前に、ミレッタは少し離れた場所にユリウス王子の姿を見つけていた。
「あ、お兄様。お兄様」
そして、欲望に目をぎらつかせたマールをその場に残して、ユリウスのもとへ去って行こうとうする。
だが、その腕をマールはつかむのだった。
「どこへ行かれるのです。私の女神様。あなたの賛美者、崇拝者マールはここにいますよ」
「ちょ、離してよ」
「あなたは、私のそばにいるべきです。その麗しいお口でもっと私とお話ししましょう」
強引に自分の方へミレッタの体を向けようとする。もちろん、ミレッタはそれを拒否し、なんとかふりほどき、急いでユリウスの方へ向かおうとしているのだが、存外マールの力は強く、すぐには振りほどけないようだ。
さすがは将軍と呼ばれ、国軍を預かる軍務大臣というところか。
「ちょっと、しつこいわよ。放しなさいよ」
「いいえ、放しません。あなたはもっと私とここにいるべきです」
「なに言ってんのよ。私がどこにいようが、あなたに命令される覚えはないわ」
「そんなことはありません。なぜなら、あなたこそが、私の妻にふさわしい唯一のお人なのですから」
「……はぁ?」
思わず腹から低い声が出ていた。
そんなことを意に介すこともなく、マールはなおもミレッタに強引に迫る。
だが、ミレッタが腕を持ち上げ、マールの顔の先で指をパチンと鳴らした途端、マールはその場で固まってしまった。
ミレッタは悠々とマールの拘束から逃げ出していく。
と、入れ替わるように、ドナルドがマールに近寄ってきて、声をかけてきた。
「マール、さっきの件だが――」
その途端、マールの止まっていた時間が動き出した。
目の前に立っている人物の腕を強引につかみ、自分の方へ抱き寄せる。そして、高揚した声で耳元へささやくのだった。
「さあ、ここで口づけを交わしましょう! あなたは私の妻となるのです!」
そのまま、相手のあごに手を添えて持ち上げ、ぶちゅっと――