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「うまくいきましたね。さっそくドナルド殿下の逮捕を外の連中にも知らせてやりましょう。それですぐにでも今回の反乱はおさまりましょう」


「ああ、頼む。わしは殿下を牢へお連れ申す」


「うむ」


 


 その間も、王宮内に突入してきたドナルドの私兵たちが姿を変える魔道具で調度品に化けていた近衛騎士たちによって王宮内のあちこちで取り押さえられたという報告が続々ととどいてきていた。


 王都の外では、反乱に加わったものと思われていた第三軍団が第一軍団の背後に布陣し、戦闘態勢をとったために、第一軍団内で混乱が生じていた。状況の不利を見て取ったその指揮官たちは逃亡を図ったが、大部分は取り押さえられたと報告がきている。


 あとは東門側の第二軍団だが、宰相が言ったようにこの後ドナルド逮捕の一報がもたらされると、反乱を指揮したマールの部下たちは投降し、この反乱は終結するのだった。


 


 国王襲撃に失敗し、うちしおれた様子でドナルドが近衛騎士団団長に腕をとられ、部屋の外へ連れ出されようとしている。それを横目で眺めながら、


 


「うまくひっかかりましたな、殿下」


「ああ、あやつの言った通りになったな」


「殿下が最近耳をかんだ男ですね」


「そうだ。ミレッタの従者をやりながら、スミス商会を率いておる」


「なかなかよき男を見つけられましたな。私も今度会ってみたいものです。次の面会のときにでも同席させていただけますかな?」


「ああ、かまわんさ。義父(ちち)上ならいつでも大歓迎だ。妃も喜ぶであろう」


 


 二人の男たちは笑顔を浮かべて話あっている。ふたりとも晴れ晴れとした顔だ。まあ、このところの懸案(けんあん)事項だったものが一挙に解決したのだから、当然か。


 ヘンリーは宰相の耳についている歯形を眺めながら、宰相とロジャー・スミスが対面すればなにが起こるであろうかと想像していた。


 その視線に気が付いたのか、宰相は歯形の痕を指でなぞる。


 その姿を眺めながら、ヘンリーはふとあることに気が付いた。早速、その疑問の答えを持っているはずの自分の父親の国王に尋ねた。


 


「父上、そういえば、叔父上も王族の一員ですよね」


「ああ、もちろんそうだ」


 


 国王は今さらなにを当たり前なことをきくのかと怪訝(けげん)そうにしている。


 


「あいにく私は把握していないのですが、叔父上も王族の一員として、なんらかの神託のスキルを与えられているのではないですか?」


「ああ、そうか、そなたは知らないのであったな。ドナルドの神託のスキルを。うむ。そういえば、わしも、もうずい分長い間あやつが神託スキルを用いているところを見ていないな」


「やはり、なにかのスキルをもっているのですね」


「ああ、ドナルドのスキルは子供のころに何度か見た覚えがある。たしか、自分が触っている者の心を強制的に操るものだったはずだ」


「……えっ?」


 


 ギョッとしてドナルドの方を見る。


 ちょうど、ドナルドは近衛騎士団団長に腕をとられて、部屋の外へ引き出されようとしているところだった。


 


「団長、その場を離れるんだ!」


 


 だが、その警告の声は一足遅かった。


 抵抗しないようにドナルドの腕を押さえていた団長は、だれかに操られでもしたかのように目から光が消えうせ、腰から自分の剣を引き抜くのだった。そして、あろうことか、ドナルドを背後に守るようにして、国王たちへ剣先を向ける。


 


「近衛騎士たち、陛下を、国王陛下をお守りいたすのだ! 騎士団長は王弟の神託スキルによって心が操られているんだ!」


 


 何が起きているのか理解できていなかった近衛騎士たちは、ヘンリーのとっさの一声で国王を守るように、集まる。


 


 さすがに、多勢に無勢。剣の達人とはいえ、近衛騎士たちが束になったなら、騎士団長一人の力でどうにかできるわけではない。しかも、ドナルドの身柄を守りながらならなおさらだ。


 結局、騎士団長の選択は剣を振り回してけん制しつつ、ドナルドを連れて逃走することだけだった。


 


「お、追え! なんとしても、逆賊ドナルドを捕まえるのだ!」


「「「はっ!」」」


 


 近衛騎士たちは、逃げていくドナルドたちを追いかける。もちろん、そのすぐあとをヘンリーたちも後を追う。


 


「父上、叔父上のスキルはどのようなものなのですか? もっと詳しく教えてください」


「うむ。触れた者の心を操るものだったが、いくつか難点があって、あやつは滅多なことでは使わないようにしておったの」


「その難点とは?」


「まず、スキルが発動する対象は一度に一人しか効果を発揮しない。それに、短時間しか効果がつづかないし、一度発動させてしまうと、次に発動できるようになるには、丸一日のクールダウン期間が必要になってくる。それでも使い方によっては極めて有用だから、あやつは普段からほとんど使ったりしないようにはしておったの」


「な、なるほど……」


「いずれにせよ、騎士団長の呪縛もそのうち解けるじゃろうて」


 


 ヘンリーと国王の会話に耳を傾けていた宰相はさっそくかたわらにいた側近に命令を伝えている。


 


「ドナルドたちが逃げていく先に先回りして、その場にいる近衛騎士たちに、騎士団長がドナルドに操られていることと、騎士団長から命令があったとしても、指示には従わないように伝令せよ」


「「「はっ!」」」


 


 ドナルドをつれて逃げているため近衛騎士団長の逃走速度はさほど高くはない。そのため、追手の近衛騎士たちに追いつかれる。そのたびに、剣を振るって、けん制するものだから、ますます遅くなる。その間に、宰相は行く先にあるいくつかの扉の鍵をかけさせていた。そして、追手の近衛騎士たちに命じて、巧妙にドナルドたちを謁見(えっけん)の間へと誘導していく。


 


「人一人しか通れない狭い通路に逃げ込まれて、剣の達人の騎士団長が立ちふさがりでもしたら、容易に近寄ることすらも難しくなります。広い場所に追い込んで、大人数で四方から囲めば、騎士団長といえども守りきることは至難になります」


「なるほど」


 


 ほどなく、宰相の思惑(おもわく)の通り、ドナルドたちは謁見の間へ飛び込んでいった。


 


 


 

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