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 カナーガッファ帝国皇帝カール三世は執務室にこもって、矢継ぎ早に指示を出していた。


 


 以前から南のウェスト王国を仮想敵にして、軍備の増強を図っており、王家同士の政略結婚を通じて、すでにウェスト王国周辺の国々と同盟関係を結ぶのに成功している。


 準備は万全に整っている。


 あとは、実際に侵略軍を起こすための大義名分を手に入れるだけだった。


 そのタイミングで起こったのがウェスト王国国王の弟ドナルドの反乱だった。もちろん、ずっと反乱を起こすようにそそのかしたり、資金提供をしたりしてきた。つまり、この反乱は今まで行ってきた様々な裏工作の成果だといえる。


 そして、この反乱はウェスト王国の実力者である王弟の反乱だ。簡単に収束するとは思われないし、かなりの確率で国を二分する事態になるだろう。そして、反乱を起こした王弟ドナルドの娘は、皇帝の息子第三王子の婚約者。カナーガッファ帝国がウェスト王国の内乱に介入する理由としては十分なはずだった。そのまま、ウェスト王国の王都にカナーガッファ軍を駐留させて、内乱で弱体化したウェスト王国全土を支配することさえ可能だろう。


 そうなれば、カナーガッファ史上最大の領土を手に入れた皇帝となり、ヨックォ・ハルマ中に大帝カールの名が響きわたることになる。


 ドナルドの反乱の一報がとどいたとき、カールは大いに心躍らせ、未来の盛名(せいめい)に思いをはせたものだった。


 なのに、実際に起きた反乱は一晩で鎮圧されてしまった。しかも、ドナルドは天から遣わされた聖鳥によって(ころ)されたともいう。


 これまで講じてきた策がすべて水泡(すいほう)()したかと思われたのだ。


 だが、どうやら天はカールの味方であったようだ。


 ウェスト王国の王都内に張り巡らせたスパイたちが、面白い話を拾ってきたのだ。


 先の反乱で王弟ドナルドの命を奪ったのは、天から遣わされた聖鳥ではなく、禍々しいオーラをまとう妖鳥だったというのだ。


 それが事実であったとしたら、ウェスト王国の現王の正統性はなくなる。


 カールはさっそく証拠集めを命じた。


 そして、スパイたちが連れてきたのが、王宮の下働きの男だった。


 


 


 


 実際のところ、カールにとってはその下働きの男が持ち込んできた羽根が本物か偽物かはどちらでもよかった。


 ウェスト王国へ軍を派遣できるだけの口実が欲しかっただけなのだから。


 カールが即位してから長年行ってきた軍備の増強の結果、カナーガッファ帝国軍はヨックォ・ハルマ最強と呼んでも差し支えないほどに成長している。軍をウェスト王国へ向けて動かし、そのまま迎え撃つウェスト王国軍と戦闘になったとしても、大した戦死者を出すこともなく圧勝できるのは確実だろう。


 とはいえ、戦争に勝利し、ウェスト王国領を掌中(しょうちゅう)に収めたとしても、今度はその地を統治する必要がある。


 軍事力に任せて占領したとしても、ウェスト王国の国民は納得せず、粘り強く抵抗してくるのは目に見えている。


 そうなると、歯向かう民衆を虐殺せざるをえず、せっかく手に入れた領地の生産性を大きく損なうことになる。占領地からの収入が大きく減り、占領にかかった戦費や軍を駐屯させておく費用が国庫から丸々持ち出しになってしまう。わざわざ軍を動かしてウェスト王国領を手に入れた意味がなくなってしまう。あきらかに、それは愚策だ。


 占領地の民衆が不承不承(ふしょうぶしょう)でも構わないからカールの統治を受け入れ、抵抗させないようにする大義名分が必要だ。


 そして、まさにその大義名分が向こうから転がり込んできたのだ。


 


 そう、ウェスト王国の王家は天ではなく魔によって守られたと。まったく正統性のないものだと。


 


 あとは、このことをウェスト王国内外に広め、出兵の大義名分にするだけなのだ。


 


 


 

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