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私が自分の席へ戻ったころには、上演されている演目も終盤に差し掛かるところだった。
見上げると、ロイヤルボックスからお兄様が食い入るように上半身を乗り出して舞台を見つめている。
その背後でだれにも見られていないと油断しているのか、あのバカがあくびをしているのが見えていた。
ホント、間抜けづらね。
これは『ない』わね。
余計な力みが消えていった気がした。
舞台が終わり、役者たちが舞台の上で勢ぞろいで挨拶するのへ、おざなりに拍手を送りつつ、そっと見上げるとお兄様が熱心に役者たちへ拍手を送っているのが見える。今日の演目がとても気に入っているようだ。
他の観衆たちの拍手は、さほど熱狂的とはいえないのだけど……
これだと、半月もしないうちに打ち切りかしら。
残念な未来を予想しながら、役者たちが舞台の上から去るのを見送っていった。
次いで、人々の視線はロイヤルボックスへ向けられ、さっきの役者たち以上の熱い拍手に包まれながら、お兄様が退場していった。
――これなら、お兄様が舞台の上でダンスでも披露する方が、人を呼べそうね。
そう独り言ちながら、人ごみにまじって席を立った。
劇場の正面出口にたどり着くと、お兄様が王家の紋章がかかげられた馬車へ乗り込むのが見える。あのバカもそれにつづく。
あのメイドじゃないけど、やはりこの後、二人っきりで食事でもするのかしら?
二人見つめあって『君の瞳に乾杯』とか。キャ~~~~!!
ま、いいのだけど。
二人ののった馬車を見送り、私も帰路についた。
玄関ホールの隅の暗がりの中から俺はあのおバカが自分の馬車を呼び寄せ、乗り込んでいくのを見ていた。
変装してまで庶民用の席へもぐりこんでいたくせに、貴族や大商人たちしか使えないような立派な馬車に乗り込もうとしたせいで、とても目立っていることに本人は気が付いているのだろうか? しかも、馬車の側面には王室の紋章が掲げられている。
いや、きっと気が付いていないのだろうな。というか、周りの目なんて鼻からなんともおもっていないのだろう。
俺があのおバカの存在に最初に気が付いたのは、ホールの中で魔法が使われる気配を感じたからだ。
俺たちのいるフロアなら、観劇にくる婦人たち用に例の水差しがあちこちに用意されており、水差しが使われるごとに魔法が使われているのを頻繁に感じ取れるが、下の庶民用の席にはそんなものなどおかれていない。もちろん、結構高価なものだから、わざわざ持ち歩く女性たちも稀だ。
そんな中で魔法が使われれば、いやでも気が付いてしまう。
もっとも、隣の王子の方は舞台に夢中になっていて、気にも留めていなかったようだが。
そんなわけで、その魔法の気配がした方をこそっと注意していると、俺たちのいる席の方を盛んにチラチラ見上げている女を見つけた。
その後ろ姿だけでもすぐに分かった。俺がよく知っている相手だ。
あのおバカだ。
あのおバカが庶民用の席に座って、こちらを観察している。なにをしているのだろうか?
まあ、なにしているもないか。変装までしてここにいるのだから。こちらを監視しているのだろう。
念のためユリウス王子に警告しようかとも思ったが、舞台に夢中になっている王子の興をそぐのもよくないような気がして、気づかなかったことにした。
しかし、この演目は、どうなのだろう?
見渡したところ、あちこちで観客たちがあくびをしているのが目に入る。
熱心に見入っているのは王子ぐらいなものだ。
なにがそんなに気に入ったのだろうか? 俺にはさっぱりこの演目の面白さがわからないのだが?
ふぁあああ~~
おっと、失礼! 自然と俺の口元が緩んでしまった。




