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「大盛況だな、ターレ」
「おかげさまで。ウェスト王国中の企業という企業から注文が舞い込んでいて、工場で頑張ってもらっているトドロキともども大忙しでございます」
「うむ、苦労をかける」
「なんの、なんの。むしろ、我々としても大喜びでございます。陛下(仮)」
ターレは白い歯を見せて笑っていた。
「おかげで、かの魔人教団の事件で荒廃し、ようやく復興の端緒につきはじめたカッワ・サキーの人々の生活再建のめどがたつというものです」
「ああ、そうでないと困る。そのために魔道具技術を公開したのだしな」
「はい。陛下(仮)のこのご配慮で困窮していた人々に大量の雇用を生み出し、生活を支える糧をもたらせたのですから、カッワ・サキーの者たちも、心の底から陛下(仮)への感謝の心をいだいております」
「ははは、まあ、そうだといいな」
「いいえ、そうなのです!」
ターレは、強い口調で断言した。
まあ、ターレがそういうのであれば、そうなのかもしれないが……
ターレたち、ヨックォ・ハルマではない異世界カッワ・サキーの人々が喜んでいるのには、わけがある。
例の魔道具に使われているチップの製造会社、実は経営しているのはターレなのだ。
ターレがカッワ・サキーからの資金で設立し、経営している企業、それが『ターレ・チップ工業』の正体なのだ。つまり、ヨックォ・ハルマにとっては、まったくの異世界企業。
チップの開発や製造はカッワ・サキーで行われており、そこからヨックォ・ハルマへ持ち込まれているのだ。
もちろん、カッワ・サキーにだって、もともとチップの製造技術なんてなかった。今カッワ・サキーでチップがつくられるのは、俺が異世界から生産機械ごと持ち込んで教えたからでもある。
まあ、その甲斐もあって、カッワ・サキーの方でも魔道具が大いに発達し始めている。
魔道具技術を用いて便利なものが様々に作られ、人々の生活に浸透し始めている。
それでも、製造と開発は政府の許可制にしておいたので、ウェスト王国のような無秩序な開発競争にまではなっていないが。
一方で、チップ工業がカッワ・サキーの企業だという事実は特に隠されることもなく、公けにされている。第二弾の発表の際に包み隠さず話したのだ。だが、この世界の人々はのんきというか、おおらかというか……
異世界企業だからといって『経済侵略だ!』『植民地化の尖兵だ!』と排斥運動がおきたりはしなかった。むしろ、おもしろがってターレたちカッワ・サキー出身のチップ工業の従業員たちと積極的に交流を求める人の方が多かった。
そういえば、聖女の件のときも、地球から連れてきたジュンたちのことをあっさり受け入れていたな。
この世界の人々はそういう気質なのだろう。
「それは、そうと、陛下(仮)、ひとつ気になることがあるのですが?」
「気になること?」
「はい。チップを発注してきた企業の中に、ウェスト王国外からのものと思われる注文がいくつもあるのですが」
「ほお。やはりそうか……」
まあ、想定していたことだから、驚きはない。
「もちろん、表向きはウェスト王国内に所在地がある企業からなのですが、国外勢力とつながっていて、その指示の下で、こちらにチップの製造を発注していると思われます」
ウェスト王国以外の国では基本的に民間での魔道具の製造・研究が禁止されているので、国外企業からのチップの発注はほとんどない。つまり、それでも国外からの発注があるということは、非公式に魔道具製造をしようとしているか、それとも――背後に政府や軍がいるかだ。
「ちなみに、どんな魔法用のものなんだ?」
「主に火を用いた魔法を操るためのものが多いですね。あとは土魔法用のものと水魔法用のものです」
「つまり、おもに攻撃魔法に使われる系統のものってことか……」
「はい、おそらくは。いかがいたしましょうか? 国中から発注が殺到していて、今ある発注分で手いっぱいだと言って、断りましょうか?」
「いや、別にそこまでしなくてもいいと思う。どの道、この魔道具技術では攻撃魔法用として使用するには性能が足りないしな。ま、もっとも、すこし発送を遅らせるぐらいの嫌がらせをしてもだれも文句は言わないだろうが」
「はい、では、そのように手配させていただきます」
「ああ、たのむ」
「かしこまりました」
この魔道具技術を使えば、もちろん、強力な攻撃魔法を放つことは可能だろう。
何千個何万個のチップを集めて、一斉に性能限界上限をこえる魔法を発動させたなら。ただ、そうすると、それらのチップや魔道具の回路は壊れてしまい、二度と使えなくなってしまう。
つまり、攻撃魔法の一撃におそろしく費用がかかるのだ。
どこの政府であれ、軍部であれ、兵器用魔道具の開発という夢に飛びついたとしても、その効率の悪さにすぐに気が付き、開発を断念することになるだろうというのが俺の見立てなのだ。
さて、はたしてどうなるか……




