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 こうして王弟ドナルドの反乱は終息した。


 表面的には権力闘争とは無縁の仲の良い関係を演じてきた王族たちだが、その裏では様々な権謀術策(けんぼうじゅっさく)うごめく暗闇の世界が広がっている。それを垣間(かいま)見せた反乱だった。


 人々はそのことにしばらくの間ショックを受けていた。


 それでも、今回の騒動の元凶である王弟ドナルドはすでに死去している。これで、ここウェスト王国にも以前のような平穏で平和な日々が流れるようになるものとだれもが思っていたものだ。


 だが、そうはならなかった。


 


 


 


 きっかけは些細(ささい)なことだった。


 あの日、謁見(えっけん)の間で王弟ドナルドの最期(さいご)に立ち会った一人の近衛騎士がうっかりあの場のことを話してしまったのが発端(ほったん)だった。


 その日、近衛騎士の親友が騎士の妹と結婚式を挙げた。二人は以前から恋仲で仲間たちはみなお似合いだと噂し、婚約が発表されてからも式が行われる日をみな待ちわびていたものだ。


 式のその日、幸福そうな二人を眺めながら、騎士自身も幸福な気分にひたっていた。


 そして、式の後も、幸福な気分をもっと味わっていたいと仲間たちとともに近所の酒場へ繰り出したのだ。騎士も仲間たちも新郎新婦たちの門出を祝福して、大いに飲み騒いでいた。


 そんな中で、だれからともなく、自分たちの住まうこの国がいかに偉大であり、国王は慈愛と尊厳に満ち、またこの国を治める宰相がいかに聡明でつねに機敏で賢明な判断のできる人物かという話を(さかな)に酒を()み交わしはじめた。そして、そんなエピソードの一つとして、例の謁見の間での出来事を仲間たちに話してしまったのだ。


 宰相の機転に感動し、心酔(しんすい)を深めていた近衛騎士。幸福の絶頂の中で、ついついかん口令のしかれた極秘話まで披露してしまったのは、仕方のないことだったのかもしれない。


 もちろん、その場で騎士の話を聞いていたのは、幼いころからお互いによく知っている気心の知れた幼馴染(おさななじ)みたちばかり、近衛騎士から耳にしたような極秘の内輪話をやたらと言いふらすような者たちではない。


 だが、場所が場所だった。


 よりにもよって、そこは酒場だった。近所の者たちだけでなく、様々な者が出入りしている。しかも、騎士たちは酒場へやってくる前の披露宴ですでに酒が入っていて、話す声も大きくなっている。


 彼らが内輪話に花を咲かせたつもりでも、店員にも他の席の客たちにも内容は筒抜けだった。


 千鳥足で騎士たちが店を出た直後に、近くの席で飲んでいた客のひとりが急ぎ足でいずこかへと去っていった。


 


 


 


 半月後、ウェスト王国の北隣カナーガッファ帝国の帝都にある政庁に、ウェスト王国から派遣されていた駐在大使が呼び出された。その大使が面会した帝国の外交をつかさどる大臣から突き付けられたものは、大きく真っ黒な羽根だった。羽根からは禍々しい気配が漂ってきており、明らかに魔に属するもの。


 


「これは、一体?」


 


 戸惑う大使に外務大臣が厳しい視線を向けながら詰問する。


 


「なに? とぼけられるおつもりか? このとおりすでに真相は露見しているのですぞ!」


 


 とはいえ、大使にとっては寝耳に水の話。なんことか見当もつかない


 


「して、その真相とは?」


「あくまでもシラを切るおつもりか! ならばそちらの王家が行った不正の真相をこれから暴いて見せましょうぞ!」


 


 そうして、外務大臣が語ったのが、先日ウェスト王国で起こった王弟の反乱に際して、王弟ドナルドのとどめを刺したのは、王国の公式発表のような天からの使い鳥・天空の聖鳥テュムバリスなどではなく、この黒い羽根をもつ妖鳥だったというものだった。


 


「この羽は、その時に謁見の間で採取されたもの。もはや言い逃れはできないものと、観念なされよ!」


「し、しかし、そのようなことは絶対にありえないことです。なにかの間違いではないのですか?」


「いいや、間違いなどではない。その羽を我が国に持ち込んだ者は、身元確かな者であり、嘘をつくようなものではない。その者が『あの日、謁見の間に飛び込んできたのは真っ黒な妖鳥だ』と申す以上、間違いなくそうに違いない! しかも、この通り証拠もある」


「ありえないことです。あの日、我が王家を守るために飛び込んできたのは、天空の聖鳥テュムバリスに間違いがないのです!」


「あくまでも、そのような嘘を申すか! だが、もし、このことが事実であるなら、ウェスト王国の王権は天ではなく魔によって守られものということになる。魔に守られた現王権には正統性などない!」


「ぶ、無礼ですぞ!」


「どう釈明なさるおつもりか?」


「そのようなことは断じてござらぬ!」


「では、この羽根は?」


「それは……」


 


 結局、その日は、言い争いに近い押問答の末、結論は出ず、大使は政庁を辞すことになった。


 


 


 


 たちまち、帝都のウェスト王国大使館の動きが慌ただしくなる。何度も早馬がウェスト王国の王宮との間を往復し、情報交換が行われる。


 だが、数日のうちに事態はさらに進み、ウェスト王国を囲むほかの国々、西隣のフォッドギア王国や南隣のイーソゴ王国、それに南西のサウス王国に派遣されていた大使からも、それぞれの国の大臣たちから同様に詰問を受けたことが報告されてきた。


 つまり、周辺の国々は一斉にウェスト王国の王権の正統性に疑義を挟んできたのだ。


 王宮内でも調査が行われ、カナーガッファ帝国に黒い羽根を持ち込んだ人物の特定がなされた。


 その結果、王宮で下働きをしていた男で、事件翌日に謁見の間での清掃作業をおこなった者がひとり行方不明になっていることが判明した。その者はギャンブルにのめりこんでおり、少し前まで多額の借金を抱えていたのだが、行方不明になる直前、それらの借金をきれいに清算し終え、いずこかへと姿をくらましたという。


 


「つまり、カナーガッファは金でその者を買収し、羽根を手に入れたというわけか」


「おそらくは」


 


 報告を受けた宰相は天を仰いだ。そして、急ぎ王宮の奥、王家の宝物が保管されている宝庫から聖鳥の羽根と伝わる宝物を取り寄せ、それを王都駐在の各国の大使たちに披露した。


 もちろん、大使たちは本国からの命を受けており、宰相の説明に納得することはない。その羽根は偽物だと言うばかりで、ウェスト王国側の言い分にまったく聞く耳を貸そうとはしなかった。


 もちろん、宰相の方も手をこまねいているわけではなく、中央神殿から聖女たちを呼び寄せて、その手元にある羽根が本物であることを証言させたりもしたのだが、大使たちは(かたく)なにその証明を受け入れようとはしなかった。


 


 


 

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