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 謁見の間では、玉座に追い詰められたドナルドたちが近衛騎士たちと対峙(たいじ)している。


 近衛騎士たちは大盾を構え、ドナルドたちの周囲を固めている。


 


「王弟殿下、もう投降されよ! これ以上の抵抗は無益ですぞ!」


「ええい、黙れ! わしこそがこの国の(あるじ)! この国の王だ! たとえ宰相といえど、命令されるいわれはないわ!」


「いいえ、あなたはただの王弟殿下です。この国の王はあなたの兄であるヨーゼフ陛下です」


「ええい、黙れ、黙れ!」


 


 自分が国王であることをこの場にいるだれも認めないことに、ドナルドは気が付いた。そして、自分をとらえようとしている騎士たちの気迫に圧され、思わず数歩後ろへ下がろうとした。だが、すぐ背後には玉座。足をもつれさせ、玉座に座り込んだ。それでも、あくまでも抵抗の姿勢は崩すことはない。


 とはいえ、ドナルドを守る近衛騎士団長が剣の達人だとしても、すでに逃げ出せる隙が無いようにびっしりと大盾で囲われてしまっている。あとは、宰相の命令一下(いっか)、盾を構えた近衛騎士たちが殺到するだけで、もう身動きが取れなくなってしまうのは、自明だ。誰の目にもすでに勝敗は決しているも同然だった。


 最後の説得が失敗に終わり、宰相はしかたないというように首を振る。そして、最後の合図を送るために、片手をあげた。あとは振り下ろすだけ。


 その瞬間だった。


 


 ガシャーン!


 


 突然、謁見の間の奥にしつらえられているステンドグラスの窓が粉々にはじけた。


 その場にいた全員が(きょ)を突かれて、驚きながら砕け散ったステンドグラスの窓の方を見上げる。


 その視線の先、真っ黒な巨大な影が謁見の間の中へ飛び込んできたのが見える。


 


 ドッシーーーーン!


 


 直後には大きな地響きを立てながら、その巨体が玉座のすぐそばに降り立つ。何人かの近衛騎士たちがその巻き添えをくらい、弾き飛ばされる。幸い盾を構えていたおかげで直撃は免れ、大きな怪我につながることはなかった。


 


「キェェェェェーーーー!!」


 


 謁見の間に降り立った黒い影は、耳をつんざくような奇声を上げて、巨大な翼を広げた。


 


「な、何事だ!」


 


 謁見の間にいた全員が突然の出来事に声を失っていた。だれも身動き一つできない。そんな中で、その黒い影は赤く光る眼を玉座に座る人物に向けた。狙いを定め、鋭い牙の並んだくちばしを大きく開き――


 


「ぐわぁぁぁぁ~~~~!!!!」


 


 呆けたように玉座に腰掛け、その黒い影の行動を見上げているばかりだった王冠を頭に載せた人物は、身の毛のよだつような断末魔を上げた。そう今回の反乱の首謀者である王弟ドナルドはこうして息絶えた。生まれた時の神託に示されたように、王冠を頭に戴き、玉座に腰掛けながら。


 


 


 


「キェェェェェーーーー!!」


 


 黒い影はくちばしを血まみれにしながら、再び奇声を発した。直後に漆黒の翼を広げ、力いっぱいに羽ばたく。


 謁見の間の中を突風が吹き荒れ、近くにあったすべてのものを吹き飛ばす。


 その場にいた全員が腕で顔を押さえ、風から身を守っている。なんとか状況を見極めようと、突風の吹いてくる先を見つめる。そんな中で、黒い影は宙へ浮かびあがった。さらに何度かその場で羽ばたき、突風をたたきつけた後、再び砕け散ったステンドグラスの窓から夜空へと飛び上がり、夜陰の中へ溶け込むのだった。


 黒い影が飛び去ったあとの謁見の間は、時ならぬ嵐が吹き去ったかのように荒れ果てていた。


 その場に残っていたものはみな呆然自失の(てい)だった。


 だが、唐突に声が上がった。


 


「おおっ! 天空の聖鳥テュムバリスがその白き翼を羽ばたかせて、舞い降り、()しき簒奪者(さんだつしゃ)()らしめられたぞ! おおっ!」


 


 その場にいた誰もが、その声の(ぬし)・宰相を戸惑った顔をして見つめていた。


 誰の目にも、今飛び込んできて、謁見の間を無茶苦茶に荒らし、王弟ドナルドの命を奪っていったものは、全身から禍々(まがまが)しい気配を(はな)妖鳥(ようちょう)にしか見えなかった。それになにより、宰相が言ったような真っ白な翼をもった鳥ではなく、すべての光を飲み込むような真っ黒な翼をもつ存在。完全に真逆の存在。


 だれもが『一体、この人は何を言っているのだ』という呆れたような目をして宰相をうかがっていた。


 だが、当の宰相は、自分がついさっき口にしたことが事実であるかのように、再び同じ内容の言葉を口にする。


 


「純白の聖鳥テュムバリスが天から(つか)わされ、この反乱を(しず)められた。王権の正統性がいずこにあるか示された!」


 


 その声を耳にし、ようやく周囲の近衛騎士たちにも、宰相が言わんとすることを理解できたようだ。


 


「お、おお! 天よ! 我らが王に、この国に神のご加護を!」


 


 理解したものから順に口々に天へ向かって叫び声をあげるのだった。


 


 


 


 誰に目にもわかる。この反乱に『けり』をつけたのはあの妖鳥の襲撃だった。


 妖鳥の襲撃で首謀者である王弟ドナルドの息の根を止め、この反乱が鎮圧されたと。


 だが、もしこの出来事をありのまま公けにしたらどうなるであろうか?


 王権の簒奪をもくろんだ王弟ドナルドを禍々(まがまが)しい妖鳥が襲って反乱を終わらせたのだ。


 つまり、王権を守ったのは魔に属するもの。そんなものが守る王権に誰が正統性を見出すことができるだろうか?


 むしろ、そんな魔に守られた王権を打倒しようとし、王権を掌握(しょうあく)しかけた王弟ドナルドの方に正統性があるのではないだろうか?


 この謁見の間で反乱の終息に立ち会った者たち、近衛騎士たちの誰も、王権の正統性に疑いを持つことはないだろう。明らかに邪悪な行動をとったのは王弟ドナルドの方だと知っているのだから。だが、世間の人々はどうであろうか?


 ドナルドの死の真相を知った時に、どれだけ信じられるだろうか? 王権の正統性に疑義をもつことはないだろうか?


 疑問を持たせないためには、最後の襲撃は妖鳥の仕業ではなく、むしろ天から遣わされた聖鳥によってなされたことにした方がいいに違いないだろう。


 事実をねじまげなければならない。黒を白に言いくるめなければならない。


 でないと、王権の正統性にキズがつく。


 


 あの一瞬で真っ先にそんな判断をし、宰相は叫んだのだ。


 宰相の後を追うようにして、近衛騎士たちも同じ判断をした。そして、天に感謝と祈りの言葉を向けたのだ。


 一方で、彼らは宰相の後を追うように天へ祈りの言葉を投げながら、どこか誇らしいものを感じていた。


 この一瞬、彼らは思考停止に陥り、ただただ去っていく妖鳥を呆けて見送っていただけだというのに、我らの宰相殿は何手も先を読み、真っ先に最善手を打ってみせたのだから。


 宰相の有能さに感じ入り、その思考の鋭さに誰も舌を巻きながら、そんな宰相の下で王家に仕えることに限りないほどの誇りをかみしめていた。


 そして、より一層力強い声で祈りの言葉を繰り返すのだった。


 


「天よ! 我らが王に、この国に神のご加護を!」


 


 


 


 

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