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 全軍の注目が集まる中、馬に乗ったカールが二台の台車に並んで立つ。


 巧みに馬を操って、自分の軍に向かい合う。


 満足そうに自分の指揮下にある大軍を見回し、しわぶき一つなく静かに整然と待機している姿に笑みを浮かべた。一つ頷くと、腹の底から声を張り上げる。


 


『かつてこれほど強大で、強力な軍を指揮した王や皇帝がいただろうか。いや、いない! ワシが最初にして、最後。そして、最強だ。ゆえに、ワシこそがこのヨックォ・ハルマ全土を支配するにふさわしい覇者だ!


 これから新しい伝説が始まる!


 歴史上初めてヨックォ・ハルマを統一し、全土を掌握する大皇帝の誕生だ! 皆の者、よく見ておけ! 新しい伝説の幕開けを飾る華々しい号砲を!』


 


 全軍の兵士たちがその場で熱狂的に足踏みし、その振動でまるで地震が起きたかのように視界が二重にブレる。


 そんな中で、軍に背を向け、砦の方角へ向き直ったカールが右腕を上げた。途端に、全軍が起こしていた足踏みがピタリと止まる。再び静けさがあたりに広がった。


 そして――


 


撃て(ファイヤ)!』


 


 振り下ろされたカールの右腕に合わせて、二台めの台車の上の操作パネルのスイッチが入れられた。


 一斉に回路がつながり、それぞれの魔道具に大量の魔力が流れ込む。


 千以上の数の魔道具は完全に同期されており、一斉に流れ込んできた魔力によって同時に魔法が発動した。


 それぞれの魔道具から数歩離れた場所に無数の火の球が生まれた。


 それらの火はもう一台の台車の上空へ向けてゆっくりと移動しながらも次第に膨らみ、一つ一つの境界がなくなり、やがて合体して一つにまとまる。ついに家ほどの大きさの巨大なファイヤーボールが誕生した。


 その巨大なファイヤーボールは、しだいに加速しながら魔法陣が置かれている台車の上空に差し掛かる。


 次の瞬間、その時点でもすでに誰も見たこともないほど巨大だったファイヤーボールがさらに膨らんだ。宮殿並みの大きさだ。少し離れたところにいるカールにもファイヤーボールから発せられる熱が感じられる。


 そして、


 


 ブワンッ!


 


 腹に響くような大きな音がした途端、その超巨大なファイヤーボールが飛び出していったのだ。


 一直線に砦に向かって。


 一呼吸後、


 


 ボワーン!


 


 カールが見つめる先、砦は丸ごと炎に包まれ、炎上した。


 巨大ファイヤーボールの直撃を受け、すぐに炎で真っ赤に染まった外壁はところどころ溶け落ちはじめる。城壁の上に並べられていた木製の盾も一瞬で蒸発した。


 砦の中の木製の可燃物が燃えているのじゃない。あれは砦そのものが燃えている。砦を作る石やレンガ自体が高温に包まれ燃え上がっている。


 誰の目に明らかだった。


 今この瞬間、あの砦の中に人がいたなら、一瞬で燃え尽きた違いなく。だれも助からなかったに違いないと。


 一部始終を目撃していたカナーガッファ軍の兵士たちは、口をあんぐり開けたまま、焼け落ちていく砦を見つめていた。


 だれもなにも口にせず、何一つ身動きもできない。


 ただ、その目の前の信じがたい光景を見守るだけだった。


 心の底から今あの砦の中にいたのが、自分たち自身でなかったことに神への感謝をささげていた。


 


 そうして、ただの一撃で国境沿いに築かれた堅固な砦は落ちたのだった。


 


 


 


 カールも最初のうちは呆然とその光景を見つめることしかできなかった。予想以上の光景だった。だが、すぐに異変を感じて別の場所に目を向けることになる。


 視線の先、二台の台車が見える。


 さっきファイヤーボールを撃ち込んだばかりの台車だ。


 前方の台車は飛んできた大きな岩がぶつかったかのように粉々に壊れてしまっている。どうやら魔法の威力を高める魔法陣が描かれた石板が爆発したようだ。乗っていた宮廷魔導士たちは四方に弾き飛ばされて地面にたたきつけられ、うめいている。


 一方で、後方の台車は全体が炎に包まれ燃え盛っている最中だった。操作パネルを担当していた兵士は慌てて飛び降りたようだが、周りで待機していた兵士たちに体についた火を消してもらわなければ、そのまま焼け死んでいたことだろう。


 いずれにせよ、今回の攻撃に用いた魔法陣も千以上の魔道具も、もう二度と使えないのは確かだ。


 だが、カールは腕組みしながら、満足そうに一人うなずくのだった。


 


 ――魔法陣も魔道具も、もう一セットある。次は敵のこもる王都城門を焼き払ってやるわ! そして、わが軍は堂々とその焼け落ちた城門から中へ乗り込み、王都を制圧し、ウェスト王国全土を我が掌中(しょうちゅう)のものとするだろう。


 


 笑みがこみあげてくるのを抑えることができなかった。


 


 

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