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 とりあえずの方針が決まり、ヘンリーたちはそれぞれがそれぞれの役割を果たそうと部屋を出ようとしたときだった。


 唐突に、廊下の奥からカチャカチャと鎧が触れ合う音を響かせながら、完全武装した兵士たちがかけてきた。


 兵士たちは、剣を抜き放ち『どけっ! 道を開けろ』とわめきながら、国王たちがいる部屋へ向けて突き進んでくる。


 たまたま廊下にいた何人かの文官たちは彼らの前に立ちはだかるのも忘れて、呆然と見送るしかなかった。


 もっともそのおかげで、兵士たちとすれ違った文官たちに危害が加えられることはなかった。


 殺到してくる兵士たちは、抜身の剣を掲げながら、廊下にもあふれている調度品の間を()って迫ってくる。


 それに対峙するように部屋の入口で近衛騎士団団長が剣を構えて立ちふさがった。


 


「貴様ら何者だ! ここは王宮なるぞ! なんの狼藉(ろうぜき)ぞ!」


 


 立ちはだかった近衛騎士団団長の気迫に()されたのか、十人はいる闖入(ちんにゅう)者たち、その場でたじろぐ。相手は鎧を身に着けておらず、剣一本だけを構えた平服の近衛騎士団長。なのに、その場にとどまり、だれひとり切りかかろうとはしない。


 


「なにをしておる! 相手は剣だけだぞ! 鎧を身に着けていないのだぞ! それに引きかえ、お前らは完全武装しているのだぞ!」


 


 部屋の中のドナルドが大声をだしたのは、その闖入者たちに向けてだった。


 闖入者たちは軍所属の正規軍の兵士ではない。武装そのものは正規軍と同じものだが、その胸に掲げられている紋章は――王弟ドナルドの紋章。ドナルドの私兵だ。


 


「ドナルド、これはどういうことだ? どういうつもりだ?」


「ふん、知れたこと! 今回の反乱は、俺様が影の黒幕ってやつさ」


「な、なんだとっ! どうして、このような?」


 


 棒読みのセリフをお互い並べあいながら、国王とドナルドがにらみ合う。そして、ドナルドが国王にとびかかり、隠し持っていた短剣をその喉元(のどもと)へ押しあてた。


 


「全員動くな! すこしでも動くと兄上の命はないぞ!」


「ドナルド、な、なにをする!」


「兄上、そろそろ退位の頃合いですぞ。ささ、その王冠と錫杖(しゃくじょう)をこちらへ」


「な、なにっ!?」


 


 ドナルドは短剣を握っていない方の手で、国王が身に着けていた王冠と握っていた王権を象徴する錫杖を奪い、そのマントと一緒に自身の身につけた。


 


「フハハハ これで、ついに我は国王だぞ! いいや、本来は我こそが国王にふさわしい存在なのだ。それを兄上が幼長(ようちょう)(ことわり)とかいうくだらない伝統を持ち出して簒奪(さんだつ)していただけに過ぎない。この今の姿こそが、この国の本来のあるべき姿だ! ようやく、本来あるべき形に戻っただけにすぎぬ。フハハハハ」


 


 ドナルドは高らかに笑いながら、部屋の中を見回すのだった。完全勝利だ!


 城外でマールの配下の軍団に反乱を起こさせ、それへの対応で混乱している隙に自分の私兵を王宮内へ潜入させ、国王をはじめこの国の主要人物たちを制圧し、乗っ取ったのだ。クーデターは完全な成功のはずなのだ。


 だが、そんな完全勝利に酔いしれているはずのドナルドは、さっきから違和感を禁じえなかったのだ。ふと見回してみると、最初からこの部屋にいた人々のうち、だれ一人驚いているようにはみえないし、恐怖でおびえているようにもみえない。むしろ、宰相やヘンリーをはじめ、ドナルドを見つめる目には(あわれ)みの色さえあるように見える。


 


 一瞬、困惑したようだが、すぐにそれを振り払うように部屋の外の自分の私兵たちに命じる。


 


「中にいる者どもを取り押さえよ」


「ハッ」


 


 国王を押さえられて、観念したのか、近衛騎士団団長はすでに構えていた剣を降ろして力を抜いている。


 ドナルドの私兵たちは、まずは一番近くにいた近衛騎士団団長のもとへ迫り、その剣を奪い、身柄を拘束しようと――


 


 ――カキンッ


 


 一番手前にいた兵士が団長が振り上げた剣にはね上げられた。もっとも鎧を着ているので、まったくの無傷だったが、それでもその衝撃はすさまじく、後方へ跳ね飛ばされていた。


 


「な、なにをする! 兄上の命、我が掌中(しょうちゅう)あることを忘れたか!」


 


 ドナルドは改めて国王の喉元に()している短剣に力を込めた。


 それを横目でチラリと眺め、団長は息を吐く。


 


「フッ! よしっ、かかれ!」


 


 団長の合図に呼応するように、部屋のあちこちから了解の声があがる。


 次の瞬間、どこからともなく現れた完全武装の近衛騎士たちがドナルドにとびかかり、あっという間にその身柄を押さえこんでいた。


 


「なっ、ど、どういうことだ!」


 


 廊下の方でもドナルドの私兵たちを近衛騎士たちが組み敷いていて、抵抗できないようにしている。


 


「ど、どこから現れた! は、離せ! これをみよ! 我は、我はこの国の国王なるぞ!」


 


 ドナルドが無駄な抵抗を試みるが、誰一人そのいうことに耳を傾ける者はいない。


 


「あ、兄上、これは、これはどういうことです!」


 


 一番近くにいて、目が合った国王に説明を求めた。国王はただ気まずげに視線を()らすだけだった。


 


 


 

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