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 俺にとってはとても長い時間が過ぎ、舞台がはね、ホール中からの拍手に包まれながら俺たちは席を立つ。


 


「では、殿下」


「ああ、たのむ」


「はい」


 


 廊下へ出た途端、俺だけ王子と別れて、影の中へ身を(ひそ)ませた。代わりに、廊下で待機していた王子の護衛官たちの中で、俺に背格好の似た者が、首から下げている黒い装置のスイッチを入れた。


 たちまち、装置から魔法が発動して、その護衛官の姿が変化する。


 その護衛官は魔法で俺そっくりになっていた。


 


 うん、これでだれも俺が入れ替わったなんて気が付かないだろう。


 


 もちろん、今この瞬間、ここで魔法が発動したわけだから、気配に敏感な者がいれば、それに気が付いたかもしれない。だが、この劇場には貴婦人たちが普段からよく出入りして、しょっちゅう水を加工する魔法が発動しているので、それらに(まぎ)れて今の魔法に気が付く者はいないだろう。たとえ、あの魔王であったとしてもだ。


 でも、さすがに、すぐ近くまでよれば、あのおバカでも魔法が使われていて、俺が入れ替わっていることに気が付くかもしれない。接近しすぎることがないように監視しつつ、必要なら介入することにしていた。


 だが、その心配は杞憂(きゆう)に終わり、あのおバカが王子たちに接近しすぎることもなく、王子たちは劇場の正面玄関へ移動し、劇場を後にしたのだった。


 それを見送ったあとに、あのおバカ自身も自分の馬車に乗り去っていった。


 


 うむ、これでこちらの方は一安心だ。


 さて、一人劇場に残った俺は、王子から頼まれた仕事をこなさなければならない。


 


 というわけで、俺は劇場の中へ引き返し、影伝いに楽屋を目指して、関係者専用の廊下を移動していった。


 楽屋にたどり着き、影から出て、並んでいる楽屋の中からあるドアをノックする。


 


 ――は~い。開いてますよ。どうぞ。


 


「失礼する」


 


 ドアを開けて楽屋に入っていった俺を出迎えたのは、粗末な衣装を着た女だった。さっきの劇で宿屋の女主人の役をしていた女優だ。


 物語の筋にはほとんど関わらず、いてもいなくても問題がないようなわき役・モブ役。演技の方も決してうまいとは言えない。


 なのに、こんな風に楽屋が与えられているのは、今は顔を墨で汚しているが、それでも隠し切れない天性の美貌(びぼう)とメリハリの()いた体つきのせいだろう。


 


「いらっしゃい」


 


 楽屋の中にはもう一人の女がおり、付き人として楽屋の主の世話をしている。こちらもさっきの舞台に上がっていたのだが、出番が終わり直後に劇場の客席に現れたとしても、おそらくだれもそのことに気が付く者はいないだろう。


 舞台の上とはまったくの別人に見える。


 さっきまでいた舞台の上では、活発で華やかな印象だった。ヒロインの友人である年若い少女だったが、今は地味でおとなしそうなどこにでもいる落ち着いた雰囲気の成人女性なのだから。


 


 楽屋の主の女優は俺の姿を目にした途端、


 


「いいわよ。ありがとう。あとは私でするわ。ちょうどお迎えが来たみたいね」


「はい。そのようです」


 


 楽屋の主にいわれ、付き人の女は手早く荷物をまとめ、立ち上がった。


 


「では、失礼いたします」


「ええ、また明日ね」


 


 そうして、楽屋の主に丁寧にお辞儀をして付き人の女は楽屋を出て行った。


 


「ねぇ、あなた、団長を探してきてくださらない? そこらあたりにいると思うから」


「ああ、わかった」


「お願いね、うふ」


 


 匂うような色気まみれのウィンクに送られて、俺も楽屋をでて、その女優の夫である劇団長を探しにでるのだった。


 


 


 

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